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勝負服から恋愛フェロモン? スプツニ子!の遺伝子組み替えドレス

スプツニ子!さんの新作「エイミの光るシルク」。女の子の恋心が、遺伝子組み換え技術に結びつく独特の世界観が、ドレスとなって現われます。

スプツニ子!さんによる「エイミの光るシルク」。遺伝子組み換え技術により怪しく光る=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci
スプツニ子!さんによる「エイミの光るシルク」。遺伝子組み換え技術により怪しく光る=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci

目次

 スプツニ子!さんの最新作「エイミの光るシルク」が、東京・新宿のグッチ新宿で展示されています。女の子の恋心が、遺伝子組み換え技術に結びついてしまう。スプツニ子!さんならではの世界観がドレスとなって現われています。

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「エイミの光るシルク」=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci
「エイミの光るシルク」=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci

遺伝子操作した光るシルク原料

 クラブのような暗がりのグッチ展示場の奥に、青色LEDの光を浴びて怪しげな光を放つドレスが飾られています。「エイミの光るシルク」です。このドレスは、クラゲやサンゴの蛍光たんぱくの遺伝子を組み込んだ蚕から作られた発光する繭が原料。つまり、「光るシルク」から編まれています。農業生産資源研究所(生物研=茨城・つくば市)の開発したバイオテクノロジーを原料に、京都の西陣織でドレスに仕立てました。なるほど、掛け衿が着物風です。

関連リンク:蛍光シルク、クラゲ遺伝子のカイコから 試験飼育へ:朝日新聞デジタル
「光るシルク」は黄色のフィルターを通して見ると、操作された遺伝子によって緑、赤、オレンジに発光する=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci
「光るシルク」は黄色のフィルターを通して見ると、操作された遺伝子によって緑、赤、オレンジに発光する=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci

必ず恋に落ちるドレスも構想中

「エイミの光るシルク」について語るスプツニ子さん!=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci
「エイミの光るシルク」について語るスプツニ子さん!=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci

 遺伝子までも操作できるようになった科学の進歩に、「人間は神の領域に踏み込んだ」とインスピレーションを得たスプツニ子!さん。昨年末、光るシルクでドレスを作れないかと生物研に相談し、エイミという恋する女子が勝負服として着るドレスをテーマに、約3カ月で完成させました。

 展覧会初日には、スプツニ子!さん自身が登場。「エイミという女の子が、片思いする彼の心を手に入れるためのドレスを作るため、無数の遺伝子組み換え蚕を部屋で飼う」という作品のストーリーを紹介しました。将来は光るシルクだけではなく、バラの香りがするシルクや、最新の研究で愛情や信頼感が生まれる可能性が指摘される「オキシトシン」というホルモンを含んだ「恋に落ちる(かもしれない)シルク」もつくることを構想中で、デートに着る「完璧な勝負服」の完成を目指すそうです。

「エイミの光るシルク」を制作した農業生産研究所の瀬筒秀樹さん、スプツニ子さん!、西陣織の細尾真孝さん(左から)=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci
「エイミの光るシルク」を制作した農業生産研究所の瀬筒秀樹さん、スプツニ子さん!、西陣織の細尾真孝さん(左から)=グッチ新宿(C)Courtesy of Gucci

元々は数学専攻

 遺伝子組み換えと、女子の恋心を合体させてしまったスプツニ子!さん、実は理系の女子でした。

 小学校までは日本の公立校に通い、中学からアメリカンスクールに。進学したロンドン大学での専攻は数学でした。ところが、一般教養の音楽の授業で、曲づくりに目覚め、ライブ活動を開始。音楽という自己表現ツールを手に入れてから、アーティストの道に進みました。

「スプツニ子!」(前列右から2人目)と足立区のラッパーたち=足立区提供
「スプツニ子!」(前列右から2人目)と足立区のラッパーたち=足立区提供
両親はともに数学者。自身も大学では数学科に進んだが、一般教養の音楽の授業で、曲づくりに目覚め、ライブ活動を始める。音楽という自己表現ツールを手に入れてからは、アーティストへの動きが加速する。
2014年1月4日:(フロントランナー)マサチューセッツ工科大学助教・スプツニ子!さん :朝日新聞紙面から

男性に生理を疑似体験、問題作を次々発表

 アートに目覚めた後は、「型を破るためには、まず型を知ること」と名門、英国王立芸術学院大学院を受験。「自信があったのは熱意とアイデアだけ」だったそうですが、美大卒の優等生に交じり難関を突破します。在学中は技術のある学生とチームを組んで、男性に生理を疑似体験させる「生理マシーン」など刺激的な作品を次々と制作しました。

「型を破るためには、まず型を知ること」と名門、英国王立芸術学院大学院を受験。「自信があったのは熱意とアイデアだけ」だったが、美大卒の優等生に交じって難関を突破する。「君を入れたのは、その年一番のギャンブルだった」。後に担当教官から聞かされた本音だ。
2014年1月4日:(フロントランナー)マサチューセッツ工科大学助教・スプツニ子!さん :朝日新聞紙面から

MoMAにも出展

 量子力学の論理に通じる「観測されないものは、存在しないも同じ」という考えから、動画やソーシャルメディアでの発信に力を入れてます。その動画が話題を呼び、東京都現代美術館(MOT)やニューヨーク近代美術館(MoMA)から出展依頼が舞い込むようになりました。

作品「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」のコックピットに座るスプツニ子!さん=2013年12月21日、東京都江東区の東京都現代美術館
作品「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」のコックピットに座るスプツニ子!さん=2013年12月21日、東京都江東区の東京都現代美術館
「アイデアが重要。形にするのは一人じゃなくていい」。在学中は技術のある学生とチームを組んで、男性に生理を疑似体験させる「生理マシーン」など刺激的な作品を次々と制作した。「観測されないものは、存在しないも同じ」。リケジョらしい量子力学の論理で、作品の映像を動画サイトに投稿。話題を呼び、MOTやニューヨーク近代美術館から出展依頼が舞い込んだ。
2014年1月4日:(フロントランナー)マサチューセッツ工科大学助教・スプツニ子!さん :朝日新聞紙面から

最先端の科学とコラボ

 現代アーティストですが、作品の多くは最先端の科学とのコラボから生まれています。代表作の1つ、「カラスと会話するロボット」を手がけた時は、国内外のカラス研究の専門家に会ってアイデアを形にしていきました。

マサチューセッツ工科大学メディアラボの助教でアーティストのスプツニ子!さん
マサチューセッツ工科大学メディアラボの助教でアーティストのスプツニ子!さん
アーティストもいろんな人と触れてインプットしたほうが、いい作品を生み出せると思います。以前、カラスと会話を試みる女の子をテーマに作品を作った時も、国内外のカラス研究の専門家に会ってすごく面白かったです。
2014年1月20日:(向井理・仕事の理:35)アーティスト・スプツニ子!:3:アエラ

ドラえもん+デザイン=ドラディカルデザイン」

 スプツニ子!さんが目指しているのが「ドラディカルデザイン」というものです。これは、ドラえもんとクリティカルデザインを組み合わせた造語です。そこには、問題を提案して議論を活性化させるきっかけにする「クリティカル・デザイン」(社会批評的デザイン)へのこだわりがあります。

ドラえもんのショー=2015年1月18日
ドラえもんのショー=2015年1月18日
 「ドラえもん」が、4次元ポケットから出すひみつ道具は「文明とは何か」ということを考えさせるという意味で、まさにクリティカル・デザインです。
 思い付いたのが「ドラえもん」と1970年代にイタリアで発生した社会批評デザイン運動のラディカル・デザインを合わせた造語「ドラディカル・デザイン」でした。
 クリティカル・デザインがより身近になれば、人の発想が変わり、そこから生まれる世界も変わる。アートは世界を動かす力を秘めているのです。
2014年1月4日:(フロントランナー)マサチューセッツ工科大学助教・スプツニ子!さん :朝日新聞紙面から

「起こりうる未来をデザインで提案する」

 女の子の恋心と遺伝子操作を組み合わせた、今回の展示。テクノロジーの通して、哲学的な問いを投げかけます。スプツニ子!さんは、自身の作品について、こう語っています。

 「起こりうる未来をデザインで提案する。人の発想を変えれば世界は変わる」

スプツニ子!さんの作品「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」(2013年)の展示
スプツニ子!さんの作品「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」(2013年)の展示
 目指すのは「ドラディカルデザイン」。ドラえもんとクリティカルデザインを組み合わせた造語で「起こりうる未来をデザインで提案する。人の発想を変えれば世界は変わる」との信念に基づく。
2013年7月10日:(ひと)スプツニ子!さん MITメディアラボの助教になるアーティスト:朝日新聞紙面から

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