連載
「見た目問題」アルビノを武器にした男性の決意 「僕は可哀想?」
「苦労話を聞きたいなら、僕に聞いても無駄ですよ」。皮膚や体毛が白く、アルビノ・エンターテイナーを名乗る粕谷幸司さん(33)は、「アルビノに生まれてよかった」と言います。顔の変形やあざ、まひ、脱毛など特徴的な外見のため、いじめにあったり、恋愛や就職で苦労したりする「見た目問題」。多くの当事者が偏見という名の壁に苦しむ一方、自らの見た目への受け止め方は一様ではありません。
――白いですね
「アルビノですからね。髪の毛、まつ毛、まゆ毛、ひげと、体毛は全部白いです。皮膚も白く、瞳は青っぽいです。生まれつきメラニン色素をつくれない、またはわずかしかつくれない遺伝子疾患です」
「でも、遺伝性だからと不安をあおりたくありません。両親も、親戚もアルビノの人は1人もいません。1~2万人に一人と言われています」
――見た目以外の症状は
「ほとんどのアルビノの人に、視覚障害があります。僕も弱視で、目の前にいる人も、ぼやけて見えます。光に敏感で、過度にまぶしく感じます。運転免許はとれません」
「日焼けをしやすく、肌がただれ、やけどのようになります。子どものころ、曇りだから大丈夫だろうと思って、プールの授業に参加したら、全身を真っ赤に日焼けして大変でした」
――症状のせいで、学校でいじめられたり、苦労したりしたことは
「ないですね。みんなと違うという自覚はありましたが、コンプレックスはなかったです。弱視なので、黒板に書かれた字が見づらいため、一番前の席にしてもらったり、耳から入ってくる情報でノートを書いたりと、自分なりに工夫してこなしました」
――ほかの当事者の方から、「ジロジロ見られるのが苦痛だ」との話を聞いています。視線はどうですか
「見られている気配はします。でも僕は気にしません。見られるのは仕方ないって思っています」
「アルビノの苦労話を聞きたいなら、僕に聞いても無駄ですよ。可哀想なんて思われたくないですし、僕は可哀想じゃないですし」
「『アルビノ=悲劇』としてメディアによって描かれがちだと思います。僕も過去に取材を受けた時に、記者さんが『とはいえ、苦労しましたよね』って何度も聞いてくるので、苦労した人を演じたこともありますが、もうやめました」
「もちろん、学校でいじめられるなど差別や偏見に苦しんだアルビノの方もいます。でも、それって個人差があるし、僕は、そうじゃないアルビノの捉え方があってもいいと思っています。アルビノの当事者にも、いろんな生き方があります。僕を見て、『アルビノって、かっこいい』って、思いませんか?」
――確かに、オシャレって感じる人もいると思います
「そうですよね! かっこいいと思ったら、かっこいいって言ってくれればいいと思います。でも、『アルビノの人は苦労している』との報道ばかりされると、それを見た人も『苦労している人に、かっこいいなんて言ったら不謹慎だ』と思ってしまうのではないですか?」
「その点、真っ白なキャラクターに『かわいい』ともえているオタクの方々のほうが進んでいますよ。かつて、社会現象にもなったアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイは、髪の毛が白いキャラでしたよね。最近では、女優の新垣結衣さんが、ドラマで白いキャラを演じていましたし」
「10年ほど前から、僕はアルビノについて、ブログやTwitterで情報を発信しています。症状について解説したり、『アルビノは悲劇じゃないよ。僕は楽しく生きているよ』と訴えたりしています。もしアルビノの子が生まれて不安になっている方がいましたら、ぜひブログを見て下さい」
――粕谷さんはどのように育てられましたか
「母は、僕に『人と違ってお人形さんみたいに可愛い』『キレイ』『天使みたい』『かっこいい』と、僕の存在を肯定し続けてくれました。今、僕がアルビノである自分を肯定できるのは、母のおかげだと思います」
「僕が生まれたのは、ネットもない時代だったので、大変だったと思います。『この子は、なんで白いの?』と、何軒もの病院に足を運んだそうです」
「『短命だろう』『知的障害があるだろう』『皮膚がんになるだろう』と根拠もなく言う医者もいたと言います。苦労して情報をかき集めた結果、『日差しに注意が必要で、弱視だけど、それ以外は健康だろう』という安心感だったそうです」
――アルビノの方は、髪の毛が白いので、就職活動に苦労すると聞きます。
「新卒採用で、30社以上落ちました。営業職を受けたときは、『人より目立つ外見を生かせます』とアピールしましたが、人事担当者に『会社内はいいけど、社外の人にわざわざ説明するわけにはいかないからね』と言われました。僕の人間性や将来性を見ず、白いってだけで拒否したのだから、度量の小さな会社だと思いました」
「ただ当時は、むちゃくちゃ落ち込みました。『採用されないのは、アルビノのせいでは…』と頭によぎりました。でも、その仮説って、実証できないわけです。それに顔写真を付けた履歴書や一次面接、二次面接は通っているのだから、アルビノのせいではなく、自分の実力がなかっただけだと考えるようにしました」
「今までの職歴としては、IT関連会社で広報担当や、アイドルのマネジャーなどです。その傍ら、アルビノ・エンターテイナーとしての活動をしてきました」
――アルビノ・エンターテイナーとは
「人とは違うアルビノという症状を、人を楽しませるために、そして自分のために使うことです。アルビノは、僕の武器です」
「大学卒業後、先輩2人とユニット『Project One-Size』を結成し、活動してきました。インターネットラジオや朗読劇、歌のネット配信など、おもしろそうなことは何でもやってきました。昨年冬にメンバーは『卒業』となり、今は僕1人で続けています」
「今は、売れているとは言えません。だから、僕はまだ自称アルビノ・エンターテイナーでしょう。でも将来は、マツコ・デラックスのように有名になって、正真正銘のアルビノ・エンターテイナーになりたいと思っています」
――今は「アルビノ・バーカフェ」を東京・中野に開きたいと、クラウドファンディングに挑戦中ですね
「『アルビノって面白いじゃん。かっこいいじゃん』『アルビノを見たい、知りたい』って人たちが集う空間をつくりたい。僕以外にもアルビノの店員がいて、白を基調にした店内、白い食べ物や飲み物を提供します。アルビノの僕だからこそ、プロデュースできる店だと思います」
――社会に求めることは
「『アルビノ嫌い、怖い、キモチワルイ』って人がいるなら、その人たちの考え方を変えたいとは思っていません。そんな人たちは放っておいて、僕は『アルビノ好き』って人と一緒にいたいです。そして、『アルビノは悲劇じゃない』ってメッセージを今後も発信していこうと考えています」
――最後に。アルビノに生まれてよかったですか。生まれ変わってもアルビノを望みますか
「アルビノに生まれなければよかったのに…、と思ったことはありません。今の幸せや友だち、エンターテインメント活動は、僕がアルビノだから得られたものですから。生まれかわるなら、アルビノの女性になりたいです。アルビノ・アイドルとして、デビューしていると思いますよ!」
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