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お金と仕事

取り立てが穏やかな「ソフトヤミ金」スマホ時代、巧妙化する闇金業者

弁護士が見た〝実態〟とは

ヤミ金は逃げ道を失うまで精神的に追い込んできます(画像はイメージです)=Getty Images
ヤミ金は逃げ道を失うまで精神的に追い込んできます(画像はイメージです)=Getty Images

目次

「借りたお金を返すのは当たり前」――そう思っている方は多いでしょう。しかし、相手が違法な高金利で貸し付けるヤミ金(闇金)だった場合、その“常識”は必ずしも通用しません。ヤミ金は、違法な取り立てや脅迫によって生活そのものを破壊します。近年ではSNSやスマホアプリを利用した巧妙な手口が増えています。ヤミ金対策の最前線で闘ってきた鈴木嘉夫弁護士に、ヤミ金の実態や被害に遭ったときの対処法について詳しく伺いました。(ライター・千葉大隆)

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【弁護士プロフィール】
鈴木 嘉夫(すずき・よしお)さん

弁護士。倒産・再生を中心とした債務整理、相続を主軸に、一般民事や家事事件を幅広く取り扱っている。債務整理は、弁護士登録当初から27年間取り組んでおり、債務者の生活再建にとって、どの手続きを選択するのが最善なのかを常に考え、債務者に寄り添った解決を意識している。破産管財事件、相続財産清算人、成年後見人の事件も数多く取り扱う。
 

「ヤミ金」とは? 正規業者との決定的な違い

ーーそもそも「ヤミ金」とは具体的にどのような業者を指すのでしょうか。

「ヤミ金」とは、貸金業としての登録をせず、法律で定められた金利を大きく超えて貸し付けを行う違法業者のことです。

日本では、貸金業法によって、貸金業者は金融庁や都道府県に登録しなければなりません。登録業者かどうかは金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」から確認ができます。

正規業者は利息制限法や出資法により、取り立ても法律の範囲内で行います。たとえば出資法では、年利20%を超える貸し付けを刑事罰の対象としています。対してヤミ金は、違法な高金利や脅迫まがいの取り立てが当たり前。ときには年利1000%を超える法外な条件で貸し付けます。そもそも法律違反を前提にしたビジネスなので、一般的な常識は通用しません。


ーー違法な高金利は、いわゆる「トイチ」(10日で1割の利息)や「トサン」(10日で3割の利息)などと呼ばれるものもありますね。

こうした業者から借りた場合、契約そのものが無効になることが多く、法律上は元本すら返す必要がないのが原則です。それでも多くの人が支払い続けてしまうのは、恐怖や不安で冷静な判断ができなくなっているからなんです。
 

「目ん玉売れや」 漫画のような脅迫が現実に

ーーどのような取り立てが行われるのでしょうか。

実際に本人のところまでやって来て取り立てるケースは少ないと思いますが、1日に何回も、しつこく脅迫的な電話をかけてきます。

恐喝的な言葉で精神的に追い込んで、「もう払わなきゃいけない」と思わせるのがヤミ金の主な手口です。ひどいケースでは、本人はもちろん家族や勤務先にも危害を加えるような脅しが入るようになります。

あからさまな暴力行為はもちろん、脅迫的な電話や恐喝的な言葉は脅迫罪や恐喝罪といった犯罪行為として警察に告訴することができる場合があるので、証拠となる記録をとることが大事です。

「目ん玉売れや」「腎臓売れや」なんて、漫画の中だけだと思うでしょう? でも実際に、そのような取り立てを受けたケースがありました。玄関ドアに「借金踏み倒し」「犯罪者」と大書きした貼り紙を貼られたり、集合住宅全体にビラをまかれたりすることも過去にはありました。

 

「八尾市ヤミ金心中事件」 被害者を追い詰めた脅迫の実態

ーーそうしたヤミ金からの執拗な取り立てを受けた大阪府・八尾市の主婦が、精神的に追い詰められた末に家族で心中した「八尾市ヤミ金心中事件」(2003年)は、全国に衝撃を与えました。

この事件のニュースを初めて見たとき、「ついにこういうことが起きてしまった」という思いが込み上げました。

被害者は団地に住んでいましたが、「隣の家族に危害を加えてやる」とか「そこに住めなくしてやる」というような脅迫をされていました。職場にもしつこく電話をかけてきたり、同僚にヤミ金から借りていることを吹き込んだりするなどの嫌がらせもあったようです。

被害者は警察にも相談に行きましたが、それによりさらに嫌がらせがエスカレートしたようです。当時はヤミ金への刑罰も軽く、取り締まりが十分とは言えない時代でした。

ーー鈴木さんはこの事件で、ヤミ金業者に対して損害賠償を求めた遺族側の弁護団の一員を務めました。

刑事記録や遺書、取り立ての経緯を時系列で整理し、ヤミ金業者の責任を明確にしていきました。実行犯だけでなく、指示を出していた人物まで責任を問うため、違法業者のグループ全体を訴えたのです。

裁判では、違法な取り立てと自殺との因果関係や、恐喝の有無が争点となりました。遺書には「借りたお金は返さないといけない、迷惑をかけた」という被害者の苦しい心境が綴られており、取り立てによって心理的に追い詰められた様子が浮き彫りになりました。

ーーこの事件が、利息制限法や貸金業法の厳罰化、ヤミ金融対策法の施行につながり、2008年には利率制限を超える契約そのものを無効とし、元金部分も返還不要とする最高裁判決も出ました。

被害者と遺族の苦しみが、社会の制度を変える一歩になった。悲劇が二度と繰り返されないようにという思いは、今も私の活動の根底にあります。
 
画像はイメージです=Getty Images
画像はイメージです=Getty Images

スマホ時代の闇金業者 巧妙化する騙しのテクニック

ーー近年はスマホが普及し、インターネットやSNSを経由するヤミ金の存在や、“ソフトヤミ金”という言葉も耳にします。ヤミ金の手口も変わってきているのでしょうか。

昔は、駅前や繁華街に貼られたチラシ、街頭で配られるビラからの勧誘が多かったんです。ところが今は、スマホやSNSがヤミ金の新たな営業窓口になっています。「即日融資可能」「審査なし」といった文句を並べて、資金繰りに困っている人の心理を巧みに突いてきます。

個人同士のやり取りだと思っていたら、実は背後にヤミ金がいたということもあるので、注意が必要です。こうしたヤミ金は、口座や送金ルートから業者を辿れないように細工され、警察でも特定が難しいことがあります。

SNS経由で若い被害者も増えてきていますし、最近では高齢の方でもスマホを使いこなしているので、気軽にクリックしてして借りてしまうということもあるようです。

“ソフトヤミ金”は、取り立てがそんなに厳しくなく、「あるだけ返してくれればいい」と、一見すると穏やかな対応をするようです。でも、中身はれっきとした違法業者です。安易に連絡を取ったり情報を渡したりすれば、あっという間に相手のペースに巻き込まれます。まずは関わらないことが最大の防御策なんです。

 

ヤミ金被害に遭ってしまったら? 弁護士が伝える最善策とは

ーーもしもヤミ金からお金を借りてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。

できるだけ早く弁護士に相談してください。そうすれば解決に向けて動くことができます。ヤミ金の場合、「借りたお金は返さないといけない」などと思わずに、「返せないものは返せない」でいいんです。

ーー「お金を返さないことは犯罪になるのではないか」などと心配する人もいるようです。

だいたいの方がそうです。だから、相談に来られた方には、「ヤミ金というのは犯罪で、法律上返済する義務がないんです。取り立てをやめるように連絡をしますので安心してください」と説明するところから始まります。

弁護士に依頼があった場合、すぐにヤミ金業者に連絡を入れ、依頼者が弁護士に対応を任せたことを伝えます。この直接的なやり取りが大きな抑止力になり、多くの場合、ヤミ金業者から依頼者への連絡はやがて止まります。

怖くて電話に出てしまう人もいますが、これは逆効果です。「脅せば払う」と認定されると、嫌がらせが長引く原因になります。はっきりと「弁護士に任せています。もう払いません」と伝え、それ以上は応じないことが大切です。

警察や各機関と連携して、刑事告訴や口座凍結などの措置を取ることも可能です。業者とのやり取りや脅迫の音声・メッセージ、振込記録などは、そのまま法的手続きで有力な証拠になります。
 
画像はイメージです=Getty Images
画像はイメージです=Getty Images

ヤミ金被害から抜け出す第一歩は“誰かに話すこと”

ーー費用面が不安で弁護士への相談をためらう人も少なくないようです。

初回相談料無料や分割払いで対応できる場合もあります。法テラスや自治体の無料相談会、弁護士会の電話相談など、経済的に負担の少ない窓口も用意されています。

もちろん、そもそもヤミ金から借りることは絶対にしないでください。“おいしい話”などそうそうありません。簡単にお金を借りられると思った瞬間に、一度立ち止まって考えてほしいのです。

お金に困っても、生活再建の道は必ずあります。借金の返済にお金が必要なら、債務整理も選択肢になります。自己破産しても必要最低限の資産は手元に残せます。生活保護も必要なら利用すべきです。

とにかく一人で抱え込まず、誰かに話すことが被害から抜け出す第一歩です。早い段階での相談が、安心した生活を取り戻す最短ルートになります。

(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)
 
  ◇  ◇  ◇

【筆者プロフィール】
千葉 大隆

行政書士資格保有・編集者・ライター。1988年東京都生まれ。大学在学中から司法試験を志し、予備試験短答式試験に合格。行政書士・宅地建物取引士の資格を有し、大手法律事務所でパラリーガルとして勤務していた。「わかりにくい法律を、もっと身近に」をモットーに、相続・不動産・借金問題など多様な法律分野の執筆・編集に携わる。
  ◇  ◇  ◇

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