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「器用の域超えている」紙製ファミコン、驚異の出来栄えにSNS騒然
制作1000時間超、基板も再現
多くの人々が、幼い頃に楽しんだであろうゲーム機・ファミリーコンピュータ(ファミコン)。そのハード自体を、紙を使って再現した美術作家がいます。あまりに精巧な出来栄えに、「本当に紙製なの?」といった感想を述べる向きも少なくありません。驚異の逸品の制作背景について、取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
「小学生の頃夢中になって遊んだファミリーコンピュータ。万感の思いを込め、紙を素材に制作しました」。2月28日、そんな文言と合わせて、4枚の画像がツイートされました。
写っているのは、真っ白な見た目のファミコン本体です。凹凸の多い弁当箱のような外観の筐体(きょうたい)を見ると、手前側に「FAMILY COMPUTER」のロゴが刻印され、左右にコントローラーが収まっています。
小学生の頃夢中になって遊んだファミリーコンピュータ。万感の思いを込め、紙を素材に制作しました。 pic.twitter.com/CscABKss22
— manabu kosaka / 小坂学 (@coca1127) February 27, 2022
機器本体とコントローラーは、白一色のケーブルで接続され、独特のラバー感さえ伝わってくるようです。共に外側のパーツを取り外すことができ、内側には電子部品を模倣した細工が、所狭しと並んでいます。
「器用という域を超えてしまっている」「これが紙? 神としか言いようがない」。ツイートには、驚嘆のコメントが相次いで書き込まれました。
紙製ファミコンの作者は、埼玉県在住の美術作家・小坂学さん(42・ツイッター @coca1127)です。ケント紙を用いて、腕時計やスニーカーといった、身の回りの事物をかたどる創作を得意としてきました。
ファミコンは小学生の頃、友人の家に遊びに行くたび、やり込んだのだそう。お気に入りのソフトについては「ベタですが『スーパーマリオ』や『ドラゴンクエスト』シリーズ、『くにおくん』などです」と振り返ります。
昨年11月に作品を手掛け始めて以降、小坂さんは、制作過程について写真付きでツイートしてきました。同月2日には「数え切れない思い出と感謝を込めて製作します」と、ハード本体の画像と共に、決意文を投稿しています。
制作中のラジオの作品を一時中断して別の作品へ。
— manabu kosaka / 小坂学 (@coca1127) November 1, 2021
小学生の頃夢中になったゲーム機をモチーフに。今思い返すと子供の頃の日常の中心でした。友達の家に集まって日が暮れるまで色々なゲームで遊んだ事は今でも鮮明に覚えています。
数えきれない思い出と感謝を込めて制作します。 pic.twitter.com/ADvOvsUAat
作業上意識したのが「よく観察すること」といいます。外部からは見えない基板の配線にねじ穴。カセット差し込み口の微細な空洞。コントローラーのボタン類……。各部品の構造から位置関係に至るまで、実物と寸分違わぬ仕上がりです。
精緻さが際立つのが、筐体の表面に刻み込まれている表示です。横に潰れたようなフォントで書かれた「ファミリーコンピュータ」を始め、カッターで細かく切り出した文字を、一つひとつピンセットで配置していきます。
文字を固定する箇所に目盛りを打つなど、正確を期す姿勢は徹底的です。紙の上に眼があるかのような精密ぶりが、細部と全体の統一性を生み出しています。完成までには、実に1000時間超を要しました。
小坂さんがこれまでに手掛けてきた作品は、約250点にも上ります。モデルの大半が、自ら実際に使用するなどして、親しんできたものです。
例えば昨年5月に公開したパナソニック製のラジオ受信機「RF-U35」。中学生の頃、けがを負い入院した際に、母親が買ってくれた一台に着想を得ました。電源ケーブルのたわみまで、気の遠くなるような細やかさで具現化しています。
「創作の姿勢は子どもの頃から変わっていません。モノとの間にある感情を表現しています」。傍目からみると、大いに苦労しそうな工程も少なくありませんが、小坂さんは「制作は総じて幸せなもの」と言い切りました。
そして、丹精を込めた紙製ファミコンが好評を博していることについては、「全てのご感想に感謝させて頂いております。皆様、ありがとうございます」と述べています。
【関連リンク】小坂さんの作品画像を掲載したインスタグラム
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