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IT・科学

空回りなブレストにうんざり…スタンフォード流「アイデアの作り方」

スタンフォード大学が教える紙とハサミだけを使った授業。誰もが5分で出来る「イノベーション」の起こし方。

紙さえあればOK。PCもスマホも使わない。スタンフォード大学のブレスト術
紙さえあればOK。PCもスマホも使わない。スタンフォード大学のブレスト術

目次

 米国のスタンフォード大学は、IT企業の聖地、シリコンバレーにあります。あのグーグルの創業者も学んでいましたし、全世界から優秀な学生が集まり、「次の」スーパービジネスを作ろうと日々勉強しています。中でもデザイン思考を様々な分野に活用する超人気施設の「d.school」では、ミーティングやマーケティングの会議で使えそうなテクニックが授業に取り入れられています。

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シリコンバレーの人材供給源、スタンフォード大学のキャンパス
シリコンバレーの人材供給源、スタンフォード大学のキャンパス

「ブレスト会議」の落とし穴…

 今ではいろいろな会社で、ホワイトボードやポストイットを使って意見を言い合う「ブレスト」をしていると思いますが、いくつか落とし穴があります。

(1)みんなで壮大な夢を語り、テーマが拡散するだけで終わる
(2)偉い人が自分の武勇伝を語って終わる
(3)「アメリカでは~」「シリコンバレーでは~」と、誰かが知識をひけらかして終わる(この記事もそうですね・・・)

 そこで「d.school」で採用されているのが、実際にモノを作ってみるということ。しかも使うのは、紙とハサミ。「MacBook」も「iPhone」も使いません。とにかくプロトタイプを作って、ユーザの声を聴いて、テーマに沿って具体的な議論をする。そして、机上の空論では思いつかなかった商品の新しい側面に気づく。しかも、作業が簡単なので、偉くない人も、外国のことを知らなくても、機械が苦手でも、口べたでも、だれでも参加できるし、プロトタイプ(試作品)ができるまでの待ち時間もありません。

とにかく物を作って、感想を聞く。それがスタンフォード流
とにかく物を作って、感想を聞く。それがスタンフォード流

「はい・いいえ」で終わらない質問術

 ユーザへのヒアリングも、簡単そうに見えて奥が深い。授業の担当講師が重視するのは「3つのポイント」です。

(1)open-ended な質問をしよう!
 「はい・いいえ」だけでは答えられない質問をユーザにしよう、という意味。「このアプリを使って楽しかったですか?」とユーザに聞けば、「うんうん、別に」で終わってしまう。「このアプリを使っているとき、どんな気持ちになりましたか?」と聞けば話が広がり、思わぬニーズに気づく。

(2)ユーザテストのときは、メンバーの役割を厳格にしよう!
 アプリの説明をする役と、ユーザの反応を黙って書き留める役、に分かれよう。みんながユーザとの会話に集中してしまうと、ユーザの細かな反応や仕種を見逃す。じっと静かに記録する人のメモが後で効いてくる!?

(3)説明しすぎない、言い訳はするな!
商品をリリースした後は、ユーザ任せ。「あ、そこ触らないで」とか「ここを押してみて」と言いたい気持ちはおさえて、黙っておこう。「素の反応」にこそ真実が隠れている。

紙とハサミで「ニュースアプリを作る」

紙で作った「アプリ」
紙で作った「アプリ」

 実際には、どんな授業が行われているのか。2月にあった授業のお題は「ニュースアプリを作る」。でも、必要なプログラミング知識はゼロ。材料は紙とハサミなど身近な文房具です。

 まず、エミ先生がクラスの生徒を5人前後ずつのチームに分けました。「今までにないニュースアプリ(サイト)を作って欲しい」という課題を各チームに突きつけます。

 あるチームは茶色い長方形の画用紙を手に取って、マジックで文字を書き始めました。上の写真を見て下さい。これがスマホのアプリの「画面」という想定です。

 黒いヒモで何枚かの画用紙がくくってあります。紙に書いてある「1」「2」「3」という数字がアプリの「ボタン」です。先生や別のチームの生徒に「ユーザ」となってもらい、先ほどの3つのポイントに注意しながら、この画用紙の束を手渡して使ってもらうのです。ユーザが「1」を触ったら、1ページめくり、「2」を触ったら2ページめくる。こうやってアプリの画面の切り替えを表現するのです。

見たくないニュースは見せない

 別のチームはアプリを作る前に、「なぜ誰も新聞を読まなくなったのか」という、そもそもの議論を始めました。ポストイットを貼って色々話していると、「日々の情報量が多すぎるからだ」という結論に。ならば、ということで、一人一人のユーザにとって、【関心がないニュース】を隠してしまうニュースアプリ(サイト)を作ろうという考えになりました。

 ユーザ登録のとき、興味がないテーマ(たとえば「政治」や、嫌いな「ジャイアンツのニュース」、「テイラ-・スイフトは好きだけど、ほかのグループはイヤだ」など)を入力してもらったり、コンピューターが自動的に分析したりして(「このユーザは金融のニュースを普段読んでないな」等)、そうしたニュースが表示されたら、コンピューターが自動的に記事部分を白く覆って隠すサービスです。白い紙をハサミで四角に切ってから、セロテープでニュースサイトのトップ画面のいくつかの記事を隠して、このアイデアの「プロトタイプ(試作品)」を作りました。5分で完成。

スタンフォード大学の授業。ポストイットを貼りまくって意見を出し合う。「バカ」な意見や「当たり前」のコメントが少しずつ貼り出されると、「だったら自分も何か言えそうだ!」と参加者が増えてくる。
スタンフォード大学の授業。ポストイットを貼りまくって意見を出し合う。「バカ」な意見や「当たり前」のコメントが少しずつ貼り出されると、「だったら自分も何か言えそうだ!」と参加者が増えてくる。

意外!見えないニュースが気になる?

 これを持って、周りの生徒や先生、ゲストとして授業に来ていた会社員や大学教授にどんどん触ってもらいます。ところが、当初の狙いとは別に、隠した紙をはがそうとする人が続出しました。「隠してあるから、かえって下にあるニュースを読みたくなった」という理由です。そこで、吹き出しをつけて、隠してあるニュースの「見出し」や「その記事に関心を持っている友人の顔写真」をちょこっと表示する機能も考えました。するとチラ見したくなるのが人間なのか、みんなが、めくるめくる――。

 こうなってくると、この新しいニュースサービスは、「関心がない記事を、読んでもらえる」という想定外の機能があることに気づきます。フェイスブックやツイッターで自分と似たような人がシェアするニュースだけを読んで視野が狭くなる「フィルターバブル問題」の解消にも一役買いそうですし、「めくる」というゲーム感覚の操作を通して自分が普段避けていた記事を読む、という新しいユーザ体験を提供できます。

クラスメートのマックに紙をぺたぺた貼った。MacBookが必要とされても、こんな扱い。
クラスメートのマックに紙をぺたぺた貼った。MacBookが必要とされても、こんな扱い。


 まずはプロトタイプを作ってみる。触ってみる。そして感想を聞いてしまう。わずか5分で、出来てしまうスタンフォード流イノベーション。こういう風に、「次のグーグル」を生み出す芽を育てているのかもしれません。

 簿記や会計ソフト「弥生」の使い方、あるいは大型第二種免許を大学で教える「実学」とは、ちょっと違う、社会ですぐ使えそうな手法を学べる。そんな授業と言えそうです。

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