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「PTA強制加入巡り提訴」  問題はどこに

PTAへの強制加入は不当だとして、熊本市内の父親が訴訟を起こしました。子どもたちを支えるための任意団体ですが、その運営を巡っては議論もあり、各地であり方を模索しているのが現状です。

出典: 朝日新聞

目次

 PTAへの強制加入は不当だとして、熊本市内の父親が訴訟を起こしました。子どもたちを支えるための任意団体ですが、その運営を巡っては議論もあり、各地であり方を模索しているのが現状です。過去に組まれた朝日新聞の特集記事などからポイントをまとめてみました。

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退会届け「受理されず」

 【籏智広太】子どもが通う小学校のPTAが任意団体であるにもかかわらず、強制加入させられたのは不当として、熊本市内の男性(57)がPTAを相手取り、会費など計約20万円の損害賠償を求める訴訟を熊本簡裁に起こした。
 訴状によると、2009年に2人の子どもが同市内の公立小学校に転校した際、PTAに同意書や契約書なしに強制加入させられ、会費を約1年半徴収されたと主張。(中略)12年に退会届を出したが、「会則の配布をもって入会の了承としている」などとして受理されなかった。
朝日新聞デジタル PTA強制加入は「不当」 父親が会費返還求め提訴

 フカボリのリクエストが来ていた案件ですが、着手前に会見という形で動きが出てしまいました。
 訴訟についての詳細はこちらで。

 2013年4月の記事で、首都大学東京准教授の木村草太氏(憲法学)が次のような指摘をしています。

  憲法21条は「結社の自由」を保障する。(中略)PTAなどの団体は、その趣旨に賛同する人が自由に結成するものであり(結社する自由)、望まない人に加入を強制してはならない(結社しない自由)、というのが憲法上の大原則になる。
 強制・自動加入体制を敷いたり、参加しない保護者に圧力をかけたりするのはやめた方がいい。会員への労役強要や非会員への心理的圧力が過大になってイジメのような事態に発展すれば、不法行為として役員やPTAが損害賠償を請求される危険すらある。
2013年4月23日朝日新聞 PTA改革、憲法の視点から 「結社しない自由」侵す強制加入 木村草太

有意義な活動もたくさん

 PTAは、親と教師が連携を深めることで子どもたちの育成をサポートする組織。通学路の安全を守ったり、イベントを行ったりと、有意義な活動がたくさん行われています。
 京都府亀岡市で2012年に集団登校中の小学生らが車にはねられ、女児2人と付き添いの保護者の計3人が死亡、児童7人が重軽傷を負った事故では、近くの小学校とPTAが自主的に看板を設置しました。

事件後、現場近くの小学校やPTAが通学路に自主的に設置した看板=京都府亀岡市、籏智広太撮影
事件後、現場近くの小学校やPTAが通学路に自主的に設置した看板=京都府亀岡市、籏智広太撮影 出典: 朝日新聞

 父親たちによる「おやじの会」も全国各地で子どもたちのために活発に活動しています。
 こちらは筆者が山口県下松市で2012年に取材した事例。子どもたちの防災意識を高める狙いです。

 下松市の久保小学校で21、22日、災害への対処法を学ぶ「防災キャンプ」があり、児童62人が参加した。体育館で寝泊まりして避難生活を模擬体験したり、消火器の使い方などを学んだりした。万一のときに子どもたちに自分自身を守る力をつけてもらい、将来の地域防災の人材になってもらおうと、父親らでつくる「久保小おやじの会」が中心になって企画。食事も夜は炊き出し訓練をし、朝は非常食を食べた。
2012年7月23日付朝日新聞 災害避難生活、児童ら体験 体育館で寝泊まり 下松の久保小
バケツリレーの練習をする子どもたち=山口県下松市の久保小学校
バケツリレーの練習をする子どもたち=山口県下松市の久保小学校

 AED(自動体外式除細動器)の使い方を実際の機器で学んだり、毛布と竹の棒で担架を作る練習をしたり。
 蒸し暑い体育館の中、お父さんたちは大変そうでしたが、それでも子どもたちと一緒に生き生きとした表情を見せていました。
 高齢者が増えゆく地域を子どもたちも加えて守る取り組み。頭が下がります。

PTA会費でエアコン?

 一方で、PTAによっては委員会や行事が多すぎたり、特定の人に役員を押しつけがちだったり。
 加えてPTA会費を学校の経費に充てる例も問題になっています。

 一部の公立高校でPTA会費などが学校経費に流用されていた問題で、文部科学省は21日、全公立高の3割弱で同様の事例があったとの調査結果を公表した。非常勤講師の報酬をPTA会費で補うなど、法令に違反するケースについてはすでに是正されたという。
 調査対象は、全都道府県・政令指定市の計67教委(3630校)。2007~11年度の5年間で、学校の管理運営にかかる経費を保護者らが負担した例があるかどうかを尋ねた。41教委が「ある」と回答。高校数は全体の27%の993校にのぼった。
2012年12月22日付朝日新聞 PTA費流用、公立高の27% 文科省、07~11年度調査
 修学旅行の下見で教員が使ったタクシー代に、学校案内の印刷代――。横浜と川崎の市立高校7校がPTA会費を学校経費に流用していたことが21日、文部科学省の調査でわかった。流用額は5年間で計約4千万円。いずれも保護者の了解は得ていたが、両市教委は「公費で負担すべき支出」としている。
2012年12月22日付朝日新聞 PTA費、5年で4000万円流用 横浜・川崎市立7高校 保護者は了解

 神奈川の記事は一例。ほかの地域でも過去の記事を調べると、グラウンドの砂を補充したり、パソコン関係の消耗品を買ったりしています。
 教室へのエアコン設置・維持費に充てた例もありました。

 学校教育法は、公立小、中学校の経費は原則、公費で負担すると定めている。ただPTAは戦後の発足当初から、学校の後援会的な性質を帯びていた。PTAを通じて保護者が学校を支援。図書を購入し、給食を実施してきた。経済成長とともに保護者負担は軽減される方向へ。1960年の地方財政法改正で、校舎の修繕費を住民に負担させることなどが禁じられた。
2012年2月26日付朝日新聞 (どうする?)PTA 反響編:下 会費が学校の「第二の財布」?
 80年代以降、義務教育費を国が負担する割合が減っていく中で、保護者負担の重要性は増した。全国学校事務職員制度研究会の植松直人事務局長は「財政難の地域ほど、保護者負担に頼っている。PTA会費が事実上、『第二の財布』になっている学校もある」と指摘する。
2012年2月26日付朝日新聞 (どうする?)PTA 反響編:下 会費が学校の「第二の財布」?

 流用やむなしの時代背景もあったようですが、近年の流用の一因には国の予算削減もあるようです。

各地で運営改善の動き

 入退会の自由を周知する動きが各地で起こっています。

 岡山市立西小学校(児童数約1300人)のPTAは、「入退会は自由」という原則を、今年度から保護者たちに知らせ始めた。「参加は任意のはずなのに、知らせないのはおかしい」という保護者の指摘などもあって、踏み切った。
 PTA会長(45)は「保護者が学校に協力する必要はある。ただ共働き世帯が増えるなか役員を嫌々引き受けたり、活動しない人を陰で非難したりといった状況を変えたかった。役員を2年経験し、運営はより効率化できるとも感じていた」
2012年1月15日付朝日新聞 (どうする?)PTA:上 「入退会は自由」 「原則知って」各地で動き
 一方で、登下校時の見守りなど子どもの安全を守る活動はPTAから切り離し、保護者全員が参加する別組織をつくる予定だ。
2012年1月15日付朝日新聞 (どうする?)PTA:上 「入退会は自由」 「原則知って」各地で動き

 運営のスリム化と透明化がひとつのカギになりそうです。

 この学校は2012年3月25日付の朝日新聞にも追跡記事が載っています。
 任意加入だと周知した後、会費を2回に分けて集めたところ、前期は94%、後期は87%の家庭が納めたといいます。
 
 非加入家庭の子への対応が課題の模様。

 「加入していない家庭の子どもたちは、PTA行事に参加できるか」。この質問に対する回答にはばらつきがあった。最も多かったのは「行事によって有料で参加できるようにする」の45%。
 (中略)例えばバザーの屋台で使う食券なら、会員には枚数制限をつけずに前売りし、食材の仕入れ量の目安にする。一方、非会員には枚数限定で当日券のみ販売する、といった意見が出ているという。
2012年3月25日付朝日新聞 (どうする?)PTA 「入退会自由」その後 非会員の行事参加に課題

 PTAは「親」と「教師」による団体。影響が子どもたちに出ないよう、どう配慮するかも工夫のしどころです。

改革 サイトで公開のPTAも

 札幌市立札苗小学校でのPTAは「議論の材料になるように」と専用ホームページを開設。
 PTA改革関連の情報を開示しています。
 開くと「原点から考え直すPTA」という文字が、まっさきに目に飛び込んできます。

 都市部なのか、過疎地なのかなど、PTA問題も学校それぞれによって事情が異なるはず。
自分たちの学校にはどういう運営が合うのか、まずは情報を集めてみてはいかがでしょうか。

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