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「コロナ禍で太りたくない」子どもたち 〝炭水化物断ち〟が招く被害

危険な「ケトジェニックダイエット」

コロナ禍でストレスが増え、「自分でコントロールできる」と体重や食事に目がいってしまう子どももいるといいます
コロナ禍でストレスが増え、「自分でコントロールできる」と体重や食事に目がいってしまう子どももいるといいます 出典: ※写真はイメージです Getty Images

目次

コロナ禍でのストレスから子どもの患者が増えている摂食障害。やりがいや気晴らしを失い、「自分でコントロールできる」と体重や食事に目がいってしまったり、「運動不足やコロナ太りに気をつけて」というささいな一言から食べるのが怖くなったり……そんな子どもも多いといいます。医師として子どもを診察している鈴木眞理さん(摂食障害協会理事長)に話を聞きました。

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摂食障害とは:ふつうに食べられなくなる心の病気。食事を制限したり、むちゃ食い後に嘔吐・下剤を乱用するなどの排出行為をしたりしてやせてしまう「神経性やせ症(拒食症)」と、むちゃ食い発作がある一方で排出行為をして体重は正常範囲の「神経性過食症(過食症)」に大きく分類されます。やせ願望や肥満恐怖があり、自己評価に体重・体型の過剰な影響があります。専門的治療が必要です。(参考:厚生労働省eヘルスネット

「子どもの1,2年の影響は大きい」

鈴木さんの外来でもコロナ禍以降、拒食症の患者が増えているといいます。一方で過食症の患者は数字としてははっきり現れていません。

全国26の医療機関では、2020年度に摂食障害で外来を受診した子どもが前年度に比べて1.6倍に増加。入院患者も1.4倍に増えました。
摂食障害の子ども急増、前年度比1.6倍に 「食べられない」理由は?

過食症はバイトのできる高校生といった過食に使えるお金がある世代で多くなりますが、「体重には変化がないので、本人が過食を打ち明けないと周りには分かりません。拒食症も過食症も、隠れて悩んでいる子どもはもっと多いでしょう」と指摘します。

子どもが打ち込んできた活動の発表会・競技会も中止されました
子どもが打ち込んできた活動の発表会・競技会も中止されました 出典: ※写真はイメージです Getty Images

子どもたちが摂食障害に陥るきっかけとして増えているのは「やりがい」「気晴らし」が失われてしまったことです。

・バレエやピアノ、部活動といった打ち込んできたものの発表会・競技会がなくなってしまった
・放課後や休みの日に友人と遊んで気晴らしができない
・ステイホームで、増えた家事やテレワークで忙しそうな家族がいて気詰まりする
・狭い家の中にひとりになってホッとする「場」がない

鈴木さんは「子どもにとっての1,2年はとても長く、影響が大きい。大人だって落ち込む状況なのに、子どもならなおさらでしょう」と指摘します。

「コロナで太りたくない」ダイエットへ

そんなコロナ禍の状況の中で、鈴木さんは「コロナ太りや運動不足に気をつけて」といったささいな一言や、SNS・インターネットの誤ったダイエット情報などが、過度な「やせ」や摂食障害へ向かわせてしまうと指摘します。

家族がダイエットしたり、糖尿病・腎臓病などで食事制限したりしていると「私も食べてはいけない」と思い込む子もいます。

鈴木さんの元にも「コロナの運動不足で太りたくないので、ネットで見た『低炭水化物ダイエット』をしようと思った」と理由を語る子が訪れたといいます。
ネットには危ないダイエット情報も流れています
ネットには危ないダイエット情報も流れています 出典: ※画像はイメージです GettyImages

分かりやすい数字を追う「達成感」も

もともと日本社会に「やせ」礼賛の文化があり、雑誌やSNSには細く見えるよう加工された写真が掲載されます。しかし海外のように「レタッチドフォト(加工写真)」と注意書きを示すこともありません。

「ダイエットはネットで調べれば自分ひとりでできます。『やせたね』と褒められることさえある。分かりやすい『数字』を追えばいいので〝達成感〟があり、大人でもハマってしまう人がいます。けれど、成長期に過度なダイエットをすることは本当に危ないんです

「ダイエットは良いこと」といった価値観から「一緒にダイエットしよう」と誘ったり、「一生懸命やってえらいね」と褒めたりする保護者もいるといいます。

ケトジェニックダイエットの危険性

近年は、ネット検索でたどりついた危険な低炭水化物ダイエット、ケトジェニックダイエットに取り組む子どもたちが増えているそうです。

とにかく炭水化物が敵なんですね。『1週間で5kgやせた』といった短期間のダイエット情報がSNSやブログなどに出ていると飛びついてしまう。医師からすると『1週間で-5kg』は『何か病気かな』と心配になるレベルです」
「悪者」にされがちな白米などの炭水化物。子どもが過度に減らすと危険です
「悪者」にされがちな白米などの炭水化物。子どもが過度に減らすと危険です 出典: ※写真はイメージです Getty Images
鈴木さんは特に、ほとんど炭水化物をとらない「ケトジェニックダイエット」の危険性を訴えます。

「本来は重症のてんかんの人のための『治療食』です。副作用が高い頻度で現れ、便秘や成長障害、骨カルシウムの減少など、たくさんの負の影響が出るため、薬物療法が進んだ今では、薬物抵抗性のてんかんを除いて使われなくなりました」と話します。

ネットでは「脂肪をエネルギーとして使うケトン体を作りましょう」と紹介され、「効率よくやせられるダイエット」のように聞こえますが、「体はぼろぼろになり、体を壊すと今度は太りやすくもなります」と指摘します。

骨格も体質も人それぞれ

BMI(身長・体重から算出する体格指数)にこだわってしまう人も多いといいますが、鈴木さんは「骨格も体質も人それぞれ。健康被害がなければ、BMIの『標準』から外れていても、おなか周りが何センチあっても問題ありません」ときっぱり。

「太っていると生活習慣病になる」と反論する人もいますが、鈴木さんは「もともと東洋人はインシュリンの出が悪く、どんなに気をつけていても糖尿病になってしまう人がいます。『全ての病気が予防できるもの』という考え方は危険です」といいます。

子どもの成長を「観察」

成長期の子どもが突然ダイエットを始めたら、保護者や周囲にいる大人たちはどうしたらいいのでしょうか。

鈴木さんは「頭ごなしに『ダメ』と言っても、逆にやりたい気持ちが増したり、隠れて続けたりするでしょう。『どうしてダイエットしたいの?』『どんなダイエットをするの?』『どれぐらいやせたいの?』と子どもの思いを聞いてみてください」とアドバイスします。
子どもの思いを聞くことが大切だといいます
子どもの思いを聞くことが大切だといいます
出典: ※画像はイメージです GettyImages
成長期は、身長・体重が伸び、骨や筋肉・脳や臓器も大きくなります。

鈴木さんは「親子で適切なヘルスリテラシーを身につけ、柱で身長を測るといったコミュニケーションをとりながら、子どもの成長をチェックしてみてはいかがでしょうか。体重が過度に減っていないか、生理が止まっていないか、監視ではないけれど『観察』はしてほしいです」とも呼びかけます。

また、子どもの行き場のない気持ちを受け止め、遠方へのドライブ、ベランダでのキャンプなど、「気晴らし」に誘うことも勧めています。

大人の意識のアップデートを

コロナの流行が落ち着き、外出できないといったストレスが減っていくことで、子どもの摂食障害の新たな患者数は減っていくだろうと想像されますが、鈴木さんは「『拒食は好きでやせているだけ』『過食が治らないのはやる気がないから』といった摂食障害への誤解や偏見は根強い」と言います。

雑誌の販売部数が伸びるからと危険なダイエット情報を出したり、修正したモデルの写真を使ったり……。それが子どもたちの心に大きく影響していることも知ってほしい。社会にいる大人の意識をアップデートすることが大切だと思います」
鈴木眞理(すずき・まり):日本摂食障害協会理事長、跡見学園女子大特任教授。
1979年、長崎大学医学部卒業。2002年から政策研究大学院大保健管理センター教授を務め、現在は名誉教授。2020年から現職。総合内科専門医・内分泌代謝科専門医・日本医師会認定産業医。摂食障害の治療と研究と同時に家族会を主催。共著に『摂食障害:見る読むクリニック』など。
鈴木さんが理事長を務め、摂食障害の情報も掲載している日本摂食障害協会のページはこちら(https://www.jafed.jp/)。
◆体験談をお寄せ下さい
コロナ禍を経て、「太るのが嫌で食べるのが怖くなった」「食事量が減った」など、子どもの「食べる」にまつわる変化はありましたか。ご意見や体験談をこちら(https://forms.gle/LzT2fKs6wzgxdrMP9)までお寄せ下さい。

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