ネットの話題
「マジで超便利」無料のイラストサイト 描き手は「受刑者」の裏側は
「とんでもないクオリティの漫画背景と3D素材が十分すぎる量がある」と、あるイラストサイトがSNSで話題になりました。実は、刑務所で受刑者が“更生作業”として描いたイラストを使用しています。法務省と運営者、指導する漫画家を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮、朽木誠一郎)
話題になったのは、「みんなのイラストフリー素材サイト」の「いらすと本舗」。
「マジで超便利」「リクエストにも応えてくれる」「こんな安心感のある素材サイトはなかなかないから助かります」など、SNSで話題になっています。
サイトには“当サイトのイラスト等は更生作業の一環として制作し無料配布をしています。”との説明があります。
サイトの運営者である株式会社みね友善塾によれば、イラストは山口県にある「PFI刑務所・美祢(みね)社会復帰促進センター」のセンター生(受刑者)が描いたもの。
PFI刑務所とは、国(法務省)と民間企業が共に運営する刑務所のことです。美祢社会復帰促進センターには、原則、初犯・懲役3年以下・入所する時に60歳以下の受刑者が収容されます。
法務省によると、PFI刑務所では「早期の改善更生」と「再犯防止」を第一の目標に掲げ、出所後に多くの受刑者が職に就きやすいように職業訓練に力を入れています。
日本にあるPFI刑務所は全部で3施設。その中で、美祢社会復帰促進センターは2007年に日本で最初に設立されたPFI刑務所です。
同センターではイラスト制作だけでなく、地域の特産品をPRするためのチラシを作ったり、ユリの球根を栽培したりと、更生・刑務作業の内容はユニークかつ多彩です。
センター生にイラストや背景の描き方を指導しているのは、サイト「いらすと本舗」を運営しているみね友善塾代表取締役で漫画家の渋谷巧さんです。
渋谷さんによると、サイトは「センター生がゼロからプログラミングをし、イラストや背景絵を描き立ちあげました」といいます。
作業時には、「ひとつのことを手を抜かず、最後までやり遂げる」を行動指針としているそう。
「成果品をダウンロードして使ってもらうことで、『人に喜んでもらっている』『必要とされている』『がんばれば経験のない自分でもこれだけのものができるんだ』と体感し、社会復帰後にこれらの経験を活かしてほしくて作業をしてもらっています」と話します。
実際に、今年出所した人の中にも「イラストの制作を通して表現の楽しさを知った」「出所後の生活に不安があったが、作業を通じて明確な目標を持てた」などと話してくれた人たちがいて、手応えを感じているそうです。
「サイトはダウンロード数が表示されるので、作品をダウンロードし、使っていただければ、彼らの励みにも、希望の光にもなりますのでなにとぞよろしくお願いいたします」
実は、いらすと本舗には前身となるサイトがありました。
渋谷さんが2017年に立ち上げた「漫画家本舗」という漫画の背景画を販売する有料のサイトです。
斬新な取り組みだったこともあり話題になりましたが、利用者はマンガ関係者に限られ、有料ということもあってサイトのアクセス数もダウンロード数も伸び悩んだそうです。
活動を続けるうち、センター生たちから「フリーハンドで人物なども描いてみたい」という声が上がって2カ月ほどで描けるようになったこともあり、「もっと多くの人に彼らの作品を見て、知って使ってもらえるように、フリーのサイトに移行し、名前も漫画用に限定しない『いらすと本舗』としました」と話します。
「いらすと本舗」では、イラストを無料配布する代わりに広告で収入を得ています。
渋谷さんは「広告は活動資金のためで、ご了承ください。また、ご希望のイラストや3D素材がございましたらメールフォームからご連絡ください」と呼びかけています。
個人、法人を問わず利用でき、商用利用も可ですが、利用に際しては規約の確認と遵守が必要です。
「簡単に言えば、犯罪になったり誰かを著しく傷つけて訴えられたりするような作品でなければ問題ありません。R指定の漫画や、同人誌への利用についても問い合わせがありますが、これらも立派な作品だと私は思っていますので、使って頂いてけっこうです」
今回、SNSで大きな話題になったことについて渋谷さんは「サイトのアクセス数も増え、イラストを多くの人に見ていただいたことを、うれしくありがたく思っています」と話しています。
※4月3日9時41分:記事を修正しました。
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