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連載

#214 #withyou ~きみとともに~

いじめ引き起こした私を待ち受けていた「仕返し」消えない心の穴

「加害者になっている人も、周りに自分のことを話してみてほしい」

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

目次

「私は小学生の頃、ある一人の女の子をいじめてしまいました。いまでもとても後悔しています」。現在22歳の女性が打ち明けるのは、子どもの頃に友だちをいじめてしまったことへの懺悔と、その後の自分への「仕返し」、そしてそれらに加担した人たちへの疑問です。「じゃあ彼らは?私や彼女をいじめるだけいじめてあとは知らん顔?」――。10年以上彼女の心をむしばむ感情を、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんがマンガにしました。大人になった彼女はいま、「いじめの周りにいる人たちも、大人に助けを求めて」と強く訴えます。

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この企画は、インスタグラムやツイッターを中心に作品を発表している、イラストレーターのしろやぎ秋吾さん(@siroyagishugo)との共同企画です。「10代のときにしんどかったこと、どう乗り越えましたか?」とSNSでエピソードを募り、しろやぎさんがマンガ化したエピソードの中から記者が取材を進めています。
《マンガ全編はフォトギャラリーで読むことができます》

近づけば近づくほどむなしく…

関西地方に住む空さん(仮名=22)には、小学生の頃、自宅まで遊びに行くほど仲の良い友だちがいました。
とても家族仲が良かったという友人に対して、家族仲がいいとは言えなかった家庭で育った空さんは次第に嫉妬心を抱くようになったといいます。
5年生になり、空さんは「彼女に近付けば近付くほど虚しくなると思い、自分自身をふさぎ込みました」と、彼女だけを遊びに誘わなかったり、教室でも話さなくなりました。ところが、そこで予想していなかったことが起こります。

彼女と距離をとろうとしただけのつもりが、空さんの心の内を理解しているわけではないクラスメートまでもが、彼女を無視しはじめてしまったのです。
「最初は個人的に距離を置きたかっただけでした。でも結果的にクラス全体が彼女を無視したことで、彼女が辛い思いをしたことに変わりはありません」

休み時間にクラスでドッヂボールをしたり鬼ごっこをしたりするときにはその輪に彼女も加わってはいましたが、なんとなく彼女を無視しようという空気は常にあったといいます。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

「うちの子をいじめてるのか」、始まった仕返し

そんな状況が3カ月ほど続いたある日、彼女の父親から「うちの子をいじめているのか」と聞かれたことを機に、空さんは彼女に1対1で謝罪。それからしばらくの間は、彼女と一緒に遊ぶ毎日が戻ってきましたが、数週間後、「仕返し」が始まりました。

「仕返し」の内容は、物を隠されたり、無視をされたり……。「小さな学校だったので、下級生からは『いじめられてるの?』と聞かれ、上級生からは『近付かないでくれ』と言われ、学校という場所に居場所がありませんでした」

その間、空さんは誰にも相談できませんでした。
「親には迷惑をかけたくない、バレたくない、失望されたくなかった」と、実際には会話すらなかった友だちとの1日を「作り話」として親に話していたといいます。「彼女に相応のことをしてしまった自分」を責める気持ちも相まって、先生に助けを求めることも、できませんでした。

空さんは、「いまになって思うのですが、『しんどい』『苦しい』と言っても許される環境が欲しかった」と打ち明けます。
「私は、大人に何かを言うと怒られる・失望されるとしか思っていなかったため、どんなことも我慢してしまう癖がありました。もう少し捌け口を知っていたらよかったと思います」

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

自分を責め続け「いやな思いも受け止めないと」

空さんが小学校を卒業してから10年が経ちますが、大人になってもこの出来事が心の中で引っかかり続けているのは、友人を無視してしまった後悔もありますが、空さんや彼女へのいじめを助長した「周りの人」に対して、やり場のない気持ちがあるからです。
「じゃあ彼らは?私や彼女をいじめるだけいじめて、あとは知らん顔?」――。そんな気持ちが渦巻いているのだといいます。

空さんが高校生の頃、電車内で偶然、小学生の頃のクラスメートと鉢合わせました。とっさに背を向けた空さんに、クラスメートは「元気してた!?今度遊ぼうよ!」と声を掛けてきたといいます。
「自分だけがいまだに小学生時代を生きている気持ちになり、私は何なのだと悔しくなりました」
その悔しさの一方で、空さんをより苦しめるのは「私は彼女に同じことをしてしまったのだからそんなことを思う資格などない」という罪悪感です。

「自分がイヤな思いをするのは、彼女をいじめた自分がいるからだ。受け止めろ」と自分を責める気持ちが、自分をいじめた相手への怒りを凌駕するのだといいます。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

加害者も「自分のこと、周りに話して」

いまも行き場のない思いを抱え続けている空さんが、いま、いじめを目撃したり、傍観したりしている「第三者」に向けて伝えたいことは、「大人に助けを求めて」ということです。

「大人は憎たらしくうっとおしい存在だと思っててもいいです。それでも、いまだけでいいので、自分のためにも、そしていじめられて辛い思いをしている子のためにも助けを求めてください」
「先生・親・近所の人・親戚・友達の親・どなたでも大丈夫です。信頼している人に話をしてみましょう。話し合いは前に進むきっかけになります」

そして、「もし、いま自分がいじめに加担してしまっていると自覚している人がいたら?」との問いには、「すぐにやめてください」と語気を強めます。
「嫌悪感や嫉妬でいじめる行為に意味はないと、経験したからこそ伝えたいです」

「加担している自分自身が1番分かっていると思いますが、自分の心に空いた穴は人へ刃を向けて治るものではありません。自分の間違いを認めることも必要になってきます」と話し、「加害者になっている人も、周りに自分のことを話してみてほしい」と訴えます。
最後に、空さんは自分自身の経験を振り返り、こうメッセージを送ります。

「私は正直、いじめられていた時代の楽しい記憶というのがありません。自分がしてしまったことだけは鮮明に覚えていますが、それ以外のことは忘れてしまいました。記憶にふたをして思い出さないようにしているのだと思います。こんな思いを誰にもして欲しくありませんし、する必要は絶対にありません」

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