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阪神園芸、甲子園グラウンドキーパーの系譜 江夏も叱った土守たち

甲子園で5回に行われるグランド整備。球児の熱戦を支えているのが阪神園芸のグラウンドキーパーたちです。江夏も叱った情熱あふれる職人たち。戦前から続く阪神園芸グラウンドキーパーの系譜を振り返ります。

【左】藤本治一郎さn、【中】辻啓之介さn、【右】金沢健児さん
【左】藤本治一郎さn、【中】辻啓之介さn、【右】金沢健児さん 出典: 朝日新聞

目次

甲子園で5回に行われるグランド整備。球児の熱戦を支えているのが阪神園芸のグラウンドキーパーたちです。江夏も叱った情熱あふれる職人たち。戦前から続く阪神園芸グラウンドキーパーの系譜を振り返ります。

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つば吐いた江夏を叱った 「甲子園の土守」 藤本治一郎

「土は生きものや」が口癖だった藤本さんは1925年に甲子園球場に近い西宮市上鳴尾町に生まれました。土ぼこりを吸ってグラウンドにツバを吐いた江夏豊さんをしかり飛ばしたエピソードは語り草になっています。

甲子園の「土守」と呼ばれた藤本治一郎さん=1983年、阪神甲子園球場
甲子園の「土守」と呼ばれた藤本治一郎さん=1983年、阪神甲子園球場 出典: 朝日新聞
67年、阪神タイガースに入団したての江夏豊(えなつゆたか)(59)が土ぼこりを吸ってグラウンドにツバを吐くと、皆の前でしかりとばした。江夏は二度と吐くまいと誓う。
2007年7月2日「(ニッポン人脈記)甲子園アルバム:8 ツバ吐く江夏しかった」朝日新聞紙面から

土の配合変え、鏡のようなグラウンドに

藤本さんは15歳でグラウンドキーパーになりました。戦争中は内野の鉄傘(てっさん)をはぎ取られグラウンドはイモ畑に。戦後、藤本さんはグラウンドを蘇らせます。季節に合わせて土の配合を変え、白球が映える鏡のようなグラウンドを作り出しました。1995年に亡くなった際には、棺桶にトンボのミニチェアが入れられたそうです。

グラウンド整備で水を含み、濃い茶色になった甲子園球場の土=2013年6月5日、兵庫県西宮市
グラウンド整備で水を含み、濃い茶色になった甲子園球場の土=2013年6月5日、兵庫県西宮市 出典: 朝日新聞
季節にあわせて土の配合をかえた。雨の多い春は色あわく、日ざしの強い夏は黒々と。白球が映える鏡のようなグラウンドをつくりだす。
2007年7月2日「(ニッポン人脈記)甲子園アルバム:8 ツバ吐く江夏しかった」朝日新聞紙面から

冬芝を育て年中緑のじゅうたんに 辻啓之介

藤本治一郎さんの弟子が、藤本さんの娘さんと結婚した辻啓之介さんです。「オヤジは無口で偏屈で頑固。何も教えてくれん」という義父を目標に、芝生に情熱を注ぎました。そして、1982年から冬芝を育て年中緑のじゅうたんを誕生させました。

グラウンドの状態を確かめながら当時を振り返る阪神園芸副参与の辻啓之介さん=2003年7月18日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で
グラウンドの状態を確かめながら当時を振り返る阪神園芸副参与の辻啓之介さん=2003年7月18日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で 出典: 朝日新聞
夏だけでなく春もみずみずしい芝の上でプレーしてほしい。82年から冬芝を育てはじめた。「腹へってないか」「風邪ひいてないか」。毎朝、芝に語りかける。この植えつけで年中緑のじゅうたんが生まれた。
朝日新聞

芝の長さ、5年以上かけ研究 結論は「10ミリ」

「野球のだいご味は外野へ抜ける打球」が持論の辻さん。ボールの転がりを左右する芝の長さを研究し、5年以上かけ10ミリの結論にたどり着いたそうです。

照明塔の影が伸びる芝生は強烈な西日で照り輝いていた=2010年8月8日、矢木隆晴撮影
照明塔の影が伸びる芝生は強烈な西日で照り輝いていた=2010年8月8日、矢木隆晴撮影 出典: 朝日新聞
5ミリ、15ミリ……。試行錯誤の末、たどりついたのが10ミリ。「5年以上かかったな」
2007年7月2日「(ニッポン人脈記)甲子園アルバム:8 ツバ吐く江夏しかった」朝日新聞紙面から

20才で弟子入り、伝統受け継ぐ 金沢健児

そんな藤本さんと辻さんの後を継いでいるのが、金沢健児さんです。20才で辻さんに弟子入り。期待が大きかったからなのでしょう、当初は相当、しごかれたそうです

金沢健児さん=2007年5月9日
金沢健児さん=2007年5月9日 出典: 朝日新聞
「辻さんからすごく怒られました。バウンドが変わって選手の顔に当たったらどないする、人生終わってまうやんけ、と」
2007年7月2日「(ニッポン人脈記)甲子園アルバム:8 ツバ吐く江夏しかった」朝日新聞紙面から

球場に耕耘機 畑にように耕しほぐす 

球場への愛情はちゃんと受け継がれています。重い黒土が沈み込み、軽い砂が表面に浮いてくるのを防ぐため、金沢さんたちは、毎年、阪神タイガースの前半戦が終わった段階で約5センチ掘り返しているそうです。

グラウンドの土の「こりをとる」ため、土を掘り起こす作業をする甲子園球場のグラウンドキーパー=2014年7月11日、兵庫県西宮市、橋本弦撮影
グラウンドの土の「こりをとる」ため、土を掘り起こす作業をする甲子園球場のグラウンドキーパー=2014年7月11日、兵庫県西宮市、橋本弦撮影 出典: 朝日新聞
「この作業をした上で、8月の高校野球を迎える。少しでもいい状態で、球児にプレーして欲しいからね」。シーズンオフには25センチ掘り返す。日々の手入れが、高校野球の聖地を支えている。
2014年7月29日「(甲子園の魔物をたどって:2)鏡の土で封じ込めろ 」朝日新聞紙面から

球場を飛び出し全国へ伝授

阪神園芸のグランドキーパーたちは、自分たちの技術を多くの高校球児に役立ててもらいたいと、全国の野球部のグラウンドに出向き、無償で出張講座をしています。

試合前にグラウンドをならす整備員=2010年8月18日、阪神甲子園球場、長島一浩撮影
試合前にグラウンドをならす整備員=2010年8月18日、阪神甲子園球場、長島一浩撮影 出典: 朝日新聞
阪神甲子園球場のグラウンドキーパーが、各地の高校などの野球部にグラウンド整備のコツを無償で伝授している。3年前に始め、これまでに24校。「甲子園のようなグラウンド」が全国に広がっている。
2010年8月19日「甲子園の整備、伝授 阪神園芸、高校に出張講座 選手の守備、向上 3年で24校」朝日新聞紙面から

「トンボがきちんと使えるチームは強い」

最後に、辻さんの印象的な言葉をご紹介します。5回のグランド整備は時間との勝負でもあります。目安は5分だそうです。そしてグランド整備にかける姿勢はチームの強さにもつながっているそうです。「グラウンドをならすトンボがきちんと使えるチームは強い。それだけ守備の練習をきちんとしている証しだから」

試合終了後、球場を整備するグラウンドキーパーたち=1996年8月1日
試合終了後、球場を整備するグラウンドキーパーたち=1996年8月1日 出典: 朝日新聞
担当の阪神園芸の元キーパー辻啓之介さん(68)に聞くと「荒れているところはきちんと直す。と同時に整備は時間との戦い」といい、目安は5分だそうだ。
2013年7月25日「高知中央、狙い打ち 4強出そろう 第95回全国高校野球高知大会 第8日 /高知県 」朝日新聞紙面から

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