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進化した「ラブドール」女性に人気の理由 熱気が伝える秘めた欲望
東京・渋谷で6月11日まで開催中の男性向けラブドールの展覧会「今と昔の愛人形」。先月20日から開催され、入場者数は5千人を超えました。うち6割が女性だといいます。性の展示に詳しく『秘宝館という文化装置』の著書がある、東北大学准教授の妙木忍さんと会場を訪ねました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・木村尚貴)
美術担当をしている記者は4月下旬、写真家の篠山紀信さんがラブドールを撮った「LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN」の刊行会見に行きました。篠山さんは「いわゆるダッチワイフから発達した性具が、まるで一つの芸術と呼んでもよいくらいの作品にまで昇華しているというところに、面白さを感じた」と話しました。
会見の数週間後に、ドールメーカー大手の「オリエント工業」が40周年を記念する展示を開くと聞き、実際に見てみようと足を運びました。
そこで目にしたのは、造形の精巧さ。ドールの芸術性については、withnewsで、先輩記者が書いているので詳しくは触れませんが、記者が驚いたのは、会場の女性比率の多さです。「キワモノ好きの一部の好事家」と呼ぶのはためらうような普通の人たちです。
ラブドールが女性の身体を商品化しているという批判は承知したうえで、それでもなお、女性にある種の価値観の変化が生まれており、それはいまを象徴しているのではないか――。この現象自体と、その理由を記事に書けないか考えました。その結果が7日の朝日新聞の記事「精巧ラブドール展 目立つ女性」でした。
この記事で、読み解きをお願いしたのが妙木さんです。仙台市の東北大学から東京の会場に来るという妙木さんに記者が同行しました。
会場のギャラリー「アツコバルー」に向かったのは6月4日。雑居ビルの5階で、エレベーターを降りると、狭い会場には多くの人が集まっていました。男女比は6対4くらい。20~30代の若者が多い印象でした。カップルや、女性の2人組み、3人組が目立ちます。外国人もいます。
事前に来場者に聞いたところでは、SNSや、インターネットメディア、ファッション誌などで情報を得たという人が多かったです。来場の理由については「興味があって」「面白そう」「きれいだから」「メイクの勉強になる」などの声が聞けました。
さて、実際会場に入ります。「あのような仕掛けは秘宝館にもありますね」と妙木さんが指したのは、女性の下半身を神社のようにまつったコーナー。「さい銭を投げ、願いかなうようお祈りしてください」とスタッフが促しています。
一体だけさわることができるシリコーン製の最新モデルのドールには人の輪。入れ代わり立ち代わり感触を確かめていました。肌は少しひんやりとしていて、弾力があります。
男性が遠慮がちに触るのに対し、女性の方が積極的にがしがしと触るような傾向がありました。それを見ていた妙木さんは「秘宝館の場合は直接人形に触れることはありませんが、来場者が何かアクションをできる要素があるのは共通してますね」と話しました。
会場には、オリエント工業の草創期のドールから最新モデルまで17体のドールを展示していました。かつてはダッチワイフと呼ばれましたが、2000年ごろからはラブドールという名が浸透してきたといいます。
造形の変遷を見れば、名前が変わってきたことも納得します。実在の人間に近いように進化しているのです。
ほとんどの展示されているドールの下半身は、何らかのものを身につけているので、そこまで強烈な淫靡さは感じません。漫画やアニメの世界の延長という印象でしょうか。
一部をのぞき、会場は写真撮影OK。女性がドールと並びスマホで自撮りをしたり、「かわいい~」「これ実際に原宿いそう~」などと論評しあっていたりする光景も見られました。妙木さんは「女性が、語り、見て、楽しむという現象が起きているのですね」と分析していました。
常駐するオリエント工業のスタッフが、自身の仕事について笑顔で熱心に解説をし、見学者の質問にも答えています。ラブドール展と、妙木さんの研究する秘宝館とでは、作り手がものすごくまじめに作品を作っていることが共通しているそうです。
秘宝館は音響や機械装置と人形の組み合わせの展示空間、ラブドールはその造形に高い技術が込められているというのです。ちなみに、オリエント工業のドールは、数年前に熱海秘宝館にも導入され、両者の因縁も感じてしまいました。
妙木さんは「性をめぐる展示には、人々の欲望が反映されています。その時代ごとに、秘められたものが何であったのかを、展示に読み取ることができます。そしてそれに関心を寄せて見る人がいることが、社会を読み解く一つの手がかりになると考えています」と話していました。
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