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漫☆画太郎が中野で初個展 圧倒的に危険で下品な生原稿もらえます
『珍遊記』『地獄甲子園』などで知られるマンガ家、漫☆画太郎の初めての個展が、東京・中野で開催。鬼才の危ない魅力を一目見ようと、全国の画太郎フリークが集結した。
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『珍遊記』『地獄甲子園』などで知られるマンガ家、漫☆画太郎の初めての個展が、東京・中野で開催。鬼才の危ない魅力を一目見ようと、全国の画太郎フリークが集結した。
神庭 亮介
共同編集記者『珍遊記』『地獄甲子園』などで知られる漫☆画太郎先生の初めての個展が、東京の中野ブロードウェイにあるギャラリー「pixiv Zingaro」で8月26日まで開催中だ。鬼才マンガ家の危ない魅力が凝縮された「漫☆個展」を一目見ようと、全国の画太郎フリークが集結。入場無料ということもあり、連日長蛇の列ができる人気ぶりとなっている。
ゲロに始まりウンコに終わる下品さ。野蛮なキャラクターたちが繰り出す、不条理で暴力的なギャグ。大ゴマとコピーを多用したループ展開(手抜き?)。打ち切りによる突拍子もない終了……。こうやって特徴を書き出してみると、いかにもひどいマンガのように思われるかもしれないが、実際のところ画太郎作品はひどい。ひど過ぎる。そして、ひどく面白い。
私が初めて画太郎先生の存在を知ったのは、小学生の頃。週刊少年ジャンプで連載されていた『珍遊記』をチラ見しつつ、「なんだこの絵、きったねー」と適当に読み流していた。
しかし、高校生になると、トラウマとして刻まれていた「汚い絵」の記憶が突如として復活。むさぼるように読み始めた。体内に潜伏していたウイルスが長い時間をかけてじわじわと広がり、画太郎病を発症したのだ。
残念ながら、現代医学ではこの病は治療不能。世の中へのやるかたない憤懣を抱いた人や、リビドーを持てあました若者たち、また一部のマニアの間で、重篤な感染例が多数報告されている。
画太郎先生こそ、赤塚不二夫や谷岡ヤスジにも比肩しうる、戦後ギャグマンガ界の至宝である! そう信じてやまない重症画太郎病患者の私が、先生初の個展と聞いて行かずにおられようか。開催初日の14日、お気に入りのババアTシャツを着込み、痛い視線をものともせずに会場へと向かった。
夕方。中野ブロードウェイ2階の会場には50人の行列ができていた。ピーク時には、150人が4階までとぐろを巻いて列をなしていたという。
最後尾の人には、「入場列最後尾」と書かれたイラスト入りのプラカードが手渡される。少しずつ列が進んでいくと、今度は「入場列途中」のプラカードが。待ち時間も飽きさせない工夫を感じる。
並びながら、ほかの来場者にも話を聞いてみた。
神奈川県相模原市から夫婦で来たという30代の女性は「画太郎先生のマンガからは『ババア愛』を感じますね。街を歩いていると、画太郎先生の描いたババアそっくりのおばあちゃんが結構いるんです。単なる想像ではなく、実際に見た経験を元に描いているのではないでしょうか」と話す。
画太郎先生と言えばババア。ババアと言えば、画太郎先生。念のために付け加えておくと、ここでは「ババア」という言葉をお年を召した女性への蔑称ではなく、画太郎マンガに登場する力強いキャラクター群の呼称として使用している。ともかく、画太郎先生とババアは不即不離の関係にあるのだ。
実際、過去に画太郎先生はこんな言葉を残している。
「バアさんが一階で寝て、自分が二階を仕事部屋にしています。《略》
ホント元気のいい頃は、自分のマンガの〝はやっとちりババア〟そのままの人で、ひとりで興奮しまくって、他人の言うこと一切聞かないんです。《略》
もう100歳になるのに、年寄りと見られるのが嫌だから、杖とか使わないで無理して歩くんです。だからしょちゅう、階段から落ちて青あざつくったり、血圧上がってぶっ倒れたしてました(笑)。危ないからこっちは気が気じゃなかったけど」
(「クイック・ジャパン」2001年6月号)
パワフルで奔放なババアに、身近なモデルがいたことをうかがわせる興味深い証言だ。ほとんどインタビューを受けず謎の多い画太郎先生だが、ババアへの愛憎を感じさせる凄絶な描写には、過去の介護体験が影響しているのかもしれない。
20分ほど並んで、いよいよ入場する番がやってきた。入るなり出迎えてくれたのは、『地獄甲子園』に出てくる外道高校の監督。吹き出しには「珍遊記、まんゆうき、地獄甲子園の原稿はあげちゃったので展示してねーー!!!!! クソして寝ろ!!!!!」という無慈悲な言葉が。
はうあ!!! トンガリキッズのバイブル『珍遊記』がないだって!!! 楽しみにやってきたファンをいきなり裏切るとは何たる仕打ち。まさに外道!!!
ところがどっこい。『珍遊記』も『まんゆうき』も『地獄甲子園』もちゃんとあるじゃないか。スタッフによれば、画太郎先生たっての希望で、外道監督にウソを言わせたのだとか。1回落胆させてからうれしいサプライズを仕掛けてくるとは、何ともお茶目な画太郎先生である。
過去の名作からドストエフスキー原作の『罪と罰』、最新作『ミトコンペレストロイカ』まで、100点を超える原画の数々はアウラ出まくり。ほとばしりまくり。迫力あるババアの勇姿や艶めかしい姿態はもちろん、かわいらしい女の子の絵も存分に堪能できる。
なかでも圧巻だったのは、『ハデー・ヘンドリックス物語』の生原稿。食い詰めて楽器店に忍び込んだロックバンドが、警察に包囲されながら渾身のラストライブを披露する物語だ。ハデーの蛮勇とイカれた反逆精神に、何度勇気づけられ、心のなかで喝采を送ったことか。
展示された原画からは、「ギブミーチョコ ギブミーガム おくれよおくれよ兵隊さん」と叫ぶハデヘンの歌声が聞こえてくるようだった。ブラボー!!! ブラブラボーッ!!!
客層は様々。筋金入りの愛読者とおぼしき人もいれば、ツイッターで話題になっているから来たというライトファンもいる。女子高生から親子連れまで多種多様だ。私の隣りでは、若いカップルが「天才だね、これヤバイわ」「汚ねー。怖過ぎ」「懐かし~。これ昔読んだよ」とはしゃいでいた。
会場には来場者による寄せ書きノートも置かれており、「バカヤロー」「金返せ」など、愛に満ちた賛辞で埋め尽くされていた。僭越ながら私も「画太郎先生ありがとう。生まれてきてくれて」と書き込ませていただいた。
先ほど行列で取材した女性に感想をうかがうと、「ババアのしわの一つ一つが繊細に描かれていて、とても躍動的。ひとつの芸術作品を見ているようでした」と話してくれた。
既製品の便器をアートとして発表したマルセル・デュシャンにも通じる批評的営為が……などと小賢しい能書きを垂れるつもりはさらさらない。「芸術」に感銘を受ける人がいてもいいし、先ほどのカップルのように「やべー、汚ねー、なつかしー」みたいな軽いノリでも全然OK。いかようにも解釈可能な豊穣さこそが、画太郎ワールドの真骨頂と言えるだろう。
万感の思いで会場を後にし、物販へ向かうと衝撃の事実を告げられた。午後7時までの営業のはずが、あまりの人気ぶりに売り切れ品が続出し、午後5時で閉店してしまったのだそうだ。ぶべらっ!!!
主催者側は、サイン入りコミックス60冊を用意。これとは別に、マンガを10冊以上買って「読まずに燃やします!!!」と元気よく言うと生原稿をもらえるキャンペーンも実施した。
物販には朝からサイン本や生原稿目当ての人たちが列をなし、サイン本はあっという間に品切れ。原画は残っているものの、1千冊以入荷したコミックスの方が払底し、夕方時点でいったん受け付けを締め切らざるを得なかったという。はべらっ!!!
しかし、こんなところであきらめたら、画太郎ファンの名がすたる。翌15日、私は再度会場を訪れた。正午のオープンより1時間早く来たにもかかわらず、すでに30人ほどが並んでいる。最終的には50人以上に膨らんだ。
多くの人のお目当ては、コミックス10冊でゲットできる原画のようだ。前日に引き続き本の現物がないため、予約注文して代金を払い後から送付してもらう方式がとられた。
注文書に必要事項を記入し、ジリジリしながら運命の時を待つ。正午を過ぎ、ついに物販会場へと案内された。注文書を手渡すと、スタッフの男性が「10冊以上購入されているようですけど……」と水を向けてきた。キ、キター! 今しかない!
「読まずに燃やします!!!」
元気よく答え、大きめの封筒を受け取る。このなかに生原稿が入っているのか。ドキドキ……。風に飛ばされないよう大事に胸に抱きかかえ、帰路についた。会社に着いてからと思ったが、待ちきれずに電車のなかで開封の儀。おおお~! 間違いなく『樹海少年ZOO1』の生原稿である。即座にスマホで撮影し、ツイッターとフェイスブックにアップ。大人げなく戦利品を自慢してしまった。
行列でプラカードを持たされる→展示を見る→寄せ書きする→グッズを買えずにリベンジで再度並んだ挙げ句、「読まずに燃やします!!!」と叫ぶ→生原稿をゲットしてSNSで見せびらかす……。
一連の流れには、まるでアトラクションのような楽しさがあった。画太郎先生ありがとう。そしてごめんなさい。コミックスは燃やさず、友人知人への布教活動に使わせていただきます。
結論。漫☆画太郎は「体験」である。あなたもぜひ、画太郎ワールドを体験してみてほしい。
「漫☆個展」は8月26日まで。水曜定休。「10冊買って燃やせ!!!」キャンペーンのほか、ババア抱き枕を購入し、会場スタッフに「ババアを抱きたい!!!」と言うと生原稿をもらえるキャンペーンも。21日からは、画太郎キャラに似た人に、使用済みTENGAや下書き原稿など画太郎先生のサイン入り私物をプレゼントするキャンペーンを敢行予定(いずれもなくなり次第終了)。