連載
#8 ネットの話題フカボリ
スマホ片手に一人で食事、寂しい? 漫画で問い直す「思考の物差し」
フードコートでの実体験を元に描かれた漫画が、「考えさせられる」とツイッター上で評判です。スマートフォンを片手に、1人で食事する人を見て、「寂しい」と感じる主人公。でも実際は、自分の価値観がそう思わせているだけかもしれない……。目に見える世界が全てなのか?そんな問いに迫った作者を取材しました。
『フードコートで「テクノロジーに見た目が追いつかない」と思った話』というタイトルの漫画は、6月28日に公開されました。
フードコートで「テクノロジーに見た目が追いつかない」と思った話 pic.twitter.com/L74csNodSO
— すぴかあやか(角田綾佳) (@spicagraph) 2018年6月28日
登場するのは、休日に子どもとフードコートを訪れた母親。ご飯を食べていると、スマホの画面を見ながら、1人で食事をする女の子に目がとまります。
母親は「スマホを見ながらご飯を食べている姿は、ちょっと寂しいな」と感じた直後、ふと思い直します。
「わたしいま、視野狭くなかった?」
もしかしたら女の子は、友達とメッセージを送り合っているのかもしれない。だとしたら、誰かと楽しく食事するグループと、何が違うのだろう?外見上は分からなくても、スマホの中に広がる世界があるのでは、と母親は考えます。
「スマホでできることは増えたけど、実際に何をしているのかは周りに見えづらい」「インターネットが普及し、世界の広がり方・他人とのつながり方は変わりつつある」。そう分析した後、母親は「見た目で物事を判断しがち」という現状に気付きます。
「新しいものは『少しこわい』」。だから、インターネットのテクノロジーを一般化するためには、ネット上に広がる世界を、現実と同じように可視化する必要があるのかもしれない。作品は、そんな結論で閉じられます。
投稿には10万件を超える「いいね」がついた他、約5万5千件のリツイートがされました。読者からは「ほんとに分かる」「自分も柔軟に物事を考えたい」といったコメントが寄せられています。
作者は大阪府在住で、フリーランスのデザイナー・イラストレーターとして活動する、すぴかあやかさん(@spicagraph)です。漫画を描いた経緯や、どんな思いを込めたのか聞きました。
――実体験を元に、作品を手がけたそうですね
今年初め、息子と地元のフードコートを訪れた時の出来事です。私は何かについて印象を持ったとき、「今なぜそう思ったんだろう」と考えるようにしています。今回の漫画も、「私はこんな結論に至ったのだけど、どう思う?」と答え合わせをしたい気持ちから描きました。
――「人の行動は見た目だけで判断できない」といったメッセージが込められているように感じました
誰かの考えを曲げようといった、大それたことは思っていません。ただ私自身、経験したことしか想像できない人間なので、自分が体験していない人の話はとても興味深く、参考になります。そのため、感じたことや考えたことを、目に見える形で発表しました。
――デザインなどで工夫した点は
漫画には黄色と黒を使用しています。これは黄色が「女性らしくも男性らしくもない色」だからです。人物の肌や髪の色も、見る人の想像に任せています。自分以外の人間の造形を詳しく描かなかったのは、バイアスを極力取り除くためです。
――読者の書き込みを元に、『多かった反応について』というイラストも投稿していますね
コメントについて、私の見解を述べておこう、という気持ちで描きました。
――「人は自分の尺度で他人の幸福を測ってしまうもの」といったコメントが寄せられています
本質的ですね。気をつけないと、「自分の知っている物差し」だけで、目の前の出来事を測ろうとしてしまう人は多いと思います。
――一方、食事のマナーと結びつけて、作品を解釈する人もいました
「1人で食事をするのは寂しいのか」「食事をしながらスマホを見るのは行儀が悪いのでは」という反応もいただきました。まさに「みんなが持っている自分の物差し」だと思います。すぐさま「行儀が悪い」と判断する前に、少し考えよう、というのが私の結論です。
――漫画への反応を、創作活動や実生活にどう生かしていきたいですか
今回は、非常に好き嫌いの分かれるモチーフだったと考えています。中には攻撃的なリプライもありましたが、描いたことは後悔していません。しかし、自分の本意でない伝わり方で誰かを傷つけてしまわないよう、表現に配慮していこうと思っています。
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