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「PTAカースト」子どもの数、経験年数で決まる序列「伏魔殿」の実態
PTAは絶対に関わってはいけない伏魔殿なのか? 40代の母親で千葉県に住む、元小学校教師の会社員は「文句を言うだけでは無責任だ、どうせなら変えてみよう」と、本部役員に手を挙げた。飛び込んで見えたのは「経験年数によるPTAカースト」。「来年から楽になるなんてずるい」という思わぬ反発も。「まったく無駄になってしまった」と語る1年間の戦いを聞いた。(朝日新聞経済部記者・堀内京子)
役員をして1年もたたないうちに、彼女は「VS ブラックPTA」というアカウントでつぶやき、ブログを開設するまでになっていた。
PTA会長をはじめ、執行部役員はPTA改革に前向きな人もいた。毎週末、集まって議論しながら改革案を作った。
◇PTAの入会は任意だということを周知し、入退会が自由にできるようにする
◇PTA会費を給食費との合算引き落としではなく、現金集金にする
◇役員数を減らし、役員をする回数も児童単位でなく世帯単位にする。かかりでお手伝いする方式を取り入れる。
というものだった。そこに、「誰の許可を得て、こんなこと決めてるんだ」と、保護者の中から声があがった。
「PTAは伏魔殿、絶対に関わってはいけない」と、小学校で教師をしていたときに言われていた。
それでもやったのは、「PTAの運営をしないでPTAを批判できない。役員をやらずに文句だけ言うのは無責任だ」と思っていたからだ。
小学校の教師をしていたから分かることもあるという自負もあった。PTAは学校組織の一部ではなく、あくまでも外部の協力団体。PTAがないと、運動会だって成り立たない?
そんなことない。運動会だって、片付けや自転車整理などはそのつど協力を呼びかければいい。慣れない保護者が運動会の白線を引いてくれたのはいいが使い物にならず、夜中に自分たちでひきなおしたこともある。それでも「PTAのおかげです」と言ってるだけ――。
それにしても、思わぬ反発だった。
「入退会を周知したら、退会者が出てPTAがつぶれる」
「退会者をPTAの行事に参加させない」
「PTAからのプレゼントをあげない」
そんな反応にとどまらず、今までに役員を経験した保護者からは「来年から楽になるなんてずるい。私たちがバカをみるみたい」とはっきり言われた。
女性はPTAの役員たちに聞いたことがある。
「このままのシステムだと、自分は退会すると思う人いますか?」と聞くと、半数以上がやめるとこたえたという。それなのに、同じシステムを引き継いできているのだ。
集団心理を利用して、親をこきつかう「ブラックPTA」だと感じた。
なぜ、学校はPTAに依頼するのか? ブログにこう綴った。
数カ月をかけた改革案は、会費の現金回収だけが通り、入退会自由の周知と、役員負担の削減案は否決された。
彼女を一番がっかりさせたのは、約半数の世帯が委任状を提出――つまり意思表示をせず、棄権したことだった。
「PTAを変えるためには役員になれ」というのはきれいごと。
彼女はブログにこう書いた。
ブログを始めたのは、まったく無駄になってしまった1年の記録を残しておきたかったのと、改革には失敗したけれど、これが誰かの役に立ていいなという気持ちからだった。
幻の改革案も公開した。
最後に一つだけ、したことがある。PTAを退会したのだ。
「かげで文句を言いながら、それでもその組織にいるということが、結果的にはその組織を支えてしまっていることになる」。PTAを退会するのは可能だということ、退会してもいじめられないこと、学校生活に不都合がないことを、示したくて、退会した。
PTAの改革を志した1年足らずの中で、噓みたいな光景を何度も目の当たりにしてきた。
口では不満を言っても、「批判されるのが怖い。どこかから文句を言われるのでは」と表では意見を言わない人たち。直前まで改革案に賛成していたのに、総会で反対派の勢いに圧倒されて「反対」で起立してしまった人――日本の現状について考えた。
彼女は書く。日本のどこかで、今日もPTA問題と闘っている誰か、そしてPTA問題をやり過ごそうとしている誰かに届くかもしれないと思いながら。
教師をしていたぐらいだから、学校も子どもも好きだ。これからも、PTAについて考え、発信していくつもりだ。
最近、彼女のブログにこんなコメントがついた。
「保育園のPTA改革で、任意加入の周知を図っていますが、やはり様々なご意見をいただくことが多く、味方も全然いない状況です。同じような悩みを抱えた方がこうしていらっしゃって、そして実際に行動されたというのは、とても勇気が出ます。失敗するかもしれませんが、自分なりにやり遂げたいと思います」
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