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「天神祭ギャルみこし」一発芸オーディションが「吉本レベル」だった
日本三大祭りのひとつ「天神祭」。大阪市北区の大阪天満宮を中心に、7月24、25日の2日間にわたって行われる。その前にもうひとつ、大阪の女たちの熱き祭典がある。7月23日に巡行する「天神祭ギャルみこし」だ。(朝日新聞大阪映像報道部・遠藤真梨、矢木隆晴)
ギャルみこしは、日本一長い商店街として知られる天神橋筋商店街の4町会が主体となり、地域の振興を目指して、1981年に第1回を開催した。今年で37回目を迎える。
正式名称は「天神祭女性御神輿」。だが、いつのころからか「ギャルみこし」と呼ばれるようになった。ギャルはギャルでも「コギャル」とか「ガングロギャル」の意味ではない。一昔前の「若い女性=ギャル」だった時代の名残。語呂もいいし、すっかり定着した。
7月8日、商店街で2基のみこしの担ぎ手を決めるオーディションが開かれた。集まったのは、書類選考を通過した15歳から30歳の女性128人。ここから80人に絞られる。参加者は大阪市内にとどまらず、東京、神奈川、ドイツ(!)と幅広い。
オーディション内容は、重さ70キロのてんびん棒を担ぐ体力審査と一発芸。みこしを担ぎたい思いが高まりすぎて、みんな自己アピールの熱もかなり高めだ。
宝塚・男役の仮装であいうえお作文を披露する人、得意の武道で実行委員の男性スタッフを倒す人、アニメキャラのコスプレでアニソンを完璧に踊る人、エアあややのモノマネでキレキレのダンスをしながら変顔を披露する人…。
たとえそのネタが万人受けしなくとも、シュールでも、胸を張って体を張って笑いを取りにいく。
その様子を実行委員長の三浦高宣さん(43)は「もし自分だったら、恥ずかしくてよう出来ない。すごいなと思います」と尊敬する。審査中の会場はさながら寄席のようだった。
実行委員の河野勝則さん(45)は「ミスコンではない。元気よく、健康的な方を選んでいます」と話す。
選考会では審査項目に点数をつけて順位化。声の出し方や、やる気、がんばりなどを考えて総合的に選んでいるという。
参加者がオーディションを受けた理由は様々だ。「受けようと思ったら妊娠。子育てが落ち着いたので」というママや、「昔、母親が参加して、ミス天神橋を取れなかったからリベンジしたい」という親子2代続けての挑戦者も。
中でもひときわ目を引いたのが、一発芸でフラフープを披露した斎藤由季さん(27)だ。
話を聞いてみると、社会人になって5年目。会社では後輩もでき、いつまでも若手のままでいられない自分の立ち位置に悩んでいた。同居する親からの自立心が芽生えると同時に、育ててくれた感謝の思いがあふれた。
「30歳まであと3年。女性の人生の分岐点ですよね」。毎日楽しく、友達にも恵まれている。でも、もっと有意義な時間を過ごすためにはどうしたらいいのか。「新しい自分に出会いたい。チャンスやと思って応募しました」
結果はいかに…。
オーディションから1週間後の16日、合格者が集まるオリエンテーションに斎藤さんの姿があった。
オーディションの舞台で、フラフープを回しながら「成長して、家族や友達、大事な人たちに恩返しをしたい」と真剣な面持ちで宣言していた斎藤さん。その動画を見た両親からは「笑いで恩返しもらったから、もうええわ」。
受験を薦めてくれた上司は合格を喜び「吉本興業からオファーくるんちゃう」。友達からは「動画を永久保存版にして、元気ないときに見るわ」と、思いもよらない反応が。
自分の中でもだいぶ意識が変わったようだ。「あの日をきっかけに前向きになれてる。怖いものなし。もう、全裸でも恥ずかしないわみたいな。あ、それ公然わいせつやけど」とノリツッコミも飛び出した。
会場に揃った合格者は、白地に赤い梅模様が描かれたはっぴと、祭りの舞台となる大川をイメージした青い帯に身を包んでいた。
足元は白足袋でそろえ、いでたちはすっかり「祭の女」だ。はちまきを巻くためにアップスタイルに「盛った」髪形とおそろいの赤い口紅が華やかで、心なしか表情にも自信があふれている。みんな1週間前とは見違える。
衣装を整えると、いよいよ初めてみこしを担ぐ「肩合わせ」だ。
商店街に面した広場に、みこしを担ぐ女性を見ようと見物客が集まった。身長別に4グループに分けられ、1グループ20人が交代で担ぐ。みこしの重さは約200キロ。単純計算でも、1人あたり約10キロの重さが肩にかかる。
「わっしょい、わっしょい」。ゆっさゆっさとみこしを揺らしながら、見物客に近づいては遠のく。全方位を見せんとばかりにぐるぐる回る。担いだまま上下に跳びはねると、みこしに付いた鈴が「シャンシャン」とリズミカルに鳴る。
練習とはいえ動きは激しく、数分経つと元気だった笑顔は消え、みこしの重さと肩の痛みに苦悶の表情を浮かべる女性も。「腹から声を出しながら担ぐと、酸欠状態になりますわ」と、実行委員の河野さんは言う。本番は商店街から大阪天満宮の間、往復4キロを巡行する。
全グループの練習が終わると、2列に並び「わっしょい」のかけ声を商店街に響かせながら、大阪天満宮へ参拝に。みこし巡行の安全を祈願した。
ギャルみこしは、各店舗から集めた商店街費で運営している。運営をプロの業者には頼んでいない。
実行委員長の三浦さんは不動産屋さん。広報担当の河野さんの本業は婦人服店だ。それぞれ商店街の店主たちが、本業の合間をぬって手弁当でまつりを運営している。
プロの業者に頼んでいないとはいえ、商店街のそれぞれの店主がその道のプロでもある。
公式ホームページに掲載されている写真は、商店街にある写真館のおっちゃんが第1回から撮影したものだ。ポスターのデザインやホームページ作りは、知り合いのデザイン会社がボランティアでやってくれている。
37年間続けているので、先輩から受け継いだノウハウも蓄積している。できることはなるべく自分たちの手でやり、そのぶんの経費を、懇親会など担ぎ手のために使うのだという。
「経費で商店街の持ち出し分が出たとしてもいい。天神祭ギャルみこしで商店街を好きになってもらえたら」と、実行委員長の三浦さん。
自分の代でも盛り上げていきたい。途切れさせることはできない。そんな思いを感じた。日本一長い商店街、人気の秘訣はここにあるのかもしれない。
ギャルみこしは、いよいよ23日が本番。当日は天神橋筋四番街、南端の夫婦橋を正午に出発し、夕方まで商店街を巡行しながら元気を届ける。
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