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国立競技場、57年前は華々しく落成式 「科学の粋」「世界的水準」
総工費13億円で1958年に完成した旧国立競技場。新競技場とは対照的に、当時の新聞紙面からは、称賛と感嘆がうかがえます。

2020年東京五輪の主会場となる新国立競技場の総工費が2520億円に膨らみ、論議を呼んでいます。一方、旧国立競技場は総工費13億円で1958年3月に完成しました。設備投資主導で高度経済成長期に入っていた当時。落成式の様子を伝える当時の新聞紙面からは、国の威信をかけた立派なハコモノへの称賛と感嘆がうかがえます。
「総工費13億円」に懐疑なし 記事もイケイケ

旧国立競技場は、58年に予定されていた第3回アジア競技大会の主会場となることが決まり、戦時中の出陣学徒壮行会の会場として知られる明治神宮外苑競技場を解体して建て替えられました。すでに招致を表明していた東京五輪での使用を視野に、当時の国際水準で設計されました。
58年3月30日付の朝日新聞夕刊に、同日にあった落成式の様子を伝える記事が載っています。
「まさに“世界的水準”」「科学の粋をとりいれている」「世界一級の大スタジアム」といった美辞麗句が並び、華々しい国際競技大会の舞台としての期待が垣間見えます。

以下、当時の記事をそのまま採録します。
「国立競技場、晴れの落成式 総工費十三億円、収容人員七万人」
競技が見やすいようスタンドが従来のダ円形より丸くなっているほか、記録速報の電光板、ボタン一つでグラウンドに水をまく自動散水装置など、科学の粋をとりいれている。スタンドの下も最大限に利用され室内プール、スポーツ博物館、合宿設備、映画館、食堂などが各階に並んでいる。

「聖火に拍手わく 国立競技場の落成式」
午前九時四十分、稲田文部次官が開式のあいさつ、君が代の合唱とともにフィールド端にたつ掲揚塔に日の丸がスルスルとあがった。この掲揚塔はアムステルダム・オリンピックで織田幹雄選手が三段跳に優勝し初めて日の丸の旗をあげたのを記念、そのときの掲揚塔と同じ高さにしたものだという。来賓席には秩父宮妃殿下、松永文相をはじめ文部省や建設にあたった関東地方建設局関係者が約三百人、またスタンドには小学生やスポーツ団体がザッと一万人入場したが、「収容力七万人」のスタンドからみるとほんのひとつかみほど。
秩父宮妃殿下がトラックでテープにはさみを入れると、開場のファンファーレが高くひびく。赤色のトラックの土は雨天でも水がたまらないように、粘土を焼いたものを厚さ五センチに敷きつめてある。聖火は日本女子体育短大一年生の石川やそさんが大きな反射鏡で太陽光線を集めてタイマツに火をつけ、これを三段跳の小掛選手が高くささげてトラックを走り、聖火台にのぼった。
ここで陸連理事長浅野均一氏がうけて聖火台に点火、競技場をゆする大拍手のうちに逆円スイ形の聖火台は赤々と燃えだした。

【以上、1958年3月30日付の朝日新聞夕刊から】
新と旧、対照的な船出に
「初代」にかかった「総工費13億円」に対して、当時の紙面を見るかぎり懐疑や批判は見あたりません。2520億円に膨らんだ計画に対して批判の声が絶えない新国立競技場。新旧の競技場の船出は、対照的になっています。