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ゲームから脱却あるのか 五輪競技目指すeスポーツ、楽観論と現実論
日本選手団のメダルラッシュもあり、盛り上がりを見せる平昌冬季五輪。そんな中、家庭用ゲーム機やパソコンを使ったゲーム対戦をスポーツ競技ととらえる「eスポーツ」の五輪競技化に向けた動きがあり、2月には国内でも統括団体が活動を開始しました。五輪競技化は本当に実現するのでしょうか。eスポーツに関する二つの国際団体の幹部に単独インタビューし、見立てを聞きました。
話を聞いたのは、世界約50の国・地域のeスポーツの協会組織が加盟する「国際eスポーツ連盟」(IeSF、韓国)のレオポルド・チュン事務局長と、世界各地でeスポーツイベントを運営する団体「eGAMES」(英国)のチェスター・キングCEOとジェームズ・シェルストンベイカー上級副代表。いずれも、2月10、11日に千葉・幕張メッセで開催されたゲームイベント「闘会議2018」を視察しました。
このイベントの主催団体の一つが、これまで三つも存在していた業界団体を統合した「日本eスポーツ連合」(JeSU、代表理事=岡村秀樹・セガホールディングス社長)。ゲームメーカー各社が加盟するコンピュータエンターテインメント協会(CESA)と日本オンラインゲーム協会(JOGA)の全面的な協力を受けて発足しました。
将来の五輪競技採用を視野に選手のプロライセンス制度も立ち上げ、今回の「闘会議」では、「ウイニングイレブン2018」「コールオブデューティ ワールドウォーⅡ」「ストリートファイターVアーケードエディション」「鉄拳7」「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライク」の人気6タイトルについて、ライセンス獲得のための公認大会が開かれました。
まず、JeSUの発足について、eGAMESのキング氏は「ゲームの作り手側、ゲームイベントの企画者、そして選手たちの全てがそろった組織は世界的に見ても大変珍しいので、それを日本でできたということは、大変素晴らしい」。
IeSFのチュン氏は「eスポーツは、サッカーなどと同じく公式なスポーツなんだ、という認知を高めることにつながる。今はこの分野は韓国、中国が先を行っているが、eスポーツに関する声を全部とりまとめるJeSUができたことで、それに肩を並べる動きが加速していくと思う」と、ともに評価するコメントが出ました。
しかし、さらに日本側の課題、五輪競技化への道筋について聞いていくと、それぞれの見解の違いが出てきました。
子どもの頃、「ゲームばかりやらないで、勉強しなさい」と親に怒られたことはありませんか?
eスポーツの選手たちは、海外では大会で多額の賞金を得られ、その技術の高さが多くの人たちの敬意を受けますが、日本では法的に高額賞金を出すことについて問題視されている部分があるとともに、いわゆる「ゲーマー」の社会的地位や知名度が一般的にそれほど高くない部分があると思います。
そうした日本の状況については、どう見るのでしょうか。
チュン氏は「チームワークや協力することの意味合い、社会性、他人への敬意や思いやりなどが身につくという部分があると思います」と語り、eスポーツの教育的な側面を強調します。
一方、フィギュアスケートなどを例に出しながら、従来型のスポーツについては「あれだけ体に厳しいことをやっていると、やる人は減っていくと私は思います。厳しい練習をするスポーツに比べ、若い世代はeスポーツに対して非常に興味を示していて、こちらの人数は確実に増えていきます」と持論を展開。
「産業が進む中で、スポーツも含め、世の中は成熟していく」とした上で、「今、テクノロジー系の産業が若い人たちに大きな影響を与えていて、eスポーツもその土台になっている。今、時代を支えているのは若い人たちなので、若い人たちが何に本当に興味があるかを見極め、その上の世代は若い世代をサポートするべきで、その際にeスポーツというものは無視できない」と語ります。
一方、賞金については、それが関係するのは、eスポーツに携わる人たちの中でもプロ選手だけに過ぎないとし、「賞金額は正直そんなに関係ないと思う」と話します。ただ、その上で、「eスポーツが盛んになっていくことで、法律的な面、政治的な面についても働きかけられるようになるだろう」との考えを述べました。
一方、キング氏は「英国でも同じく、eスポーツに対するネガティブな印象というのはあると思う」とした上で、「『スクリーンを見る』という時間の中では、他のものと比べて、(対戦相手など)他人との関わりがあるので良い時間だととらえている。勉強とeスポーツとをバランスよくやることや、15歳だったら15歳以下が遊べるゲームだけをするということなどを働きかけていきたい」と話します。
賞金についてはチャン氏と反対に、「すごく重要だ」と言います。
「eスポーツが経済的規模の面で盛り上がっていくことは必要で、賞金が増えることでシステムみたいなものがうまく回るようになる。選手たちのキャリアが望めるようになったり、設備が充実したりする効果があると思うので、賞金自体が大きくなるということはすごく大事なことだと思う」と語りました。
スポーツの世界では、古くは柔道、最近ではカーリングなどが、五輪競技となったことで日本や世界で知名度を上げ、人気につながった、というケースがあります。
昨年10月、スイスのローザンヌで国際オリンピック委員会(IOC)が競技団体の幹部らを集めた五輪サミットではeスポーツが議題に上がり、IOCがゲーム産業界などと協議を深めていく方針が決まりました。若者の五輪離れに歯止めをかける起爆剤への期待が込められているようです。
すでにアジア・オリンピック評議会(OCA)は今年ジャカルタで開くアジア大会で公開競技として採用し、2022年大会(中国・杭州)から正式競技にすることとしています。
チュン氏は「五輪に入れていただく、ということについてはある程度時間がかかり、一足飛びにはいかないと思うが、ファーストステップとして、5年前に世界反ドーピング機関(WADA)には入っている」と話します。
2008年に韓国、デンマーク、オーストリア、ドイツ、オランダ、スイス、ベトナム、台湾のeスポーツ協会で設立したIeSFは現在、約50の国・地域が加盟し、うち27団体がそれぞれの政府から認められている団体とのこと。「我々はだんだん力をつけていますので、そこからの声を届けて公に認知されるようにやっていきたいと思うし、自信を持っています」と話します。
日本については、「JeSUもできましたので、杭州アジア大会までのあと4年で必ず、良い選手を送ることができるなど、世界の流れに追いつくことができるような形に必ずなっていくと思います」と話しました。
やや楽観的に見えるチュン氏に対し、キング氏は「正直、大変難しい」と冷静に分析します。
理由としてまず一つは、国によってeスポーツをどう分類するかに違いがある、ということを挙げます。英国ではまだまだ「ゲーム」という扱いである半面、「スポーツ」であることを強調する国もあります。
今回、半導体大手のインテルが五輪の国際トップパートナーとしての活動の一環で、平昌冬季五輪に合わせてeスポーツ大会を開催。eGAMESも2016年、リオデジャネイロ五輪に合わせてeスポーツイベントを実施しましたが、「我々としては五輪のファンゾーンやショーケースみたいな形でゲームが展示されたり遊べたりする、という形については言えるかな、と思うが、実際に競技としてメダルが付与されるのは大変難しいと思う」と語ります。
ゲームは、専用ゲーム機で遊ぶものもあれば、パソコンを使うものもあります。国によって人気のゲームが違うなど細分化が進んでいるので、どのゲームで世界一を競うのかを決めるのも難しい。また、他のスポーツと違い、ゲームは誰かが作った「商業的なもの」であるため、特定の企業の利益につながりかねない可能性もあります。
なので、柔道ならば、国際柔道連盟という一つの国際統括団体が存在しますが、ゲームは山ほど種類があるため、eGAMESとしては「eスポーツの国際統括団体を作ることはある種、国際スポーツ連盟を作ろうとしているようなもの」に見えるそうです。
ただ、それが実現するとしたら、ゲームの作り手側の企業が担うことになる、ともeGAMES側は考えています。「その点、作り手側が業界団体に参加している日本は良いポジションにいると思っている」と話します。
eスポーツについては、日本ではまだまだ限られた人たちの議論にとどまっている部分があります。
従来型のスポーツについても、IOCでの議論をはじめとする国際的な流れを踏まえないと全体像は見えません。
国内での今後のeスポーツの展開はまだまだ未知数なところが大きいですが、引き続き世界の流れを見極めた上での議論が必要となると思います。
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