連載
#47 夜廻り猫
「貧乏は余裕も枯らす」晩ご飯で怒った母 夜廻り猫が描く心の余裕
毎晩のように娘が尋ねてくる「夜ごはんなあに?」。思わず「うるさい!」と怒鳴りたくなって――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「心の余裕」を描きました。
きょうも夜の街をまわって歩く猫の遠藤平蔵は、アパートで一人、ひざを抱えて落ち込む女性の涙の匂いに気づきました。
「おまいさん どうした?」と聞くと、女性は子どもの頃の思い出を語り始めました。
帰宅して母親へ「夕ごはん何?」と尋ねると、突然「うるさい!」と怒鳴られたのです。
大人になってから母に「どうして怒ったの?」と尋ねると、「あの頃は料理の食材も満足に買えなくて それなのに料理名を聞かれるのはつらいもんよ」と答えます。
「貧乏はそういう余裕も枯らすんだよ」という母の言葉に、「私はそんな親にならない」。そう決意していたはずでしたが、最近の自分が買える食材はもやしぐらい。それでも娘は無邪気に「ママ、今日の夜ごはん何ー?」と聞いてきます。
女性は、自分も思わず「うるさい!」と怒鳴りたくなったことに気づきます。「何があっても弱い者に当たるのは違う」と自分自身に言い聞かせ、こらえます。
ぽつりと「貧乏は私のせい 子どもはなんにも悪くない」と語る女性。遠藤は力強く「おまいさんも悪くない 何も悪くない」と伝えるのでした。
作者の深谷さんは、仕事先の人から「今どき、日本で食べるに困ってる人はいないんだから」と言われた経験があるといいます。
社会的立場があって日々のニュースを見ている人でも、そんなことを言うんだとショックを受け、「人間は、見たいものしか記憶できないのかもしれない」とも感じたといいます。
さらに新型コロナウイルスの影響で、「食べるにも事欠くような貧困が激増しているのではないか」と深谷さんは心配します。
「『健康で文化的な最低限度の生活』を、全員に保証できる社会にしなくてはならないと思います」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が2019年11月22日に発売された。
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