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1年前に死んだ、あの犬のこと 山口・連続放火殺人事件

 山口県の山あいで2013年7月に5人が亡くなった連続放火殺人事件。謎の貼り紙や愛犬オリーブの突然死などが話題になりました。あれから1年。当時を振り返ります。

連続放火殺人事件の容疑者宅にあった貼り紙=山口県周南市金峰、奥正光撮影
連続放火殺人事件の容疑者宅にあった貼り紙=山口県周南市金峰、奥正光撮影 出典: 朝日新聞

目次

 山口県の山あいで2013年7月に5人が亡くなった連続放火殺人事件。謎の貼り紙や愛犬オリーブの突然死などが話題になりました。あれから1年。当時を振り返ります。

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山口・周南の連続放火殺害事件を振り返る 出典: 朝日新聞デジタル 山口5人連続殺害放火から1年 集落、再生めざす

「つけびして」謎の貼り紙

 参院選の投開票日だった2013年7月21日。開票作業が続く夜、火災発生の一報が入りました。

 消防や警察が駆けつけたところ、無職貞森誠さん(71)方と、貞森さん方から北東に50~60メートル離れた農業山本ミヤ子さん(79)方が燃えているのを発見。2軒とも全焼し、貞森さん方から2遺体、山本さん方から1遺体が見つかった。
2013年7月22日付朝日新聞 民家2軒焼け、3遺体 距離50~60メートル、放火か 山口・周南
連続放火殺人事件の容疑者宅にあった貼り紙=山口県周南市金峰、奥正光撮影
連続放火殺人事件の容疑者宅にあった貼り紙=山口県周南市金峰、奥正光撮影 出典: 朝日新聞

 同僚が選挙取材を切り上げ、集落に駆けつけて撮ったのが現場隣家のこの写真。
《つけびして 煙り喜ぶ 田舎者 かつを》
 のちに数年前に貼られたものと分かりましたが、尋常ではないムードが漂い始めました。

一夜あけ、さらに2遺体

 翌日には火災がなかった家でも2遺体を発見。 集落はマスコミと捜査関係者であふれかえりました。

報道陣の車でごったがえす金峰集落=山口県周南市金峰
報道陣の車でごったがえす金峰集落=山口県周南市金峰

 山に囲まれて携帯電話が通じず、集落内にいる同僚とすら連絡できません。衛星携帯電話が使えるのも、南東の空が開けた集落中心部の限られたスペースだけ。

5人の遺体が発見された集落。(3)は保見被告宅。ほかの数字は被害者宅=山口県周南市金峰、本社ヘリから
5人の遺体が発見された集落。(3)は保見被告宅。ほかの数字は被害者宅=山口県周南市金峰、本社ヘリから 出典: 朝日新聞

 犯人はいぜん、逃走中。深夜、真っ暗な山道を一人で運転するたび、「バットを持った男が山から出てきて道をふさいだら、怯まず逃げられるか」と何度も自問しました。

連日、現場付近を捜索する警察官=2013年7月25日午前11時19分、山口県周南市金峰
連日、現場付近を捜索する警察官=2013年7月25日午前11時19分、山口県周南市金峰 出典: 朝日新聞

「犬を助けて」

 保見被告が飼っていたゴールデンレトリバーです。推定7~8歳のオスで名前はオリーブ。被告宅から顔をのぞかせる姿がテレビで流れると、身を案じる声がネットでもリアルでも聞こえ始めました。

保見被告の愛犬だったオリーブ
保見被告の愛犬だったオリーブ 出典: 朝日新聞
 「この犬は、父の生まれ変わりだと思った」。数年前、保見容疑者に捨て犬のゴールデンレトリバーを引き取ってもらった女性は、容疑者の言葉が忘れられない。関東での左官の仕事をやめ、地元に戻って介護していた父親を亡くしたばかり。心の支えを求めているようだったという。
2013年7月27日付朝日新聞 1キロ先「やはり山に」 発生6日目、観念した様子 周南・殺人、容疑者逮捕

 5人も命を落とした事件です。緊迫したなか犬の保護問題について記事を書くか迷いました。一方で、世間の関心は高く、警察署や市には「犬を助けて」「うちでひきとりたい」といった電話も相次いでいました。
 県警関係者に取材するたび「犬は保護しないのか」と尋ねましたが、所有権の問題があり、どういう理屈でなら第3者の立場でも保護できるか考えているようでした。

保護された保見被告の愛犬オリーブ
保護された保見被告の愛犬オリーブ 出典: 朝日新聞

 そうこうしているうち、旧知の取材先から「犬が保護され金峰から降りてくる」との情報が。7月25日のことです。
 オリーブは、まったく吠えず人見知りもしない穏やかな犬でした。「事件との関係を知らない人に新たな飼い主になってもらいたい」という思いで、しっかりとした飼育設備のある団体に預けられるといい、車に乗せられ旅立っていきました。

午前9時05分 山中で男を確保 そして…

  「オリーブは無事に保護されました」。そんな記事を書こうと思った矢先、「明日が山場になるかもしれない」と連絡が。身柄確保となれば、本社に一報や写真を送らなければいけません。午前3時前に帰宅しシャワーだけ浴び、雨でも車内で衛星携帯電話が使える場所を確保するため暗闇の集落に向かいました。

捜索のため、山林に入る県警の捜査員=2013年7月26日午前8時13分、山口県周南市金峰
捜索のため、山林に入る県警の捜査員=2013年7月26日午前8時13分、山口県周南市金峰 出典: 朝日新聞

 予想通り、時折激しい雨が降る中、早朝から大規模な山狩りが始まり、男が午前9時5分に無事な姿で確保されました。

容疑者を乗せているとみられる車と警護する県警のオフロードバイク
容疑者を乗せているとみられる車と警護する県警のオフロードバイク 出典: 朝日新聞
保見光成被告
保見光成被告 出典: 朝日新聞

 ところが、予想外の展開が待っていました。

 午前9時06分 オリーブ死す

 保見容疑者が自宅で飼っていた犬が、26日午前9時6分に死んだ。保見容疑者が山中で身柄を確保された時間の1分後だった。25日、警察、周南市を通じて市内の動物愛護団体が保護。別の団体に預けられ、新たな飼い主を探すことになっていた。(寿柳聡)
2013年7月29日付朝日新聞 容疑者確保の1分後 飼い犬死ぬ

 死因は心臓発作。オリーブの死亡時刻が分単位で分かるのは、直前まで元気だったのに急変して動物病院に運ばれ、獣医師さんが看取ったから。

ポパイは生きていた

 その後、オリーブとともにポパイという犬も飼われており、地元の病院がご厚意で預かっていることも分かりました。

保護されている「ポパイ」
保護されている「ポパイ」 出典: 2013年9月26日付朝日新聞 容疑者飼育のもう一匹の犬、病院が保護 治療兼ね無期限 周南連続殺人
 保見光成容疑者の飼い犬が、同市内の動物病院で保護されている。雑種の中型犬で推定8歳のポパイ(オス)。「犬が悪いことをしたわけではない。少なくともポパイが死ぬ理由はない」として、治療を兼ねて無期限で預かることにしたという。(寿柳聡)
2013年9月26日付朝日新聞 容疑者飼育のもう一匹の犬、病院が保護 治療兼ね無期限 周南連続殺人

 被告は犬を大切にしていた一方で、集落内外でさまざまなトラブルがあったことも明らかになっています。
 オリーブは、被告の複雑な心情の「一端」を物語る存在。裁判がいつ始まるかは未定ですが、法廷では何が語られるのでしょうか。
 集落の現在の様子などは以下の記事に詳しく書いています。

 

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