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2019年06月01日

14勝19敗……チャンピオンになれなかった格闘家のセカンドキャリア


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元プロ格闘家の大山峻護さん

元プロ格闘家の大山峻護さん

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元プロ格闘家の大山峻護さん(45)が、セカンドキャリアを考えたのは引退してからでした。格闘家時代の実績は14勝19敗で負け越し。それでも「引退後の人生ではチャンピオンになれるはず」という思いで道を切り開きました。環境が激変する中、事業を立ち上げ経営者になった大山さん。その後の人生を支えたのは、格闘家時代に見つけた人生の軸でした。(ライター・小野ヒデコ)

ヒーローになりたかった子ども時代

<強くなりたくて5歳で柔道を始めるも、周りと比較して落ち込む日々。唯一の長所は何度でも立ち上がる姿勢でした>

元々弱虫で、母親がいないと何もできないような子どもでした。劣等感の塊だったので、ウルトラマンなどのヒーローになりたいと思っていましたね。戦う姿で勇気と感度を与えてくれる所がかっこよく、憧れました。

強くなりたくて5歳の時に柔道を始めたのですが、自分よりはるかに強い人がごまんといて。その人たちと自分とを比較して、さらに落ち込みました。センスも乏しく、脳で考えたことを体で表現できず、技の切れ味もなかった。

唯一の長所は何度でも立ち上がる力を持っていたこと。学生時代はセンスのなさを補うために、様々な本を読み、食事に気を付け、メンタルトレーニングの勉強や講演会にも行きました。

その努力が少しは実を結び、大学4年の時に初めて全国大会の決勝戦に出場しました。結果負けたのですが、諦めなければ自分も大舞台に立てるという体験が自信につながりました。

大学卒業後も格闘技の世界で生きていきたいと思い、アスリートの道へ。柔道家から格闘家になろうと思ったきっかけは、桜庭和志さんとホイス・グレイシーさんの試合を観たこと。東京ドームの一番上で観ていたのですが、震えるくらい感動しました。

柔道家から格闘家になった大山さん=Photo  sekine

柔道家から格闘家になった大山さん=Photo sekine

ヘンゾ・グレイシーとの試合がターニングポイントに

<ケガからの復帰戦で、判定勝ちをした大山さん。予想に反し、試合内容に対してファンたちから大バッシングを受けました>

2001年、26歳の時に格闘家としてプロデューしました。目標は変わらず、ヒーローのように強く感動を与えられる存在になること。プロの世界に入り、その気持ちがより強くなり、自分の戦いを通してファンの人がどれだけ喜んでくれるかを大切にしていました。

でもデビューの年に網膜剝離になり、約1年欠場することになってしまって。翌年復帰をするのですが、その復帰戦でヘンソ・グレイシーと戦うことになりました。その時はファンへの恩返しがしたくて、勝つことに貪欲になっていました。

結果、判定勝ちをするのですが、ファンからも関係者からも大バッシングを受けることに。勝つことにこだわりすぎて判定勝ち狙いをした結果、面白くない試合をしてしまったんです。

僕がずっと求めていた、戦いを通して喜びを伝えることができなかった。それが本当につらくて、世界中を敵に回した感覚になりました。そこから戦い方が一変しましたね。「真っ向勝負」が僕の信条になったんです。

真っ向勝負をすると負けるリスクが高くなる。実際、格闘家時代の実績は14勝19敗で負け越しに終わっています。それでも、面白い試合にこだわったことで「あの時のあの試合は」と周りの人に言ってもらえることが多くなりました。

26歳の時に格闘家としてプロデューした=大山さん提供

26歳の時に格闘家としてプロデューした=大山さん提供

40歳で引退「未練はありません」

<体の限界を感じ始めた40歳。引退試合で大切にしたことは、真っ向勝負をすることでした>

格闘家は出来る限り長く続けたといと思い、40歳を超えてからの景色も楽しみにしていたんですよ。でもある試合で、突然その気持ちが途切れてしまって。

初めて体に、「もういいだろう」と言われたような不思議な感覚でした。これまでの脳や体のダメージが蓄積されてきた結果だと感じ、引退を決意しました。

40歳になった年の2014年8月、試合前にSNSで「この試合で最後にします」と発表したのですが、試合後に友人から「最後の試合を観たかった」という連絡があって。その時、ふと引退の決断時期を間違えたのではと思ったんです。

これまで何度も立ち上がってきたのに、今引退していいのかと自問自答しました。そして、このまま中途半端な気持ちで格闘技を止めてしまったら次の人生をちゃんと走れないと思い、最後にもう一回試合することにしたんです。

ラストマッチは、僕の気持ちに応えてくれると思った桜木裕司選手を指名しました。彼は真っ向勝負してくれる選手で、最後はどちらかが倒れるまで殴り合いをしました。結果、負けてしまったのですが、その試合で現役への未練をぶった切ることができました。

引退試合のセレモニーで、セコンドを務めた妻の桜香純子さんと抱き合う=大山さん提供

引退試合のセレモニーで、セコンドを務めた妻の桜香純子さんと抱き合う=大山さん提供

「今後の人生を摸索中なので、お話聞かせてもらえますか」

<引退後、目標がなくなり途方に暮れた大山さん。次の目標を見つけるために、とにかく伝手を頼って人に会いに行きまくります>

スッキリした気持ちで引退できたものの、その先は真っ暗でしたね。アスリートのセカンドキャリアで苦しいことは二つあると思っています。一つは人間関係が変わること、もう一つは目標がなくなるということ。

現役選手は常に目標があります。僕も40歳までその目標が途切れることがなかったから、突然の環境の変化に心細さや苦しさを感じました。僕から離れていく人もいたので、寂しさもありましたね。

後輩のアスリートにかける言葉は「今後のキャリアを考えておけよ」です。でも、現役選手は目の前の大会に勝つことしか頭にない人が多い。僕がそうだったから、難しい問題ですよね……。

でも、目標を見つけたらアスリートは強い。立場や戦うフィールドが変わっても、戦略を立てて情熱をもって走るという過程は全く同じです。僕は妻にそのことを教わったのですが、そのことを伝えてくれる人が近くにいたら良いなと思います。

引退後はがむしゃらに、携帯に入っている連絡先の中で「この人」と思う人に、片端から連絡しました。「引退してこれからの人生をどう生きたらいいか模索しているので、お話し聞かせてもらえませんか」と伝えて、経営者の方を中心にアポを取って会いに行きました。

大山さんは引退直後、たくさんの人に話を聞いたという=大山さん提供

大山さんは引退直後、たくさんの人に話を聞いたという=大山さん提供

人に喜びを与えられ、誰もしていないことを

<次のキャリア形成で、大山さんが大切にしたことは二つありました。引退後の目標を見つけることでき、それに向かって走り始めます>

セカンドキャリアとして、ジムの経営をよく勧められたのですが、僕は自分の可能性をもっと探りたいと思いました。軸にしたのは、まだ誰もしたことがなくて、人に喜んでもらえること。

たくさんの方々とお会いする中で、企業でストレスチェックが義務付けになることと、会社員の中にはメンタルが弱っている人がいるという話を聞き、企業研修としてエクササイズを提供したらどうかというアイディアが浮かびました。

その話をしたところ、「良い案だと思う」と言ってくれた方が何人かいて、「これだ!」と思ったんです。目標が出来たことが本当にうれしくて。昔から先のことは考えずに感じたまま動くタイプなので、即行動に移しました。

これが格闘技とフィットネスを融合したフィットネスプログラム「ファイトネス」を広げていくきっかけとなりました。

毎日慣れないスーツ着て、打ち合わせに行き、一生懸命プレゼンをしました。この時、現役時代に身に付けたスキルで役立ったのは「成功のストーリーが描ける」こと。この会社で企業研修できたら、社員の方がとても喜んでくれるという未来が見えるんですね。

自分の中で成功体験ができているため、自ずとその雰囲気がプレゼンで伝わったのかもしれません。実績がない僕にチャンスをくれる企業が出てきました。これまでに100社以上の企業で実践させてもらい、ニーズを感じています。

「ファイトネス」での記念撮影=大山さん提供

「ファイトネス」での記念撮影=大山さん提供

引退後に人生のチャンピオンになる

<元ファイターの強みを発揮し、相手に喜びを与える仕事に没頭する日々。今は次のステップに向けて、新たな挑戦を始めています>

エクササイズを受けて笑顔になってくれる人を見ると、子ども時代から大切にしてきたことは変わってないなと感じます。相手に喜びを与えられるこの仕事が大好きで、ありがたいことに忙しい日々を過ごしています。

研修をしに行くと、アウェーですし、最初は社員の皆さんから緊張感が伝わってきます。でも、格闘家としての僕の強みは相手を五感で感じること。今何が必要とされていて、相手が何を感じているのかに敏感なんです。

その場の空気を捉えつつ、雰囲気に飲まれないために、必ず相手より強いエネルギーを放つようにしています。最高で120人の方を前にエクササイズを行ったことがありますが、頭の中では常に成功体験が描かれているので、最後には参加者全員が笑顔になっています。

今、現役のファイターが僕の活動に興味をもってサポートしてくれています。当初はファイターのセカンドキャリアの場を提供したいと考えていたのですが、現役選手のデュアルキャリアの場としてもありだと思っています。

今は引退して4年が経ち、次のステップとしてマネジメントの勉強をしているところです。もっと「ファイトネス」が世に広まる仕組みづくりをしたいので、多くの人と会い、新しい考えを吸収しています。

僕からのアドバイスは、自分の可能性に制限をかけず、思いっきりポジティブに勘違いしてほしいということ。その勘違いは本物になっていくと思います。例え、現役時代にチャンピオンになれなくても、引退後に人生のチャンピオンになれるはずですから。

新たなビジネス「ファイトネス」を立ち上げた大山さん=大山さん提供

新たなビジネス「ファイトネス」を立ち上げた大山さん=大山さん提供

大山峻護(おおやま・しゅんご)1974年神奈川生まれ、栃木育ち。5歳から柔道を始め、2001年にプロ格闘家に転向。総合格闘技のPRIDE等数々のリングで戦う。05年に「K-1ダイナマイト」でピーター・アーツに勝利する。14年に起業し、現在は格闘技とフィットネスを融合したフィットネスプログラム「ファイトネス」を様々な企業や学校で行っている。

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