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#6 「健康にいい」の落とし穴

「ヤクルト1000」で注目される機能性表示食品の不思議な〝正体〟

大企業の経営状況を上向かせるほどの効果があるが……。※画像はイメージ
大企業の経営状況を上向かせるほどの効果があるが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

ヤクルト社の増収増益を牽引した「ヤクルト1000」で注目される機能性表示食品。この機能性表示食品とはどのようなものか、その成り立ちや実際のところを、これまでに起きた消費者トラブルも含めて説明します。(デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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経済にも影響する「健康食品」

5月中旬、ヤクルト社が2023年3月期の決算を発表。その発表によれば、売上高は4830億円で前年比約16%増、営業利益は660億円で同約24%増、純利益は506億円で同約12%増と増収増益でした。

この結果を牽引したのは国内飲料事業で、「睡眠の質を高める」とうたう機能性表示食品「ヤクルト1000」などの売り上げが好調であることがその理由として挙げられました。このように、経済に大きな影響を与える機能性表示食品。実際にはどのような区分けなのでしょうか。

一般的には「健康食品」と認識されている機能性表示食品ですが、実は「健康食品」には明確な定義がありません。

消費者庁は『健康食品 5つの問題』というリーフレットの中で、健康食品について“錠剤・カプセル状の製品は、薬のように見えますが、「食品」であり、病気を治す効果、防ぐ効果はありません”と明言しています。

これは、定義のあいまいな健康食品全般に、病気を治したり、防いだりする効果があると誤解してしまう人がいるから。また、メーカーもそのような宣伝をする問題があります。

病気を治したり、防いだりすることがはっきりしているのは、薬機法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)で定義される医薬品です。

一方、いわゆる健康食品と呼ばれるものの中には、「機能性表示食品」「特定保健用食品(トクホ)」など、健康への効果・効能をうたっているものがあります。これらは国の定めを満たし、効果や効能をうたうこと自体に問題はありません。ただし、機能性表示食品やトクホでも、問題が起きています。

機能性表示食品の“これまで”

ある機能性表示食品について「飲むだけで体重や脂肪を減らす」などと誇大に宣伝して販売していたとして、2017年11月7日、大手メーカーを含む16社に対し、消費者庁が景品表示法違反(優良誤認)で再発防止などを求める措置命令を出しました。景品表示法というのは、簡単に言えば、ウソや大げさな広告を取り締まるものです。

この健康食品は「飲むだけで、誰でも簡単に内臓脂肪や皮下脂肪が減り、おなか周りがやせる効果が得られる」と宣伝していました。これが「ウソや大げさな広告」だったのです。

機能性表示食品は国が定めた制度。しかし、「安全性」や「機能性」「効果」は企業の自主的なチェックに委ねられています。つまり、制度自体は国が定めていますが、どこまで安全か、効果があるかは、その企業が自分で調査しているのです。

商品を売りたい企業が、売りたい商品に効果があるかどうかをチェックする、ということで、不正が起きやすい構造だと言えます。例えば前述の機能性食品は、メーカー側から提出された資料について、消費者庁が「合理的な根拠を示すものとは認められなかった」ことを指摘しているのです。

もともと機能性表示食品は2013年6月、当時の安倍晋三首相が成長戦略の一つとして打ち出したもので、実際にその市場は数千億円規模に拡大。しかし、一部の商品では届出される根拠の論文が1つだけだったり、被験者数が1群10人以下と少なかったりするものもあり、本当に健康に効果があるのかについては議論も続いています。

ちなみに、トクホ、すなわち特定保健用食品は、機能性表示食品と異なり、国が審査をしているはずのもの。有効性・安全性を消費者庁が個別に審査し、査読つきの研究雑誌に掲載されることがトクホのマークを使う条件です。しかし、そんなトクホについても、機能性食品と同じような問題が起きています。

2016年9月、消費者庁は制度開始以来、初めてトクホの販売許可を取り消しました。日本サプリメント社が「血糖値や血圧が高めな人に適した食品」として販売していた商品が、後から基準を満たしていないと判明したからです。同社には翌年、5471万円の課徴金納付命令が出されました。

消費者庁によれば、同社が指定した分析方法が間違っていたり、発売後に成分の含有量が変わったりした可能性があるとのこと。これらの健康食品には、消費者も継続的に監視の目を向ける必要があるとも言えます。

「飲むと睡眠改善」が話題だが

冒頭の「ヤクルト1000」は、この数年、社会現象と呼べるほどの注目を集めています。品薄が続き、SNSには「見つけた場所」が書き込まれ、そこに走る人々が出るほど。そんなヤクルト1000は、まさに機能性表示食品です。

同商品は「一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげる」機能、「睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める」機能をうたっています。有名タレントがヤクルト1000により「眠りが良くなった」という趣旨の発言をテレビでしたことで、話題に。

「売り切れ続出」がさらにニュースになり、注目され、SNSには多数のクチコミが生み出されました。そんなサイクルが繰り返され、2023年現在も、継続的に人気だと言えるでしょう。

ヤクルト社の公式サイトには、前述した企業側の自主的なチェックの結果が公開されています。

<進級に重要な学術試験を受験する4年次の健常な医学部生の男女(対象者94名)を2群に分け、被験食群には「Yakult(ヤクルト)1000⟨乳酸菌 シロタ株を1000億個含む飲料⟩」を、対照群には疑似飲料(味や外見は同じで、有効成分を含まないもの)を1日1本(100ml)、学術試験の8週間前から試験終了後3週間まで飲用してもらいました。>

この結果、「熟眠時間と熟眠度が増加、起床時の眠気を示すスコアで改善が認められた」「唾液中のコルチゾール濃度(ストレスがかかると上昇する)が低下した」と同社は述べています。

研究に参加した人の数をみても、信頼できる医学研究の数万、数千という単位からはかけ離れていることがわかります。また、「進級に重要な学術試験を受験する4年次の健常な医学部生の男女」が極めて偏った集団であることは否めません。

一方、消費者庁の公式サイトに掲載されたヤクルト1000の試験結果のレビューには、次のように書かれています。

<採用された文献が8報あり、肯定的な内容で一貫性のある結果が得られていることから、科学的根拠の質は十分と判断しました。しかし、研究の限界として出版バイアスの存在が否定できないため、今後さらなるエビデンスの拡充が望まれます。>
※出版バイアス:否定的な結果が出た研究が公表されにくいこと。

社会現象になった健康食品も、実際には、医薬品と比べればはるかに根拠が弱いものです。それなのに、これだけ経済に大きな影響を与えるというのは、少し不思議でもあります。

著名人が紹介しても、SNSで話題でも、それだけで鵜呑みにはできません。「効果がある」と思い込むことで、実際に健康状態が改善するプラセボ効果もあります。

この先、メーカーもより多くのデータを集め、その効果を医学的に証明しようとするはずなので、今後の発表が待たれるところです。
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世の中で「健康にいい」と言われていることや、イメージされることは、よく考え直してみたり、正しい知識を持ったりすると、実は“そうでもない”ばかりか、かえって健康から遠のいてしまうことも――。身近なトピックをフカボリします。

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