連載
#124 #withyou ~きみとともに~
死にたいと言われた時、考えてほしいこと 絶望を分かつというゴール
――SNSなどで「死にたい」という言葉を多く見かけます。
2017年、座間の事件がありました(※座間の事件…自殺に関するつぶやきを通してツイッターで被告と知り合ったとされる9人が、神奈川・座間のアパートで殺害された事件)。
「死にたい」とつぶやく場所を考えないと、この事件のように逆手に取られてしまうリスクもあるということをまず伝えておきたいです。
その上で、なんですが、「死にたい」と言うこと自体はむしろガス抜きとしての効果があります。特に自分の気持ちを表現する言葉が追いつかない子は、「死にたい」と言う以外の表現方法がない場合もあります。
決して「『死にたい』と言う人は死なない」と言っているわけではありません。リスクは高いんだけれど、リスクの中で誰かとつながることを求めているから、あえて言葉を発しているんだと思います。
――つながるための「死にたい」
熊谷晋一郎先生(小児科医・研究者)が、「希望とは絶望を分かち合うことである」と言っています。苦しいという共通項で誰かとつながるというのも、自殺対策のゴールの一つかもしれないと、私は思っています。それは、上から目線ではなく、「ひとりじゃないよ」と、伝えることです。
――SOSを出せない子が「死にたい」という言葉で訴えかけている場合もあるのでは。
現実には、いろんなことで傷ついてSOSを出せなくなっている子どもたちはいます。その子たちには、どんなに「SOSの出し方」を教育しても、出せません。かえって閉じこもってしまいます。
――過去に、松本さんは「『死にたい』という告白には、『死にたいほどつらいが、もしもそのつらさが少しでもやわらぐならば、本当は生きたい』という意味がある」(出典:「死にたい」に現場で向き合う、「こころの科学」2016年)とおっしゃっています。
大人でも、ちょっとしたことで「あー、死にたい」とか言う人っていませんか。
そういう人って、つらい過去があったりして、なんとか生き延びている人だったりします。コップの中にいつも水がたまっていて、ちょっと上から足すだけであふれちゃう状態ですが、「死にたい」と言うことで、なんとか生き延びているんです。
――子どもたちの「死にたい」気持ちに大人は何ができるのか。
スイスの精神分析家アリス・ミラーは、トラウマを受けた人のうち、自殺したり犯罪者になったりする人とそうでない人では、何が違うのかという研究をしました。
その違いは、「証人のようにずっと見ていてくれる人がいるかどうか」だと論じています。
解決したり、苦しみをとったりすることはできないけど、「困難な状況の中でも生きている、あなたの生き様を見ているよ」という人がいるかいないかで違うと。少なくとも誰かがそういう機能を果たしてくれるといいですよね。
――「死にたい」という気持ちについて議論するのは得策ではない?
死にたいと思うことや死ぬことの是非について議論するのではなく、大人がすべきは、その背景についてなにができるだろうかと話し合うことです。
――「死にたい」と言える場所が居場所になる場合があるのかもしれません。
いろんな居場所があるといいですよね。さらには生き方のサンプルやデータベースがいっぱいあるといい。
大人に比べて、子どもがささいなことで亡くなりやすいのは、子どもがデータベース不足だからです。
私が思うに、多くの子どもたちにとって、小学4年生頃までは家庭が世界のすべてで、高校1年までは学校が世界のすべてだと思いこんでいます。でも本当はそうではなくて、失敗してもいろんな生き方があるんですよね。
――居場所という意味では、子どもたちの数少ない居場所のひとつである学校を巡り、長期休み明けに子どもの自殺が増えるという調査結果が2015年に公表されました。以来「9月1日問題」ともいわれるようになり、メディアもそれを積極的に報じています。一方で、最近はその報道がトリガーになるのではという懸念の声も出始めています。
それは早くから指摘する人たちもいましたし、私も確かにその通りかなと思います。
でも、どこかで誰かが一回は声を上げておいた方が、救われる人たちはいます。
ただ、いつまでもそこだけ(9月1日だけ)を切り取り続けるのはどうかと思っています。
今春の10連休明けもそうですが、子どもたちの苦しみは9月1日だけの問題ではありません。
長期休み明けというのは、学校がしんどい子たちにとって、苦しみがいったんなくなった状態で、また始まるということです。そういう意味では正月休み明けも同じです。実は似たような苦しさを子どもたちは1年中経験しているんですよね。小さい単位でもそうじゃないですか。日曜日とか。問題を一般化して行けばいいと思います。
そろそろ報道も変わっていくべき時期だと思います。
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