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「規格外トマト」なのに…農家を救ったツイッターの〝やさしい世界〟
市場には並ばない、「形の悪いトマト」。そんな変形トマトが「ボーナス」になったというツイートが、注目を集めています。トマト農家に話を聞きました。
スーパーでは見慣れないトマトの写真を4枚、投稿しました。つやつやの真っ赤なトマトですが、どれも突起が生えるなど、変形しています。見方によっては、両手を挙げているように見えたり、だるまのように見えたりするものも。写真にはこんな文章が添えられました。
「なんだかんだいって形の悪いトマトは売れないのでジュース用にまわしていたのですが、ツイッターを見たお客さんが『面白いやつください』と1個100円で購入してくれて以来、規格外トマトはボーナスです。ツイッターの優しい世界・・・」
この投稿には、「トマトが『やったー!』って言ってるみたい」「トマトが踊ってる」「ポケモンにいそう」「(星の)カービィみたい」「ちょっとエッチ」などとさまざまな連想が広がり、9万件以上の「いいね」がつきました。
また、「形が変わってる方が食べるの楽しいかも」「面白い見た目のものを集めたら売れそう」「もっと普及してほしい、形がきれいじゃなくても味や栄養が変わる訳ではないし」と、市場では日の目を浴びることがない「変形」トマトへの共感も相次ぎました。
なんだかんだいって形の悪いトマトは売れないのでジュース用にまわしていたのですが、ツイッターを見たお客さんが「面白いやつください」と1個100円で購入してくれて以来、規格外トマトはボーナスです。ツイッターの優しい世界・・・ pic.twitter.com/cVmF5vZFnR
— 曽我ファーム トマト専門 (@pasmal0220) December 10, 2020
ツイートをした曽我ファーム代表の曽我新一さん(42)が、経緯を教えてくれました。
曽我さんはトマト農家の3代目。新潟市北区で15年、トマト栽培を続けています。
日照が少なく、寒冷な新潟はトマト栽培には向きません。それでもあえて新潟で、しかも冬に低水分で栽培するという、「超厳しい」環境でトマトを育てることによって、「ストレス」をかけると、甘みと酸味が整った、味の濃いフルーツトマトができるそうです。
そうやってできた「金筋トマト」は野菜ソムリエ品評会で大賞を受賞したこともあるほど。
一方で、低温・低水分で栽培すると、変形のトマトが出やすくなります。品種やストレス度合いによって変わり、曽我さんは「当農園のフルーツトマトでは三割ほど、(変形が)出てしまいます。ひどいときは半分以上が『規格外』になります」と言います。
トマトの出荷には「形」「色」「傷」「大きさ」などの「規格」があります。それに照らし合わせると「規格外」となるトマトも、味は「通常」のものと変わりません。だから、いつもは「規格外」は、時間とコストをさらにかけて、ジュースなどに加工して販売してきました。
そんな「規格外トマト」が売れたのは、2020年5月ごろのことでした。春先にどうしても増える変形トマトの写真を投稿したところ、それを見て「面白いやつください」というお客さんが現れました。
さらに曽我さんを驚かせたのが、その人は「普通のトマトと同じ価格」で買ってくれたことでした。時期によって価格は変わりますが、このときは一個100円。
「SNS映えするから、そのために買ってくれたのかな」と想像しましたが、これ以降も、ときどき直売所に、「規格外トマトを買いたい」という人が来るようになりました。
そんなストーリーをつぶやいた今回の投稿がバズったことで、さらにコロナ自粛で売れ残ったトマトを加工したケチャップ(1本2000円)も爆発的に売れるという、「優しい世界」の連鎖が生まれました。
曽我さんの農園も法人化9年目で初の赤字になっていたところだったので、「非常に助かりました」と喜びます。
今までの「規格」では見向きもされなかった、形の悪いトマトたち。でも今回、SNSを通じて届いた「消費者」ひとりひとりの声を見て、曽我さんは「若い世代を中心に、農産物に対して新たな価値を見い出してくれているように感じます」と話します。
「これまではトマトの販売は直売所とJA出荷がメインでした。でも、SNSで拡散され、新たな経営スタイルが見え始めた気がします。今までのスタイルに固執することなく、もっと柔軟にSNSを通じて販売を増やしていきたい」「『規格外』という新たな価値を作り上げていければと考えています」
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