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お金と仕事

「薄さだけが性能ではない」 コンドーム大手、東京五輪への熱い思い

これまでの商品がまとめられたファイルを見せながら、コンドームの使用について熱く語るオカモトの林知札さん
これまでの商品がまとめられたファイルを見せながら、コンドームの使用について熱く語るオカモトの林知札さん 出典: 朝日新聞

目次

 東京五輪の開幕まであと2年を切りました。五輪期間中、選手村での話題の一つになるのが「コンドーム」です。2016年のリオ五輪では、45万個が選手村に配布されたといいます。大会組織委員会は、東京五輪で配布するかどうかも含めて具体的なことは未定といいますが、日本のメーカーは期待を込め、意気込んでいます。中でも、老舗のメーカーは、五輪をきっかけにした啓発活動にも力を入れています。エイズを含む性感染症、中絶、少子高齢化など人々の健康やライフスタイルと密接に関わるコンドーム。その意義を真剣に語るメーカーの熱意に心を打たれ、学生時代にコンドーム産業の経営史を研究していた記者が、話を聞きました。(朝日新聞記者・森泉萌香)

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【前編】0.01ミリ、東京五輪でもアピール コンドーム、五輪とともに進化
東京五輪の選手村建設現場=2018年6月、伊藤進之介撮影
東京五輪の選手村建設現場=2018年6月、伊藤進之介撮影

啓発活動で差別化

 「配布の枚数や何を配るかの話ではないんです!」

 開口一番、そう切り出したのはオカモト(本社・東京都文京区)の林知礼マーケティング課長(47)。「国内外の人たちに日本のコンドームの製造技術とエイズを含む性感染症に対する取り組みなどを伝えるチャンスにしないといけません」と熱く語りはじめました。

 オカモトは、イベントや保健所などでコンドームの無料配布をするなど啓発活動に力を入れています。過去には、性の健康医学財団が配布したセーラームーンとのコラボコンドームの製造に、厚労省と協力。パッケージにイラストが描かれたコンドームはネット上でも話題になりました。その狙いについて林さんは、「啓発活動で他社と差別化をはかり、オカモトへの安心感を一つのブランドにしたい」と説明します。

過去に無料配布した、セーラームーンとのコラボコンドーム
過去に無料配布した、セーラームーンとのコラボコンドーム

五輪で扱われる意味

 オカモトによると、現在手元に残る最も古い五輪配布用のコンドームは1998年の長野五輪のもの。大会関係者からの依頼で、この時オカモトは3~5万個のコンドームを選手村に配布しました。

 ただ、「その後の売り上げや反響にあまり影響はなかった」と振り返る林さん。それでも配布をしたのは、「アダルトグッズの印象が強いコンドームを五輪という一大イベントで正々堂々と扱ってもらえるのは大きな意味がある」。海外でコンドームは一般的な避妊方法ではないからこそ、五輪でコンドームを配布することは、「世界中の人々の性の健康を守るための大切なチャンス」と捉えています。

オカモトが長野五輪の選手村で配布したコンドーム
オカモトが長野五輪の選手村で配布したコンドーム

日本でも性感染症が脅威に

 世界的には女性側の不妊手術や子宮内避妊器具(IUD)などが一般的な避妊方法で、欧米ではピルの使用率も多い一方、日本人は90%以上の未婚者(18~34歳)がコンドームを避妊方法に選んでいるというデータもあります。手軽に購入でき、低価格で、使用も簡単であり、避妊以外に性感染症の予防としても有効とされています。

 ここのところ、日本では梅毒の感染者数が急増しています。国立感染症研究所によると、2017年の患者は5829人で、3年で約3.5倍に増えました。HIV感染者の新規報告数は年に1000人前後と高止まり傾向にあるなど、性をめぐる感染症の脅威は深刻です。コンドームの使用はますます重要なものとなり、各社が使用率向上のために技術の革新やPRをはかるなど施策を練っています。

新規HIV感染者とエイズ患者報告数の推移=2018年4月作成
新規HIV感染者とエイズ患者報告数の推移=2018年4月作成 出典: 朝日新聞

 そうした試みの成果はまず、コンドームになじみが薄い欧米の観光客に現れ始めているようです。最近、(0.01ミリ台を実現した)「オカモトゼロワン」の箱を手に取り、興味深そうに耳元で振る姿を目撃した林さんは、海外の人にも認識されつつあると手応えを感じているそう。

 「東京五輪は国内外の人に対して、性感染症に対する取り組みや日本人の姿勢のようなものを伝えられる機会。コンドームは薄いだけが性能ではなく、使いやすくするにはどうすれば良いかを追求する必要もあると思うんです」

コンドームをイメージしたゆるキャラも登場し、道行く人に予防や検査の大切さを訴えたエイズキャンドルパレード=2018年5月、京都市
コンドームをイメージしたゆるキャラも登場し、道行く人に予防や検査の大切さを訴えたエイズキャンドルパレード=2018年5月、京都市 出典: 朝日新聞

「仕掛け」も色々

 コンドームを使いたがらないパートナーにいかにコンドームを使わせるか―。オカモトではその「仕掛け」を今、必死に考えています。たとえばこの春お目見えしたのがクリアファイルをミニチュア化したかのようなコンドームケースです。

 同社ではクリアファイルも製造しており、「小さいものを作ってみたらおもしろいのでは?」という発想から生まれたもの。一部の箱入りコンドームのおまけとして同封されました。財布や化粧ポーチに入れて持ち歩く人にとって、袋の破損や衛生面での心配が軽減され、見た目もカムフラージュしてくれます。

 一昨年には、事前にカップルから募集した写真をパッケージに印刷したペアコンドームも企画。林さんは「『このコンドームのおかげで彼に使ってと言えた』と女の子からの声を聞くことがあります。こうした企画をネタにして使ってくれるカップルが増えればうれしいですよね」。

コンドームの持ち歩きに便利なクリアファイル型のコンドームケース
コンドームの持ち歩きに便利なクリアファイル型のコンドームケース

気持ちよく使える製品を

 製品の面でもここ数年で、ラインアップが増えています。薄さのトレンドと逆行し、「自信を持ってもっと長く楽しみたい」という趣向を捉えた厚めのコンドームは初心者でも使いやすく定番商品に。サイズや色合い、パッケージなどの幅に広がりを見せています。

 オカモトでも極薄のコンドームが売れ筋ですが、「0.01と0.02の差を体感するのは難しいでしょう」と林さんから驚きの一言。「セックスは脳でするものであり、その日の雰囲気とか気分とか体調とかで感じ方は変わるものですから」

 なるほど、それでも薄いコンドームは人気なのは、極薄のプレミアムなコンドームを使っているという思考がセックスに満足感を与えているからなのかもしれません。「リラックスできたり、楽しんだり、自信を持てたりするようなコンドームを提供することは使いやすさに通じるでしょう」と林さん。五輪のその先を見据えた計画が始まっているようです。

過去に無料配布されたオカモトのコンドームを振り返る、オカモトの林さん
過去に無料配布されたオカモトのコンドームを振り返る、オカモトの林さん

 各社にとって東京五輪は、コンドームの普及と性感染症の予防などを積極的にPRするための大きなチャンスと考えています。その大きなイベントに向け、今は薄さの技術革新よりも商品の安定供給やラインアップの充実をはかることで、啓発活動の追い風にしたいと考えているようです。

 取材を通じて感じたのは、安全安心はもちろん、気持ちよく使える製品を目指して日々奮闘する各社の熱い思いです。コンドーム業界にとって2年後の東京五輪は一つの目標ではありますが、同時にひとつの通過点でしかないようです。

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