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「お風呂が沸きました」はなぜ女性の声? 小学生が気づいた〝偏り〟

(左上から時計回りに)「お風呂が沸きました」「黄色い線の内側にお乗りください」「500メートル先高速出口です」「冷房27.5度で運転します」女性声があふれる生活の場面
(左上から時計回りに)「お風呂が沸きました」「黄色い線の内側にお乗りください」「500メートル先高速出口です」「冷房27.5度で運転します」女性声があふれる生活の場面 出典: 朝日新聞

目次

私たちの生活にあふれる自動音声。気にして耳を傾けると、その声の多くは女性です。なぜなのでしょうか。するりと私たちの日常を流れていく「声」とジェンダーの問題を取材しました。(朝日新聞記者・山下知子)

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「なんで女の人の声なの?」

6月下旬のある夜、小学4年の息子がキッチンの給湯リモコンをみつめながらつぶやきました。

「お風呂が沸きました、ってなんで女の人の声なの?」

洗い物の手が一瞬止まりました。「はて、なぜ?」

その夜から、2人で気にして自動音声を聞いてみることにしました。多くが女性の声、あるいは女性として認識される声でした。

「28度に設定しました」(エアコン)

「上りエスカレーターです」(エスカレーター)

「黄色い点字ブロックの内側までお下がりください」(地下鉄駅ホーム)

「音が鳴るまでカードをタッチしてください」(自販機)

「お金をお入れください。領収証が必要な方は……」(券売機)

もしや記者が住む東京だけ? そんなことはないだろうと思いながらも念のため、7月に九州(福岡・鹿児島)へ出張した際、当地での自動音声にも耳を傾けました。

福岡空港で搭乗を知らせる音声は女性。空港内の動く歩道で「降り口付近では、立ち止まらないでください」と注意を促してくれるのも女性。福岡から鹿児島に向かう九州新幹線の停車駅案内も女性、鹿児島空港までのバス内アナウンスも女性……。

2泊3日の出張で男性の自動音声を聞いたのは、JR鹿児島中央駅の新幹線ホームだけでした。

JR九州によると、新幹線ホームの放送の音声については、利用客が乗り場を認識しやすいように、例えば同じホームである11番線は女性、12番線は男性というように、音声の性別を使い分けているそうです。

給湯リモコン
給湯リモコン 出典: 朝日新聞

イメージする「お世話声」は

一般的に、男性よりも女性の方が声が高いとされますが、高い声の方が聞き取りやすいのでしょうか。

聴覚心理学が専門の小林まおり・愛知淑徳大学客員研究員は、男女の声による聞き取りやすさについての国内外の研究結果を分析した結果、「女性の方が聞き取りやすいとは言い切れない。話し手の個人差の方が大きく、言語によっても異なる可能性がある」と話します。

では、なぜこれほどまでに女性の声が多いのか。あれこれ検索して一人の研究者にたどり着きました。

立命館大学産業社会学部の坂田謙司・特任教授。「『音』と『声』の社会史」(法律文化社)を2024年に出版し、その中の1章で「社会に偏在する女性の声とジェンダー 自動音声はなぜ女性声なのか」を書いています。早速話を聞きに行きました。

坂田特任教授は、日常生活で人の案内を担う声を「お世話声」と名付けて考察してきました。女性が多い理由について「自動音声になる前に女性が担っていた声が、機械化後も引き継がれた」と言います。

思い返せば、「お風呂、沸いたよ」と家族に伝えるのは、父でも祖父でもなく、母か祖母でした。48歳の記者には記憶がありませんが、バスの車掌もかつて「バスガール」と言われたように女性が多数を占めていました。「エレベーターガール」という言葉もありました。

給湯リモコン、空調機、エスカレーター……。自動音声で流れるのは女性の声ばかり?
給湯リモコン、空調機、エスカレーター……。自動音声で流れるのは女性の声ばかり? 出典: 朝日新聞

その上で坂田特任教授は、社会が無意識に「女性は人のお世話をする性」であることを内包している点をあげます。

「機械は人をサポートするものであり、今の社会での女性の立ち位置と同じ。社会にすり込まれているジェンダーのポジションがあり、女性の声であることに違和感を覚えなくなっている」

腑に落ちました。

「お世話するのは女性だから」と意識して女性の声を使っているわけではなく、まさに「すりこまれている」のでしょう。だから、ルール化されているわけではないのに、そろえたように女性の声が多いーー。そして、実際、「お世話」の代表格である家事や育児時間は女性に圧倒的に偏っています。

【関連記事】「お風呂が沸きました」はなぜ女性声? 自動音声、耳を傾けてみたら

海外の〝自動音声〟は?

一方で、日本社会は、「声」が過剰なようにも感じます。

この夏、家族が暮らすカナダを訪れました。エレベーターこそ「Going down(下へ行きます)」と低めの女性の声で教えてくれましたが、券売機、セルフレジは何も言いません。

日本の駅では、トイレ案内板の上から女性の自動音声で、例えば「この下にある点字案内板の、すぐ右の角を曲がったところにある通路の奥に、入り口があります」などと案内してくれるところもあります。しかし、カナダでは全く聞きませんでした。

日本は視覚障害者に優しい社会を目指しているゆえなのか、いわゆる「おもてなし」の文化なのか。逆に、困っている人を見かけても立ち去る人が多い社会だからこそ、自動音声でフォローしているのでしょうか。

そもそも、日本社会は自動音声が過剰なのか、といった点を含め、疑問は尽きません。

NHKは「女性」?「男性」?

さて、声をめぐる探求は、NHKのAI音声にも広がりました。

7、8月の夏休みに午後2時のニュースに耳を傾けると、すべて女性でした。

ただ、これは一時的なもので、NHKによると、AI音声による「男性読み」と「女性読み」は原則、同程度になるよう運用してきたといいます。

一方で「男性読み」の音声が聞き取りにくいという意見があり、2025年春から一時的に「女性読み」のみを使用。現在は技術的な改善を施した「男性読み」の使用を一部で始めたそうです。



なぜ女性の声を採用したのかーー。関連記事では、自動音声を使う各社に、女性声を採用した理由を聞きました。

【もっと読む】なぜ女性声を採用? 各社に質問した結果 「聞き取りやすさ『差は小さい』

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