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「20年に1回の直木賞」 東山彰良『流』 大御所うならせた傑作

20年に1回の直木賞……先日発表された第153回直木賞を受賞した東山彰良さん「流」は、選考委員にそう激賞されました。

「流」で直木賞を受賞した東山彰良さん
「流」で直木賞を受賞した東山彰良さん 出典: 朝日新聞

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 20年に1回の直木賞……先日発表された第153回直木賞を受賞した東山彰良さん「流」は、選考委員にそう激賞されました。芥川賞のピース又吉直樹さんが注目を集めていますが、こちらも見過ごせません。台湾出身の作者が、家族のルーツと向き合った青春小説です。

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「歴史的な受賞作」

 芥川・直木賞で受賞作が発表されると、有名作家が名を連ねる選考委員が報道陣に選考の経緯などを説明します。直木賞の選考をした北方謙三さんによると、「流」は満票で選ばれました。
 北方さんはさらにベタ褒めでした。「20年に1回という素晴らしい作品。歴史的な受賞作にもなり得る。大変な商売敵を選んでしまった」

芥川賞を受賞した(右から)羽田圭介さんと又吉直樹さん、直木賞を受賞した東山彰良さん=7月16日午後8時47分、東京都千代田区、西畑志朗撮影
芥川賞を受賞した(右から)羽田圭介さんと又吉直樹さん、直木賞を受賞した東山彰良さん=7月16日午後8時47分、東京都千代田区、西畑志朗撮影 出典:朝日新聞デジタル
直木賞の選考経過を説明する北方謙三選考委員
直木賞の選考経過を説明する北方謙三選考委員 出典:芥川賞「切実さ笑い飛ばす2作品」、直木賞「20年に1回の素晴らしさ」 選考委員が講評:朝日新聞デジタル

20世紀の台湾庶民史

 大御所にここまで絶賛される「流」は、どんな作品なのでしょう。
 主人公は秋生(チョウシェン)。高校生の1975年、二つの死から物語は始まります。台湾の総統・蒋介石と、何者かに惨殺された祖父。
 秋生は祖父を殺した犯人を捜します。この祖父は、戦中に蒋介石率いる国民党に付き、共産党との内戦に敗れ台湾に渡りました。大陸では住民の大量殺害に関わり、現地には事件の記憶をとどめる石碑が残っています。

 この設定は、家族の実話を膨らませたそうです。

 実話に基づく。「石碑もある。祖父を恨む人がいるかもしれない、ということから膨らませました」
 家族の歩みをたどることで、20世紀の台湾庶民史小説にもなった。内戦を生き延びた祖父の知人に会い、「下っ端はイデオロギーを掲げて戦ったわけじゃない」と聞いた。「恩人のあの人の敵だから戦う、という原理。腑(ふ)に落ちました」
(東アジアの窓)家族のルーツ、台湾にたどる 東山彰良さん、実人生を基に小説:朝日新聞デジタル

 台北に暮らす秋生の周囲にも、戦争に翻弄された台湾の人々の姿が描かれます。
 祖父ら「外省人」は大陸に戻ることを願い、もともと台湾にいた「本省人」を見下します。日本統治時代を懐かしむ本省人もいて、秋生は彼らとの交流をきっかけに日本に興味を抱きます。
 東山さんは受賞会見で「僕が知っている1960年代後半から70年代の台湾には戦争の影が非常にあった」と語っています。

青春小説、モデルは父

 歴史の悲劇を感じさせますが、痛快なまでの青春小説です。
 けんかに明け暮れ、恋をして、挫折のなかでもがく成長物語。そんな主人公のモデルは東山さんの父親です。

 70歳を過ぎたからか、父は冗舌に語ってくれた。軍隊時代、老兵の山狩りに駆り出されたが、見つけて撃つのがいやで木陰でたばこを吹かしたこと。金属製の定規をナイフ代わりにした高校時代のけんか――。すべての話が作品に生きた。
(東アジアの窓)家族のルーツ、台湾にたどる 東山彰良さん、実人生を基に小説:朝日新聞デジタル
東山彰良「流」(講談社)
東山彰良「流」(講談社)

第153回直木賞受賞! 故郷・台湾を舞台に描く青春ミステリー この熱き奔流に、乗り遅れるなーー

台湾生まれ、日本育ち

 東山さんは1968年に台湾の台北市で生まれました。9歳で日本に移住し、福岡で育ちました。「母国語は日本語」というほど日本になじんでいます。しかし、日本にも台湾にもよりどころがない不安がありました。

【動画】第153回芥川賞・直木賞 受賞者記者会見=高橋敦撮影 出典: 又吉さん、笑いの経験が裏打ち 芥川・直木賞に3氏:朝日新聞デジタル
 台湾に生まれて日本に育った私には、アイデンティティーの問題が常にある。小さい頃から日本と台湾を行ったり来たりしていて、どちらでも「お客さん」だった。
「中国語に訳されること願う」直木賞・東山さん一問一答:朝日新聞デジタル

 揺るぎなかったのは家族の存在でした。受賞会見で「家族は確固たるアイデンティティが持てる場所」と語っています。
 
 極上のエンターテインメントでありながら、戦後70年の節目に、歴史や戦争について考えさせる直木賞作品になりました。
 芥川賞の又吉さんフィーバーを逆手にとって、東山さんは「直木賞にも注目してもらえたら丸もうけだ」と会見でおどけました。その言葉の通りに、たくさんの人に届いて欲しい小説です。

東山さんが住む福岡県の書店で「流」を手に取る来店客=7月17日、福岡市博多区の紀伊国屋書店
東山さんが住む福岡県の書店で「流」を手に取る来店客=7月17日、福岡市博多区の紀伊国屋書店 出典: 朝日新聞

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