お金と仕事
アップルは「沈みゆく帝国」? 話題の著者に聞く(前)
ジョブズ後のアップルを200人を超える関係者のインタビューから描いた話題の書「沈みゆく帝国」。後継者のティム・クックCEOが「妄言だ」と異例の名指し批判をした著者ケイン岩谷ゆかりさんへのインタビュー。
お金と仕事
ジョブズ後のアップルを200人を超える関係者のインタビューから描いた話題の書「沈みゆく帝国」。後継者のティム・クックCEOが「妄言だ」と異例の名指し批判をした著者ケイン岩谷ゆかりさんへのインタビュー。
著者のケイン岩谷ゆかりさんは1974年、東京生まれ。父の仕事で米国暮らしが長く、ジョージタウン大学卒業後にジャーナリストに。2003年にはロイター東京支局で通信、ゲーム業界を担当。ウォールストリートジャーナルに移って2008年からサンフランシスコに配属され、アップルを担当した。
iPod開発者のアップル辞任やスティーブ・ジョブズの肝臓移植など次々とスクープを放ち、この本の執筆に集中するために退職した。
ジョブズ亡き後、アップルは偉大な企業でいられるのか。その将来の厳しさを詳細な取材で記したこの本は、3月に米国で発売されると大きな反響を読んだ。特に後継者である現CEOのティム・クックが「寝言だ」と異例の名指し批判をしたことで、さらに注目を集めた。
ジョブズの伝記「スティーブ・ジョブズ」の著者ウォルター・アイザックソンはこう評価する。
この本の出発点は「ビジョナリー・ファウンダー(明確なビジョンのある創設者)亡き後、アップルは偉大な企業でいられるのか」という疑問だ。
岩谷さんは東京に勤務していたころ、ハワード・ストリンガー時代のソニーを取材していた。偉大な企業が徐々に輝きを失いつつある中、社内外の多くの人が「盛田さんがいれば」と口にするのを聞いた。
「私はソニーの盛田さん時代を知らない。アップルならスティーブ時代からの変化を追える。偉大なファウンダー亡き後の偉大な企業がどうなるか。執筆を始めるときには、わたしもどんな結論になるか想像がつかなかった。残った人たちもとても優秀で、スティーブと長年働いてきた人たちだから」
IBM、コンパック・コンピューターを経てアップルに加わり、製造部門の効率化を担ったティム・クックは、自らを「在庫のアッティラ王」と呼んだ。アッティラ王は5世紀にフン族を率いて戦争を繰り返し、ヨーロッパ全土を脅かした。破壊者とも英雄とも称される。
岩谷さんは「ティムは有能なCEOですが、スティーブのようにイノベーティブなタイプではありません」と評す。
本書では、2人のそばで働いていた幹部職員の言葉を引用している。
スティーブ・ジョブズが長年一緒に働いた部下の中から後継者として選んだティム・クック。
「スティーブは自分が一番じゃないと駄目な人。自分を乗り越えていくようなイノベーティブなタイプをわざと選ばなかったという人もいます」と岩谷さんは言う。
以下、後編に続く。