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若者の絶食化、どこまで本当? 深刻なのは「結婚叶わない女性」問題

草食から絶食へ? 先月、ネットで話題になった性経験をする年齢。調査結果の訂正もあり悲喜こもごもの反応も。実際、どこまで「草食化」が進んでいるのでしょうか?

東京・渋谷の円山町のホテル街=2006年1月
東京・渋谷の円山町のホテル街=2006年1月 出典: 朝日新聞

目次

 「初体験」の高齢化進み、29歳でやっと半数が経験──。そんな調査結果が先月、報道され話題になりました。さらに、その2週間後、実は29歳は20歳の誤りだったことが判明。ネット上で大きな反響を呼びました。調査した団体は訂正後も、初体験の時期は「遅くなっている」としていますが、本当のところ、どこまで「草食化」が進んでいるのでしょうか?

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「草食から絶食へ」と思ったら・・・

 騒動の発端は、一般社団法人「日本家族計画協会」の性行動に関する調査結果でした。協会の調査では、当初、「初体験」をしている人が過半数をこえる年齢が「29歳」と発表されました。前回2012年の調査では「26歳」だったため、草食化から絶食化に進んでいると、報じられました。

 ところが、報道から2週間後、日本家族計画協会は調査結果を訂正します。「29歳」だったのは「20歳」の誤りだったと発表したのです。前回調査の結果も「26歳」から「19歳」に訂正されました。結局、2012年から2014年にかけて19歳から20歳に1歳遅くなったという結論になりました。

日本家族計画協会のホームページ
日本家族計画協会のホームページ 出典:社団法人 日本家族計画協会

「絶望した」ネットで反響、飛び交う

 日本家族計画協会の訂正騒ぎは、ネット上で大きな話題になりました。「絶食化」は性経験がないまま年を取ることを心配する人たちに、「自分だけじゃない」と、ある種の安心を与える情報だったためです。訂正によって「絶食化」とまではいえないことが判明して一転、「奈落に落とされる」「絶望した」などの反応が飛び交いました。



「草食化」発端の一つは国の調査だった

 国立社会保障・人口問題研究所は、将来の人口の推計を出すなど、国の政策立案に必要な様々なデータを収集、分析しています。性経験についても1987年から毎回、7000人以上の人に調査し、5年ごとに発表しています。

 そもそも「草食化」の発端となるデータの一つは、国立社会保障・人口問題研究所の調査によるものでした。2010年に発表した「出生動向基本調査」の中で、男性の「性経験なし」と答えた人が、初めて調査対象の全世代(18歳から34歳)で上昇したのです。

 その後、異性との交際に消極的な若者のエピソードなどが盛んに報道され、「草食化」という言葉が浸透していきました。日本家族計画協会のデータは、この流れをさらに裏付けるものだっただけに、大きな話題となりました。

新宿ゴールデン街であった「街コン」=2012年10月27日
新宿ゴールデン街であった「街コン」=2012年10月27日

草食化は進んでいるのか?

 実際、その後も「草食化」は進んでいるのでしょうか? 国立社会保障・人口問題研究所で「出生動向基本調査」を担当している岩澤美帆さんは「2016年夏以降にわかる2015年の調査結果でも、『経験なし』が増えているかどうかが焦点です」と、ちょっと慎重です。岩澤さんは「『性経験』という一部分よりも、異性との付き合い方そのものに対する意識の変化に注目するべきです」と指摘します。

結婚のハードル上がる

 「興味深いデータの一つが、女性が男性に求める結婚の条件です」と岩澤さんは言います。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、10年前に比べて、目立って増えているのが「経済力」と「職業」。その他、「家事への協力」など、女性が結婚相手に求める条件が増えている状況が読み取れます。つまり、男性側からすると、結婚のハードルが上がっているのです。

秋田市であった「千人合コン」=2012年9月29日
秋田市であった「千人合コン」=2012年9月29日

 また、岩澤さんは異性の交際相手がいない人が増えている点も見逃せないと言います。特に顕著なのが、男性で「交際している異性がいない」の割合です。2002年52.8%、2005年52.2%だったのが、2010年には61.4%と急上昇しています。

 女性も上昇していますが、2005年44.7%から2010年が49.5%と、男性ほどではありません。また、2010年の調査で男性の41.5%が「1人の生活が寂しくない」と答えた一方、女性は28.7%にとどまりました。

 岩澤さんは「男性の中で1人で生活することに違和感を持たない人が増えています。将来的には、このような意識の変化が『性経験』など様々な結果となって現れる可能性があります」としています。

阪神競馬場で開かれた婚活パーティーで、パドックを眺めながら話をする参加者ら=2009年12月19日
阪神競馬場で開かれた婚活パーティーで、パドックを眺めながら話をする参加者ら=2009年12月19日

見落とされがちだった「未婚の社会人」

 岩澤さんによると、今回、日本家族計画協会の調査が注目された背景には、未婚の社会人に関する情報が少ないという事情もあるようです。というのも、これまで、学校を卒業し就職したら数年後には結婚するのが当たり前だという風潮があったため、結婚をしない社会人の存在が見落とされがちだったからです。

 岩澤さんは「情報が少ない一方、当事者である未婚の社会人は増えており、親世代とは違う生き方をしつつある自分たちの将来について、気にしていた。その結果、特定のニュースが瞬時に拡散したのかもしれません」と見ています。

「結婚に至らない女性」

 非正規雇用の増加や、結婚相手への条件の変化、さらに1人で生活することへの抵抗感の薄れなど、人生設計の考え方が大きく変化している現代。岩澤さんが心配するのは、「結婚願望を持っていながら、結婚に至らないかもしれない女性」の存在です。

 最初から結婚をしないと決めている人は、裕福な人でもそうでない人も、それを前提に将来設計をします。男性は女性の求める結婚の条件に合わない人が増えており、1人でいることにも抵抗感がなくなっています。

 ところが、女性は先ほどの「1人の生活が寂しくない」への回答を見ても、1997年(28.3%)と、2010年(28.7%)はほとんど変わっていません。男性は1997年(37.1%)から、2010年(41.5%)にかけて増加が明らかです。

エヴァンゲリオン好きが集まった「街コン」=2014年4月12日
エヴァンゲリオン好きが集まった「街コン」=2014年4月12日

将来設計崩れた時のダメージ大きい

 岩澤さんは「今のままの結婚への考え方が変わらなければ、男女間のミスマッチは避けられず、特に女性について将来設計が狂ってしまう人が増える可能性があります」と警告します。

 今後、必要なことは何か。岩澤さんは「貯金や住居など、一人で生きていくための備えができていないと、結婚を前提にした将来設計が崩れた時のダメージは、かなり大きくなります。未婚の社会人へのケアや、結婚相手の幅を広げる支援策など、新たな対応を考える時期に来ていると言えます」と話しています。

「仮面舞踏会」を楽しむ参加者たち=2014年3月19日、鳥取市
「仮面舞踏会」を楽しむ参加者たち=2014年3月19日、鳥取市

 結婚の在り方を巡っては、東京都渋谷区が同性婚のカップルに証明書を発行するなど、様々なスタイルが認められつつあります。また、性的少数者(LGBT)の人たちについては、「夫がフルタイムで働き妻は専業主婦」などといった旧来の伝統的とされる家族に比べると、社会調査の対象とされていない部分があるのも事実です。

 未婚の社会人をはじめとして、時代の変化によって生まれた新たな生き方が浸透しつつも、旧来の価値観から抜け出せない面もある。それが、「草食」「絶食」騒動の背景にあるのかもしれません。

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