連載
「メンバー全員不登校でした」全国飛び回るバンドの「#withyou」
不登校だった3人が音楽でつながった――。そんなバンドグループが今年、結成20年を迎えました。リーダーの八田典之さん(36)は自身の体験を振り返り、今こう思っています。「長い人生の中で、悩んだ時間はいつか財産に変わる」。
滋賀県を拠点とした音楽バンド「ジェリービーンズ」。メンバーは、八田さんと、山崎史朗さん(34)、雄介さん(34)の双子の兄弟です。3人とも、かつて不登校でした。
依頼を受けて学校に出向くライブが好評です。普通のライブと少し違うのは、演奏の合間で、メンバーそれぞれが不登校だった頃の体験や思いを語る時間があることです。
生徒たちに「人には様々な心があることを知って、自分らしく自分のペースで生きてほしい」という願いを込めています。年間100回近く、全国の小中学校を飛び回っています。
公演を聴いた生徒からは「不登校だったこともあったけど自分に自信が持てた」「自分がかけがえのない存在と思えた」といった反響の声が寄せられています。ある時、公演後に希望をもらったという生徒が涙を流しながら「僕も生きがい持てますか」と、心の内を語ってくれたこともあったといいます。
ジェリービーンズのリーダーで、ベース担当の八田さんに、不登校の体験や仲間との出会いについて、振り返ってもらいました。
――いつから不登校になったのですか。
「小6の時です。朝ご飯を食べて準備はするんですが、なぜか家から出られない。『しんどい』と言って親を怒らし、階段でじっと座っていたのを覚えています。中学になってからも、ほとんど行けませんでした」
――理由は何だったのですか
「直接いじめにあった訳でもなく、はっきりした理由は分かりませんでした。ただ、今思えば、いじめの現場を目の当たりにしたり、友達との関係がぎくしゃくしたり、色々とストレスが重なっていたのだと思います。病院に行ったら自律神経失調症と診断されました」
――自宅でどう過ごしていたのですか
「最初の頃は、1日中テレビゲームをしていました。でも、このままじゃまずいと、焦っていて…。そんなとき、家にあった音楽雑誌で紹介されているギターに目を引かれました。もうカッコよくて(笑)」
「そしたら父が納戸からクラシックギターを出してきて、簡単なコードを教えてくれました。で、ピアノも習ってみたらと言ってくれて。誰にも会いたくなかったので、家の数十メートル先にある教室に、猛ダッシュして通いました」
――バンドの音楽もよく聴いたのですか
「はい。不登校の時に、よく聴いてたのはミスチルでしたね。『花 -Memento-Mori-』という曲を初めて聴いたときはしびれました。Bメロで流れ出すベースがカッコよくて。ベースをやりたいと思ったきっかけです。歌詞にも励まされました。『等身大』って言葉を知って、ありのままの自分いいんだ、と思わせてくれた曲です」
「音楽には本当に救われました。不登校って、自分だけが置いていかれる、将来の就職にも影響するんじゃないかっていう不安があるんですよ。でも、夢中になって楽器を練習する時間ができ、自分には音楽があるんだっていう自信がわいてきました」
――他のバンドメンバーとは、どうやって知り合ったのですか。
「僕が中1の時でした。不登校の親の会で、まず親同士が知り合って、家族同士で一緒にバーベキューに出かけました。そこで意気投合して、翌日から毎日遊ぶようになりました。公園で野球したり、琵琶湖に釣りに行ったり。やがて、お互いの家でそれぞれ好きな楽器をひくようになりました」
「その延長でバンド活動するようになったんです。そして18歳で上京しました」
――学校でのライブで不登校の体験を語るようになったのは、なぜですか。
「転機は8、9年前です。バンドとしての方向性が見えなくなっていた時期がありました。そんな時、かすかに動く手で文字を書く難病の書家の友達ができて思ったんです。一見コンプレックスのように思えるものこそ、自分のオリジナルなんじゃないかって」
「それから少し後に、知り合いの校長先生から、教員の勉強会で3人の体験談をぜひ語ってほしいと頼まれて、じゃあ演奏も取り入れてと、やったのが最初です。メンバー同士も知らなかった過去のつらい経験を、泣きながら明かしました」
――今、不登校の自分に悩んでいる10代に伝えたいことは、どんなことでしょうか
「しんどい時は立ち止まって休めばいいさ 長い人生のほんの一瞬さ」
「これ、オリジナル曲の歌詞の一部にしたのですが、実は、僕が不登校だった頃にある人に言われて楽になった言葉です」
「不登校って、その時はすごく不安になるんですけど、振り返ってみると悪くなかったなと思うんですよ。好きなことに熱中できる時間がたくさん作れたり、学校以外の居場所でひと足先に社会経験を積めたりもできます」
「不登校の僕に、ある日、親が嬉しそうに言ってきたことがあります。『不登校の子は感受性が豊かなんやって』と。誰からか聞いてきたのだと思いますけど、僕も今そう思います。感受性が豊かだとその分悩みやすいのかもしれません」
「でも、それは人と喜びや悲しみを分かち合ううえで必要な感覚でもあります。人は似たような悩みを通じて、心がつながることも多いのではないでしょうか。僕らのバンドがまさにそうであるように、悩みは新しい出会いのチャンスなんだと」
「そして、好きな人、好きなもの、好きなことと、とことん向き合ってほしい。その中で『自分らしさ』に気づき、次につながるはずです」
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