IT・科学
ベンチャーバブル? 世界級の起業家イベント「スラッシュ」に3千人
「バブルでは?」と指摘されているスタートアップ業界。しかし、東京で開かれた世界最大級のイベント「スラッシュ・アジア」には投資家ら3千人が集まりました。
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「バブルでは?」と指摘されているスタートアップ業界。しかし、東京で開かれた世界最大級のイベント「スラッシュ・アジア」には投資家ら3千人が集まりました。
起業家と投資家を結ぶ、欧州最大の起業イベント「Slush」(スラッシュ)。そのアジア版である「Slush Asia」が今月、東京で初めて開かれた。世界を狙う若手起業家50人が登壇し、投資家から資金を引き出そうと次々とプレゼン。昨年、ベンチャー企業への投資はリーマンショック以前の水準まで回復し、バブルを警戒する声も出始めているが、3千人が入るSlush Asiaの会場は満員だった。
4月24日、湾岸エリアの東京・青海。派手な照明がドーム型テントの舞台を照らす中、起業家たちは1社6分間という短時間で、自社の製品やサービスの優秀さをアピールする。画像分析やゲーム広告、仮想現実など、プレゼン内容は様々。共通しているのは、日本人の起業家でも全員が英語を話すことだ。
登壇した50社は、少子高齢化で縮小する国内市場ではなく、世界を目指している。投資家の狙いも同じだ。優れた技術やサービスであれば、インターネットによってFacebookやTwitter、LINEのようにわずか数年で世界展開も可能になった。ハイリターンを求める投資家の目は世界市場を狙える起業家に集まる。
集まった投資家は約100人。多い順に日本、シンガポール、米国、中国、香港、インドネシア、リトアニア。インドやロシア、台湾からの参加もあった。
スポンサーとなったコンサルティング会社「アクセンチュア」のチーフ・マーケティング・イノベーターで、Slush Asia共同CMOも務めた加治慶光さんは「今回は3千人収容の会場しかおさえられなかったが、次はより大きな規模で開催したい」と早くも来年を見据える。
Slushは、北欧フィンランドの首都ヘルシンキで毎年開催されている。元々は2008年に学生たちが始め、非営利なのが特徴だ。
フィンランドで、同国発の世界的な携帯会社「ノキア」の業績が悪化し、ついにはマイクロソフトに買収された。新たな産業の柱をつくるべく、起業家育成に国家的に力を入れている。昨年のSlushは国内外から1万4千人が集まった。人口550万人のフィンランドにとっては国を挙げてのイベントで、起業家の祭典としても欧州最大規模だ。
ヘルシンキをシリコンバレーのような起業家と投資家のハブにするため、海外展開を狙うSlushがアジアで初めて開いたのが、今回のSlush Asia。リク・マケラCEO(最高経営責任者)は会場で「正直に言って、こんなに短期間で準備できるか心配だった。日本の起業家たちのパワーを感じた」と驚いていた。
Slushの理念の一つが、起業家を増やすために、起業や新たな挑戦を尊ぶ文化をつくること。それに共感し、東京開催の仕掛け人の一人となったのが、ガンホー・オンライン・エンターテイメント創業者で会長の孫泰蔵氏だ。
ソフトバンクの孫正義氏の弟で、自らも起業家や投資家として活躍する泰蔵氏は一昨年、昨年とSlushのゲストに招かれ、現地の熱気を目の当たりにした。成功した起業家と、これから挑戦する若者らが自由に交流する場。「年に1度のイベントで終わりではない『スタートアップの生態系』」(泰蔵氏)が日本にも必要と感じたという。
Slush Asiaの会場では、ゲストとして講演する著名起業家たちに、羨望のまなざしが注がれた。彼らは降壇後、会場を散策し、若い起業家や投資家と気軽に言葉を交わしていた。DeNA創業者の南場智子氏、世界的なゲーム会社スーパーセルのイルッカ・パーナネンCEO、泰蔵氏の姿もその中にあった。
「これが私たちが目指したもの。成功した起業家が経験を伝え、投資をし、新たな起業家が生まれる。この流れはもう始まっている」
スタートアップ業界をめぐっては、昨年来、大型の投資案件や上場が相次いだ。しかし、ゲーム大手gumiが上場から3ヶ月も経たずに業績予測を13億円の黒字から4億円の赤字に大きく修正し、株価はストップ安に。「gumiショック」は過熱するベンチャー投資市場に冷や水を浴びせ、「スタートアップブームはバブルではないか」と懸念の声が相次いだ。
ジャパンベンチャーリサーチによると、2014年に、株式をまだ上場していないベンチャー企業への投資の総額は1154億円。前年比158%増となり、リーマンショック前の水準まで戻った。アベノミクスによる円安や株高で企業の国内投資が活発になり、ベンチャーキャピタル(VC)だけでなく、大企業がイノベーションを求めて投資する事例が増えた。KDDIが情報サイトのnanapiを買収したり、ニュースキュレーションのGunosyに投資したりするような動きが活発だ。
一方、投資を受けた企業数を見ると、じつは462社と右肩下がり。つまり、限られた企業に投資が集中する傾向がある。「1件あたりの投資額がこの2年で一気に上がっている。それだけ企業価値が上がって利益が見込めるようになったわけではないので、バブルといわざるを得ない」(都内のVC社員)という声も聞かれる。
投資資金の全体量は景気に左右されやすいが、起業家が育つには時間がかかる。そこにギャップが生まれ、バブル状態となる。今後、流れ込む資金量に見合うだけ、起業家の質と量はともなっていくのか。トーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬・事業統括本部長は「いまは過渡期だ」と指摘する。
「豊富な資金が流れ込むからこそ、大企業の優秀な人材が起業するようになった」。例えば、斎藤氏自身も運営に加わり、毎週都内で開かれているベンチャー事業紹介イベント「モーニングピッチ」。参加する起業家に大企業からの転身組が増え、7割に及んでいるという。
「大学生のベンチャーへのインターンも当たり前。就職先も従来型の大企業よりも、DeNAやサイバーエージェントなどのいわゆる『メガベンチャー』が人気だ。好景気になれば、投資も上場も増える。不景気になれば減るのは何度も繰り返されてきたことだが、起業やベンチャー業界を目指す人材は着実に増えている」
Slush Asiaの公式フォトギャラリーから。
On April 24th, Slush ASIA brings together people with big dreams and determination in Tokyo. The goal of the event is to light the same entrepreneurial fire in Asian youth as Slush has done in the Nordics, demystify entrepreneurship and encourage a new generation of entrepreneurs forward. Media may use the Slush photos for free, just remember to credit the photographers.