MENU CLOSE

お金と仕事

女子サッカーエースが考える引退後 岩渕真奈選手のセカンドキャリア

「10年後まではやれない」

女子サッカー日本代表の岩渕真奈選手。現在はアーセナル・ウィメンFC所属している=スギゾー撮影
女子サッカー日本代表の岩渕真奈選手。現在はアーセナル・ウィメンFC所属している=スギゾー撮影

目次

東京五輪が始まる中、気になるのがアスリートのセカンドキャリアです。現役選手であり、サッカーの日本女子代表にも選ばれている岩渕真奈さん(28)ですが、「サッカー選手のキャリアも終盤に近づいている」と話します。「コロナの感染拡大が収まったらいろんな人に会いに行きたい」と話す岩渕さん。7月24日には第2節を迎えるサッカーの日本女子。引退後についてどう考えているのでしょうか。率直な胸の内を聞きました(ライター・小野ヒデコ)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

 

岩渕真奈(いわぶち・まな)
1993年、東京都生まれ。イングランドのアーセナル・ウィメンFC所属。ポジションはフォワード。中学生で日テレ・メニーナに入団。2012年にドイツ・女子ブンデスリーガーのホッフェンハイムに移籍し、14年にバイエルン・ミュンヘンへ移籍。17年に帰国し、INAC神戸レオネッサへ入団。21年1月からイングランド FA Woman’s Super Leagueのアストン・ヴィラLFCへ移籍。2021-2022シーズンからアーセナル・ウィメンFCでプレー。2008年から日本代表に選出。2021年東京五輪では、エースがつける「10番」で出場予定。2021年6月に初の著書『明るく 自分らしく』(KADOKAWA)を上梓。
 
サッカー・国際親善試合でメキシコ相手前半、岩渕選手は先制点を決めて、熊谷選手らと喜ぶ=2021年6月13日、伊藤進之介撮影
サッカー・国際親善試合でメキシコ相手前半、岩渕選手は先制点を決めて、熊谷選手らと喜ぶ=2021年6月13日、伊藤進之介撮影

引退後の答えは見つからないまま

――6月末に出版の『明るく 自分らしく』で、サッカー選手としてのキャリアが終盤に近づいてきたと言われていました。引退後の人生について考えていることはありますか?

正直、今はサッカーと同じくらい好きなもの、やりたいことがないんです。引退後の将来について考えはするんですけど、結局、答えが見つからないままで。

周りからは、「絶対ぶっちー(岩渕選手の愛称)何でもできるでしょ」って言われるんですけど、今、好きなことを仕事にする楽しさを感じているので、次はそんな簡単にはいかないと思います。ただ、自分らしくいられる仕事が見つかったら良いなとは思っています。

「これ」というのを見つけるためにも、色々な人に出会うことや、人とのつながりは大事だと思っています。コロナが落ち着いたら、サッカーをはじめ、サッカーとは関係のない人にも話を聞きたいです。

――セカンドキャリアはいつぐらいから考えるようになりましたか?

中学時代から、コーチなどには「サッカーだけじゃないよ」、「勉強もちゃんとやれよ」と言われてきました。サッカーだけが人生じゃないことは自分自身も気づいていますし、大人になれば誰しもが自然と気づくことなのではと思っています。

――サッカー選手として、知名度や収入もある中で、引退後、次のステージに進む不安や恐さはありますか?

ありますよ。「サッカーをやめたら何もなくなる」というのは想像できます。ある程度、やりたいことがあったら自信をもって望めると思うのですが。
今はセカンドキャリアについて何にも想像がつかないので、これから2、3年、サッカー選手として活動する間に見つけたいと思っています。

音楽やゲーム、読書は、人並み程度にすると話す岩渕選手
音楽やゲーム、読書は、人並み程度にすると話す岩渕選手 出典: スギゾー。

10年後も現役でいる可能性は低い

――サッカーを始めたとき、「何歳まで競技を続けるか」について考えていましたか?

考えてなかったし、なんなら、「25歳までに子どもを産んで」とか思っていました。引退後について悩むのは、こうして第一線でプレーできる場にいるからこそだと思っています。

――澤穂希さんは30代後半まで現役を続けられました 。10年後までプレーしている可能性はありますか?

それは絶対ないです。そんなにやれないです(笑)

――澤さんと連絡を取り合うこともあるのでしょうか?

連絡は取っています。最近だと「五輪に向けてがんばって」と言われました。競技以外の話も含めて色々と話をしています。

――元アスリートの方の中で、現役時代は競技の世界のことしか知らなかったという声を聞くことがあります。スポーツ以外のことを知るには、敢えて外に目を向ける必要があるのでしょうか?

人によると思いますし、個人スポーツ、チームスポーツでも違うと思います。サッカーに全力を注いでいる人もいれば、自分みたいにサッカー80%で、あとの20%はフワフワしている人間もいるので。

――「あとの20%」は何で構成されているのですか?

なんですかね、わからないですけど(笑)サッカーは大好きですが、100%サッカー人間だとは自分では思わないです。

現役時代も引退後も「人と関わることは大事だと思っています」と話す岩渕選手
現役時代も引退後も「人と関わることは大事だと思っています」と話す岩渕選手 出典: スギゾー。

動画編集にチャレンジ

――今年の2月に、公式アプリ「MANA IWABUCHI」をリリースされました。主に有料会員向けに、ご自身で撮られた動画や、ブログなどを発信しています。始めてみての感想はいかがですか?

応援してくれる人を近くに感じられるので、発信をがんばりたいなと思いました。シューズなどのプレゼント企画をすると、とてもよろこんでもらえるので、サッカー選手としてはもちろん、アプリの更新も、がんばんなきゃなと思います。いただいたコメントは全部読んでいます!

――動画では、料理をしている様子や、イギリスのスーパーに売られているお気に入りのお菓子の紹介など、「素」の岩渕選手を見ることができます。これらの企画はすべてご自身が考えられているのですか。

はい、企画から、撮影、編集を自分でしています。動画編集は初めてだったんですが、自分でやり方を調べて、挑戦しました。

コロナ禍なので、イギリスでは練習後、シャワーも浴びずに家に帰ることになっています。ロックダウンも続いたので、動画の「ネタ」には正直困っています。編集でテロップを入れているのですが、毎回「面白いのかな、この動画」と思って作業しています(笑)。

「食べ物は、お肉も魚もチョコレートも好き。体重制限は気にしていないです。好きなものを食べています」
「食べ物は、お肉も魚もチョコレートも好き。体重制限は気にしていないです。好きなものを食べています」 出典: スギゾー。

「本当に偽れない人間だと思う」

――岩渕選手の動画は、「よく見せよう」などの力みが感じられず、ありのままの姿なのが特徴的だと思いました。

偽れないです。これは元々の性格です。すぐに感情が顔に出るし、本当に偽れない人間だと思います。もちろん嫌われたくないので、うまくやるときもあります。だからと言って、100%自分らしくない姿を演じるかといったら、そうではないという感じです。

――フィールド上では見られない岩渕選手の一面を、アプリ内では垣間見られると思いました。選手として、パーソナルな部分を見せることで、よりファンが増えるのではないでしょうか。

それはあまり意識していないですね。ただ、アプリの会員登録をしてくれている人に、自分の発信をよろこんでもらえたらうれしいです。

著書の『明るく 自分らしく』について「進む道に迷っている人、自分に自信がない人などに読んでもらいたいですね」(岩渕選手)
著書の『明るく 自分らしく』について「進む道に迷っている人、自分に自信がない人などに読んでもらいたいですね」(岩渕選手) 出典: スギゾー。

楽しく、明るく生きていきたい

――最近、SNSで発信をするアスリートの方が増えていると感じます。SNSは誹謗中傷が起きやすい環境でもあります。発信の際に気を付けていることはありますか。

SNSに関しては、本当に難しく、何か良いか、何が正解か、わからない世の中だと思います。その中で、まずは、自分の発言にしっかり責任を持つのが大事だと思っています。

これまで激しく批判を受けたことはあまりないですが、色々と言ってくる人はいます。その一方で、理解してくれる人もいるので、その人たちのことを大切に、自分なりにSNSを使っていけたらと思います。

――今後、サッカー選手として、そして一個人としてどうありたいか、ビジョンや挑戦したいことがあったら教えてください。

サッカー選手としては、2023年オーストラリア・ニュージランドのワールドカップと、2024年のパリ五輪をしっかり目指したいと思っています。そこで活躍して結果を出すことが目標です。一人間としては、毎日、楽しく、明るく生きていければ。と言っても、「いつも明るくいよう」とはしていないので、テンションが低い時もあります。無理はしていないです。

答えが出ないからこその〝対策〟――取材を終えて

岩渕選手の話で印象的だったのは、「今、好きなことを仕事にする楽しさを感じているので、次はそんな簡単にはいかないと思う」との一言でした。サッカーと同じくらい、夢中になり、好きになるものがなかったとしたら、引退後に何をしたらいいかわからないと感じてしまうことは、安易に想像できます。

その心境に近い話を、元格闘家の大山峻護さんがしていました。体の限界を感じ、40歳で引退をした時のことを、大山さんはこう振り返っています。

スッキリした気持ちで引退できたものの、その先は真っ暗でしたね。アスリートのセカンドキャリアで苦しいことは二つあると思っています。一つは人間関係が変わること、もう一つは目標がなくなるということ。

でも、目標を見つけたらアスリートは強い。立場や戦うフィールドが変わっても、戦略を立てて情熱をもって走るという過程は全く同じです。僕は妻にそのことを教わったのですが、そのことを伝えてくれる人が近くにいたら良いなと思います。
(元格闘家・大山峻護さん)

岩渕選手は「人と関わることは大事」と言っていました。引退後のキャリアについて考えても答えが出ない場合、周りの人と話をすることで、突破口が開けるかもしれません。

現役時代は目の前のことで精一杯になりがちだと聞きますが、時には中長期的な将来について考えてみるのも一つの方法だと思います。意識的に、競技の内外の人と会ったり話をしたりする機会を作ることが、キャリア形成におけるヒントにつながるかもしれません。

『明るく 自分らしく』
著者:岩渕真奈
発行:KADOKAWA
価格:1,650円(定価)

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます