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勝負服から恋愛フェロモン? スプツニ子!の遺伝子組み替えドレス
スプツニ子!さんの新作「エイミの光るシルク」。女の子の恋心が、遺伝子組み換え技術に結びつく独特の世界観が、ドレスとなって現われます。
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スプツニ子!さんの新作「エイミの光るシルク」。女の子の恋心が、遺伝子組み換え技術に結びつく独特の世界観が、ドレスとなって現われます。
スプツニ子!さんの最新作「エイミの光るシルク」が、東京・新宿のグッチ新宿で展示されています。女の子の恋心が、遺伝子組み換え技術に結びついてしまう。スプツニ子!さんならではの世界観がドレスとなって現われています。
クラブのような暗がりのグッチ展示場の奥に、青色LEDの光を浴びて怪しげな光を放つドレスが飾られています。「エイミの光るシルク」です。このドレスは、クラゲやサンゴの蛍光たんぱくの遺伝子を組み込んだ蚕から作られた発光する繭が原料。つまり、「光るシルク」から編まれています。農業生産資源研究所(生物研=茨城・つくば市)の開発したバイオテクノロジーを原料に、京都の西陣織でドレスに仕立てました。なるほど、掛け衿が着物風です。
遺伝子までも操作できるようになった科学の進歩に、「人間は神の領域に踏み込んだ」とインスピレーションを得たスプツニ子!さん。昨年末、光るシルクでドレスを作れないかと生物研に相談し、エイミという恋する女子が勝負服として着るドレスをテーマに、約3カ月で完成させました。
展覧会初日には、スプツニ子!さん自身が登場。「エイミという女の子が、片思いする彼の心を手に入れるためのドレスを作るため、無数の遺伝子組み換え蚕を部屋で飼う」という作品のストーリーを紹介しました。将来は光るシルクだけではなく、バラの香りがするシルクや、最新の研究で愛情や信頼感が生まれる可能性が指摘される「オキシトシン」というホルモンを含んだ「恋に落ちる(かもしれない)シルク」もつくることを構想中で、デートに着る「完璧な勝負服」の完成を目指すそうです。
遺伝子組み換えと、女子の恋心を合体させてしまったスプツニ子!さん、実は理系の女子でした。
小学校までは日本の公立校に通い、中学からアメリカンスクールに。進学したロンドン大学での専攻は数学でした。ところが、一般教養の音楽の授業で、曲づくりに目覚め、ライブ活動を開始。音楽という自己表現ツールを手に入れてから、アーティストの道に進みました。
アートに目覚めた後は、「型を破るためには、まず型を知ること」と名門、英国王立芸術学院大学院を受験。「自信があったのは熱意とアイデアだけ」だったそうですが、美大卒の優等生に交じり難関を突破します。在学中は技術のある学生とチームを組んで、男性に生理を疑似体験させる「生理マシーン」など刺激的な作品を次々と制作しました。
量子力学の論理に通じる「観測されないものは、存在しないも同じ」という考えから、動画やソーシャルメディアでの発信に力を入れてます。その動画が話題を呼び、東京都現代美術館(MOT)やニューヨーク近代美術館(MoMA)から出展依頼が舞い込むようになりました。
現代アーティストですが、作品の多くは最先端の科学とのコラボから生まれています。代表作の1つ、「カラスと会話するロボット」を手がけた時は、国内外のカラス研究の専門家に会ってアイデアを形にしていきました。
スプツニ子!さんが目指しているのが「ドラディカルデザイン」というものです。これは、ドラえもんとクリティカルデザインを組み合わせた造語です。そこには、問題を提案して議論を活性化させるきっかけにする「クリティカル・デザイン」(社会批評的デザイン)へのこだわりがあります。
女の子の恋心と遺伝子操作を組み合わせた、今回の展示。テクノロジーの通して、哲学的な問いを投げかけます。スプツニ子!さんは、自身の作品について、こう語っています。
「起こりうる未来をデザインで提案する。人の発想を変えれば世界は変わる」