連載
学校が憂うつなら「敗者の弁を聞こう」たらればさんの「#withyou」
withnewsは4月から、若者に「ひとりじゃないよ」と伝えるキャンペーン企画「#withyou」を始めます。新学期直前の今回は、人気ツイッターアカウントの「たられば」さん(@tarareba722)に、学校が憂うつな10代へのメッセージをもらいました。匿名で質問できる「質問箱」には、「死にたい」という若者からの相談も届くそうです。たらればさんのこたえは……。(朝日新聞デジタル編集部記者・原田朱美)
「学校を卒業して、授業で教わった内容をすべて綺麗に忘れてしまったあとで、それでも自分のなかに残っているものが教育の成果である」(アインシュタイン)という箴言がとても好きです。
— たられば (@tarareba722) 2013年7月3日
前回は、ご自身の昔話からチャーシュー麺の効用まで、たられば節が満開なインタビューでした。後半は一転、シリアスなテーマから始まります。
――ツイッターの質問でも『死にたい』ってきますか?
「あります。あまり答えないようにしています。よく死にたいという若者からの訴えに対して、大人側は『真剣に受け止めないといけない』と言われますが、僕はちょっと意見が違っていて。半身で聞く方がいいと思っています」
「ひとつは単純にこちらが引きずられてしまって、擦り切れてしまうから」
「もうひとつは、あなたにとってあなたの悩みはとても大きいかもしれないけれど、相談をされた方を含めた世界全体にとっては、砂粒のような悩みであると、分かってほしい」
「無視されうるものだし、例えば僕にとっては毎日60本届く悩みのひとつで、特権的な悩みではないと」
「自分」とは、好きだろうが嫌いだろうが(他人と違い)物理的に距離を遠ざけたり近づけたりできないので、なだめたり時に見ないふりをして、なんとか安定した付き合いができるよう目指したほうがよいと思います。 #peing #質問箱 https://t.co/fFzWZRsWCT pic.twitter.com/vp5qQwIVTJ
— たられば (@tarareba722) 2018年2月16日
――池澤夏樹さんの小説「スティル・ライフ」(中公文庫)の冒頭を思い出しました。「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない」という。
「自分が世界の中心だと思いすぎると、自分中毒になっちゃうんですよね。自分自身に対しても、半身くらいで考えた方がいいんです」
「じゃないと、自分の小ささに潰れちゃうし、世界の狭さに窒息してしまう。それこそ、犬とか猫とか本とかSNSとか美味しいラーメンとか、外に気持ちを向けた方がいいですよ」
「これはちょっと矛盾した話ではあるんですけど、そもそも質問箱の回答って、ツイッターなのでせいぜい100字程度しか書けません」
「人生や社会における大きな問いに対して簡単に結論を出すことって、危ないんですよね。人生の問題は、地に足を着けて、時間をかけて取り組んだ方がいいことが、ほとんどです」
「でも、追い詰められている人には、とりあえず浮輪は必要かなと思って、こたえています」
「だからたとえば『この三択で悩んでいます、いったいどれが正解なんでしょうか』という質問には、『いやー、四択目も五択目もありますよ』、というような回答がいいんだろうなと思っています」
「怖いのは、『大人や賢い人が自分の知らないすばらしい解決方法を教えてくれる』と思ってしまうこと」
「さらに怖いのは『この世のどこかに、自分のことを自分以上に分かってくれている人がいる』と思ってしまうことです」
「それは依存先が自分からその相手に変わっただけで、背負っている荷物はまったく軽くなっていない」
紙に書きましょう。書いたら誰かに見せましょう。それを繰り返すと(アウトプットが整理されると)、次第に脳内処理も整理されてゆきます。 #peing #質問箱 https://t.co/9JMui2dxfZ pic.twitter.com/4nZCERLWVf
— たられば (@tarareba722) 2018年3月2日
――ツイッターで、たらればさんが語る古典文学の話は人気コンテンツです。オススメの本について教えてくれませんか?
「角川ソフィア文庫か河出書房新社の『枕草子』がオススメです。千年前の、日本で最初に書かれた随筆です」
「『枕草子』って、歴史的背景として筆者の清少納言や中宮定子がとてもしんどい状況の時に書かれていることが分かっているんですが、中身を読むと、いいことしか書かれていない」
「世の中はこんなに素晴らしいものがある、楽しいことがある、美しい時間がある、と書いてある」
「そういう背景を知って読むと、そうした楽しいことや美しい時間の話に、勇気をもらえる気がするんですね」
――漫画やアニメにもお詳しいので、そのへんはどうでしょう。
「若い子だったら、『ちはやふる』(末次由紀)をお薦めしたいです。中高生にはぜひ」
「あと最近読んで人に薦めまくっているのが『彼方のアストラ』(篠原健太)。少年たちが置き去りにされて自力で返ってくるという『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ)や『11人いる!』(萩尾望都)へのオマージュなんですけど、傑作です。SFだしミステリーだし。両作とも、生きるって捨てたもんじゃないなってわかるし、しんどい時の『いなしかた』の描き方がよいし、なにより脇役が輝くドラマなので」
「あと、僕じつは選挙の敗戦コメントマニアなんです」
――落選が決まった後に支持者の前で話すアレですか。
「『良き敗者』が好きで。たとえば、アメリカ大統領選挙。あれってこの世で一番お金がかかっていて、多くの人の人生がかかっていて、自由社会最大の権力機構が劇的に動く選挙ですよね」
「そこに一世一代の勝負を挑んで負けた人が、いったい何を語るのかというのが面白くて」
「2016年の選挙でのヒラリー・クリントンさんの敗戦コメントは非常にすばらしかったですが、2008年の選挙でオバマさんに負けたジョン・マケインさんはもっといい。『アリゾナの夜よ、ありがとう』は感涙必至です」
――なるほど。敗者のありようを学ぶ、というのもいいですね。
「人生って、負けることの方が多いですから。1勝9敗で、全然いいんですよ」
「9回負けることに耐えられない人は多いですが、でも昔とくらべると、失敗した時のリスクって小さくなっていると思いますよ」
「少なくとも、僕が就職した頃よりも、退職してフリーになった時のリスクは減っていますし」
「受験だって就職試験だって失敗したっていいし、学校がどうしても馴染めなければ中退して数年ぶらぶらしていたっていい。起業して借金抱えても返せばいいわけで」
――失敗したら最後、二度と復活できないというイメージの方が強いですが。
「そんなイメージありますけど、全然そんなことないと思いますよ」
――ツイッターでも、よく「仕事は楽しい」「人生は楽しい」というメッセージを発していますね。
「いやあ、最初はやせ我慢だったんですけど、楽しいと言ってたら段々本当に楽しくなってきたんです」
「あと、楽しいと言っていたら、周りに楽しい人が増えました。しんどいと言っていると、しんどい人が増えてくるんです」
「もちろん、つい弱音や溜息を漏らす場所として、ツイッターやSNSは大事な場所なんですよね。そこは大切にしたい」
「でも自分で吐き出した言葉って、それに囚われることがあるじゃないですか。自分のセリフに足を捕られて動けなくなってしまわないよう気をつけた方がいいとは思います」
――動けなくなった時はどうすればいいのでしょう?
「そういう『あ、やばい、動けない』ってなった時は、歯を磨いてお風呂に入って、チャーシュー麺を食べて、犬を撫でてみてはどうでしょうか」
「そうすると、カーテンを開けて外を見る気持ちがちょっとだけ湧いてきて、あー、春の夜明けっていいなあ、夏は夜がいいかな、秋だったら夕暮れだ、と思えるようになるかもしれません」
「それでもダメならツイッターへどうぞ。真面目な話をしている人もたくさんいますが、今日もきっと、おかしな編集者や変な医者や変わったライター、SE、学者、弁護士、経営者、企業公式アカウントといった、世間的には立派な大人と思われている人たちが、いい歳こいてバカな話をしながらげらげら笑っています」
◇
後半も、ツイッターで愛されている「たらればさん」らしいメッセージでした。
どうか、いま私が胸に感じているあたたかさと、ふっと緩んだほおが、ひとりでも多くの人に、拡散していきますように。#withyou
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