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感動

高校野球 白球とともに マネジャーたちの夏

 野球に限ったことではありませんが、高校野球でも出場選手はもちろん、さまざまな仲間が、それぞれの思いを胸に奮闘しています。そんなマネジャーたちのエピソードをいくつか紹介します。

2013年夏の甲子園に立った延岡学園記録員・牧野直美さん
2013年夏の甲子園に立った延岡学園記録員・牧野直美さん 出典: 朝日新聞

目次

 野球に限ったことではありませんが、高校野球でも出場選手はもちろん、さまざまな仲間が、それぞれの思いを胸に奮闘しています。マネジャーにまつわるエピソードを紹介します。

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亡きカレシの夢 甲子園 「私が代わりに行く」

2013年夏の甲子園に立った延岡学園記録員・牧野直美さん
2013年夏の甲子園に立った延岡学園記録員・牧野直美さん 出典: 朝日新聞
 【渡辺芳枝】アルプス席からの拍手に、思わず震えた。試合後のあいさつ。涙でにじんだ空に向かって、心の中で叫んだ。「マサヒロ、甲子園、楽しかったやろ」
 「マサヒロ」は初めての彼氏、藤井将宏さん。中学の入学式で一目惚(ぼ)れした。2回フラれた後の中学3年春から付き合った。野球部の中心選手で、ふと顔を上げた瞬間だけ二重になる目が好きだった。彼はよく言っていた。「甲子園に行って、プロ野球選手になる」
2013年 朝日新聞 はま風 マサヒロ、楽しかったやろ 延岡学園・牧野直美記録員

 昨夏の大会で話題になったエピソードから。マサヒロは藤井将宏さん。2010年8月に川でおぼれて14歳で亡くなりました。棺に便箋10枚の手紙を入れた牧野さんは、決めたそうです。「私が代わりに甲子園に行く」。延学は女子マネジャーを募集していませんでしたが、1年春から練習に通い、怒られながら一から野球を学びました。

 帰り道は泣いて自転車をこいだ。入部を認められたのはその年の12月。反省を書いたノートは2年半で9冊になった。
2013年 朝日新聞 はま風 マサヒロ、楽しかったやろ 延岡学園・牧野直美記録員
全国高校野球選手権、決勝を戦い終えて応援席にあいさつする延岡学園の選手たち=2013年8月22日、阪神甲子園球場
全国高校野球選手権、決勝を戦い終えて応援席にあいさつする延岡学園の選手たち=2013年8月22日、阪神甲子園球場 出典: 朝日新聞

 そして2013年夏。延学は甲子園出場を果たし、牧野さんもグラウンドに。チームは決勝まで進み前橋育英と戦って準優勝で夏を終えました。

 甲子園の全試合、「交際3カ月記念日」にもらったブレスレットを胸ポケットに入れた。決勝はベンチに座らず、最前列に立ってスコアをつけた。ホームを踏んで戻ってきた坂元に手を伸ばすと、ハイタッチしてくれた。「一緒に戦える気がして、うれしかった」
 次の恋は考えられない。「いつかどこかで会えると思うから」。代わりに、好きなものはある。「ドキドキして胸が熱くなる。野球が大好き」
2013年 朝日新聞 はま風 マサヒロ、楽しかったやろ 延岡学園・牧野直美記録員
牧野直美さん
牧野直美さん 出典: 朝日新聞
 3年間、重本浩司監督には一度もほめられなかった。それが、宮崎大会決勝のウイニングボールを贈られた。「私でいいの?と思ったけど、うれしかった」
 牧野記録員は、持ち帰った甲子園の土を、中学時代の彼氏の父に渡し、あの時の約束を果たしきった。命の重みを知り、根性のある18歳。次の世界でも、輝けるはずだ。(渡辺芳枝)
朝日新聞 (2013この一言)「諦める前にもう一歩頑張る」 延岡学園高・牧野さん 

目標はプロ 選手と女子マネ 二刀流

ノックを受ける今橋加愛さん=高知県いの町の伊野商業高校グラウンド
ノックを受ける今橋加愛さん=高知県いの町の伊野商業高校グラウンド 出典: 朝日新聞
 【広江俊輔】ノックの鋭い打球がグラウンドに飛び交う内野に、長い髪をうしろに束ねた選手がひとり。伊野商の女子マネジャー、今橋加愛さん(3年)。女子プロ野球選手を目指して男子の練習にも交じる「二刀流」だ。
2014年 朝日新聞特集
今夏の高校野球高知大会の開会式リハーサルにて。司会を務める準備をする今橋加愛さん(右)
今夏の高校野球高知大会の開会式リハーサルにて。司会を務める準備をする今橋加愛さん(右) 出典: 朝日新聞

 兄の影響で小1から野球を始めた今橋さん。高野連の規定で女子は試合に出られないが、男子とほぼ同じメニューをこなしています。一方で、体力差からどうしても一緒に練習できない時間には、ドリンク作りやデータ整理などマネジャー業をしてチームを支えます。

 「中途半端やろ。野球やるか、マネジャーやるか、どっちかにしたら」。主将の西森大樹君(3年)は2年生の春、今橋さんに厳しい言葉を投げかけた。今ではそれを後悔している。「僕らと同じ練習をこなした上、マネジャーの大変な仕事までこなしている。俺らも頑張らなきゃ、と思います」
2014年 朝日新聞特集

鼻を骨折 / 血豆つくりノック

 選手として練習に取り組む女子部員は各地にいます。こちらは、舟入高校(広島市中区)の石下奈海さん(3年)。

男子部員と一緒に練習を始める石下さん(左)=広島市中区舟入南1丁目
男子部員と一緒に練習を始める石下さん(左)=広島市中区舟入南1丁目 出典: 朝日新聞 白球の引力 それでも球児 (3)舟入・石下奈海さん
 1年の秋、練習中に打球が顔面に当たり、鼻の骨が折れた。硬式の球は硬い。球を怖がり腰が浮いていたからだった。
 「もう、かかってこいや」という気持ちで練習することにした。今は男子部員も音をあげる筋トレ「タイヤ押し」もできる。練習試合で放った安打は10本以上になった。
2014年 朝日新聞 (白球の引力 それでも球児:3)舟入・石下奈海さん 

 監督に代わりノックをするマネジャーたちもいます。

ノックをする女子マネジャーの丸山さん=福岡県久留米市西町
ノックをする女子マネジャーの丸山さん=福岡県久留米市西町 出典: 2014年 朝日新聞 女子マネ、代打ノック 久留米・丸山朋恵さん
 【張守男】マネジャーのノックが始まったのは、今年1月に名嶋正信監督(50)が通勤中の自転車で事故に遭い、腕などを負傷したことがきっかけ。3年のマネジャー丸山朋恵さん(17)が「手伝えることはないですか」と尋ねると、監督はノックや打撃練習のサポートをしてもらえないかと頼んだという。
 丸山さんは「男子部員はみんな守備の練習がしたいはず。このチームのためなら何か力になりたいと思った」。部員の練習が終わった後、バットを手に使い古したボールを打ち続け、手には血豆もできた。
2014年 朝日新聞 女子マネ、代打ノック 久留米・丸山朋恵さん 

 「お前はチーフ!」相棒の遺志継ぐ

 熊本ではこの夏、男子マネジャーのこんなエピソードが朝日新聞地域面に掲載されました。

 【成田太昭】「しゃー、行こー!」。熊本工のグラウンドにマネジャーで3年の宮本亮介(17)の声が響いた。続いて周りの選手も声を上げ、活気が生まれた。大会を間近に控え、選手も気合が入っている。
 「いいチームになった」。4月に亡くなったもう一人のマネジャー、梅本健優(けんゆう)(17)にも見せてあげたいと思った。
2014年 朝日新聞 思いを背に(下)熊本工・3年宮本亮介マネジャー 相棒の遺志継ぐ
打撃練習で積極的に声を出す熊本工の宮本亮介マネジャー=熊本市中央区の熊本工高
打撃練習で積極的に声を出す熊本工の宮本亮介マネジャー=熊本市中央区の熊本工高 出典: 2014 朝日新聞 思いを背に (下)熊本工・3年宮本亮介マネジャー 相棒の遺志継ぐ 

 宮本くんと梅本くんは男子マネジャーコンビ。リーダーシップあふれる梅本くんがチーフ、宮本くんがサブを務めチームを支えていました。ところが、思わぬことが起きてしまいます。

 新チームが始動し、秋の県大会が終わったころだった。梅本の体に異変が起きた。「息が苦しくて寝られない時があるんだ」。12月、検査入院した。急性リンパ性白血病だった。見舞いに行くと、一通の手紙を渡された。
 《日本一のマネジャーに2人で努力したかったのにお前のそばに居てやれないことは、何より申し訳ないです。(中略)でもお前のそばに俺はおる! いつでも本当いつでも気持ちはそこにおる。(中略)チーフはお前がやってくれ!(中略)お前はチーフでベンチも入って、チームを引っぱる!(中略)最高のマネジャー相棒 梅本より》
 2枚の紙にびっしりと文字が埋められていた。
2014年 朝日新聞 (思いを背に:下)熊本工・3年宮本亮介マネジャー 相棒の遺志継ぐ 

 宮本くんはクリスマスにも見舞いに行きチームの様子を話したそうですが、その数日後に梅本くんは意識を失います。

 4月26日、NHK旗大会の予選で強豪の鎮西に勝った後のミーティング。
 「今日、梅本が亡くなった」。林幸義監督(67)から伝えられた。
 つらい思いを引きずるわけにはいかなかった。梅本が行きたがっていた甲子園に行くには、2人で目指したチーム作りを自分がやるしかない。宮本は選手たちに言った。「今のままじゃ甲子園に行けない。もっとまとまりをもって、声も出して、細かいところからやっていこうよ」。初めてチームに活を入れた。
 宮本は梅本から手紙と一緒に「お守り」と書かれた紙をもらっていた。「笑顔」「俺を頼れ」など気持ちを鼓舞する言葉が箇条書きで並んでいた。
 夏の大会は記録員としてベンチに入る。「梅本ならどうするだろう」。そう考えながら、選手に声掛けしようと思っている。お守りは学生服の尻のポケットに入れておくつもりだ。苦しくなったらお守りに触って力をもらおう。
2014年 朝日新聞 (思いを背に:下)熊本工・3年宮本亮介マネジャー 相棒の遺志継ぐ
2013年夏の甲子園。優勝を決め、マウンドに集まる前橋育英の選手たち=白井伸洋撮影
2013年夏の甲子園。優勝を決め、マウンドに集まる前橋育英の選手たち=白井伸洋撮影 出典: 朝日新聞

 地方大会から甲子園へ。選手もマネジャーも順次、区切りをつけてはそれぞれの新しい目標に動き始めていくのでしょう。健闘、祈ります。

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