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トーマスの機関車はなぜカラフル? 大井川鉄道から謎解きしてみた
子どもたちに人気のアニメ「きかんしゃトーマス」。日本では「蒸気機関車は真っ黒」が常識ですが、なぜ「トーマス」の機関車はカラフルなのでしょうか?
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子どもたちに人気のアニメ「きかんしゃトーマス」。日本では「蒸気機関車は真っ黒」が常識ですが、なぜ「トーマス」の機関車はカラフルなのでしょうか?
Hiroki Uchiyama
共同編集記者子どもたちに人気のアニメ「きかんしゃトーマス」。その格好をした本物のSLが、今年も静岡県の大井川鉄道で7日から走ります。トーマスの友達で、ボディが真っ赤なジェームスも初登場。日本では「蒸気機関車は真っ黒」が常識ですが、「トーマス」の機関車は青や赤、緑ととてもカラフルです。理由を調べてみると、「トーマス」の舞台・イギリスのソドー島(架空の島)の鉄道と、大井川鉄道に共通点がありました。
イギリスといえば、鉄道発祥の国。19世紀前半に、蒸気機関車が実用化されると、国中に鉄道の建設が進みました。第二次大戦後に国有化されるまで、鉄道会社はすべて民営でした。ロンドンやマンチェスターなど大きな都市の間には、いくつもの会社が線路を敷いて、乗客の獲得競争が起きました。鉄道会社はアピールのため、会社独自の色を機関車に塗るようになったのです。
たとえば、こちらは青く塗られた機関車。
赤い機関車もありました。
会社によって機関車の色が明らかに違います。煙などで汚れやすく、掃除は大変だったようですが、主力列車を引く機関車を彩ることで、会社のイメージを作っていたのです。
「トーマス」の世界でも、機関車の色を塗り替える話はときおり出てきます。しかし、これほどカラフルなのには、もう一つ理由があります。
それは、「トーマス」に出てくる機関車のほとんどが「お古」だということです。つまり、以前は別の鉄道会社で走っていたのです。
機関車たちは、昔の思い出話をよくします。大きな機関車のゴードンは、ソドー島に来る前は、ロンドンを発着する特急列車を引いていました。それを誇りにして、ほかの機関車に自慢します。
あるとき、ゴードンとジェームス、そして緑色の機関車ダックが、ロンドンの駅について話をしますが、まったく話が噛み合わない、というエピソードが出てきます(絵本版「ゴードン、ロンドンへ」)。ロンドンでは、鉄道会社によって駅が別々にあるものの、機関車はそれぞれ自分が以前いた会社の駅のことしか知らなかったというオチでした。
この話を元にすると、ゴードンは、先ほど紹介した青い「マラード号」を走らせていた鉄道(LNER)で、ジェームスは、赤い機関車を走らせていた鉄道(LMS)で、それぞれ働いていたことがわかります。彼らのボディの色は、どうやら元の会社から来ているようです。ダックは、大西部鉄道(GWR)で働いていました。緑色のボディには、はっきり「GWR」と書かれています。
つまり、ソドー島は、いろいろな鉄道会社で使われたお古が集められ、第二、第三の活躍をする場所だったのです。
実は、大井川鉄道もまさに同じです。「お古」の車両がたくさん走っています。別の鉄道会社で活躍した車両が、その当時の色のままで走っています。
いくつかを紹介しましょう。まずは、この電車。
関西圏にお住まいの方なら、見覚えがあるのではないでしょうか。近鉄(近畿日本鉄道)の特急列車として走っていました。現在の大井川鉄道で、主力の車両です。「むかし、大きな鉄道会社で特急として走っていた」というのはゴードンとそっくりですね。もしかしたら、ちょっと傲慢だけど頼りになる、そんなキャラクターかもしれません。
次にこの電車。
こちらは、もとは東急電鉄の通勤電車です。編成が短く、小回りの利くことから、東急で使われなくなった後、青森県のローカル線である十和田観光電鉄で働いていました。しかし、この路線が廃止されたあと、大井川鉄道に買われて、第三の人生をここで送っています。「トーマス」の世界でいえば、路線が廃止されて車庫に眠っていたところを、ソドー島に呼び出された機関車トビーをほうふつとさせます。
ほかにも、京阪電鉄や南海電鉄で活躍した車両が、その当時の塗装のままで残っています。
なぜ、色の塗り直しをしないのでしょうか。
大井川鉄道によると、積極的に元の塗装を残すという意図はなく、「塗り直しにかかるお金を節約するため」だそう。ただ、昔の塗装のままの電車を目当てに訪れる客もいるため、一石二鳥になっているそうです。
「トーマス」のSLを楽しんだ後は、ぜひ大井川鉄道で活躍する「お古の電車」も見てみてください。トーマスたちと同じように、昔の活躍を思い出しながら、小さな鉄道を楽しんで走っているかもしれません。