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2016年10月03日

“一発屋”髭男爵、テレビ局で味わう「場違い感」 まず受付で足止め

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テレビ局がすっかり苦手になった髭男爵の山田ルイ53世さん

テレビ局がすっかり苦手になった髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

 用意されるのは、スタジオから一番遠い楽屋。受付では入館にもたつき、番組観覧のおばちゃんに先を越される。かつて毎日のように訪れたテレビ局も“一発屋”となった今では気まずい場所に。「俺…場違いかな…」。気後れしながら、それでも貴重な仕事のため、月に数回、足を踏み入れている。(髭男爵 山田ルイ53世)

「最近、見ない!」「髭男爵、消えた!!」

“一発屋”にとってテレビ局は、あまり居心地が良い場所ではない。
かつて、“一度売れた”際は、毎日のように訪れたテレビ局。
お台場→汐留→再び、お台場→深夜に六本木。
一日で、幾つもの“在京キー局”を飛び回ることも珍しくなかった。

しかし、今では、飛び回るのは、地方のスーパーやハウジングセンター。
この一週間だけでも、千葉→広島→山梨→三重→大阪→兵庫と、
「物流関係のお仕事ですか?」
と聞かれそうな、トラックドライバー感溢れるスケジュールである。

遠くを見つめる髭男爵の山田ルイ53世さん

遠くを見つめる髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

これでは、SNS等で、
「最近、見ない!」
「髭男爵、消えた!!」
などと、“極一部の方々”に揶揄されても致し方ないが、全くテレビ局に行かないわけでもない。

月に二、三回は、仕事で訪れる。
その事実を知らせ、“極一部の方々”に安心して頂きたいが、彼らは匿名で、“消えて”、“見えない”ので伝える術がない。
残念である。

神戸に現れた髭男爵の山田ルイ53世さん

神戸に現れた髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

「えっ…なんで?」幽霊でも見たように

とは言え、月に二、三回では、休業に等しいのも、また事実。
テレビ局への訪問は、間が空き過ぎたものとなるため、毎回、様変わりも激しい。
馴染みのある番組は終了し、出演したことがない新番組が増える。

その昔、“ネタ番組”で凌ぎを削った人間の一部は、出世し、次なるステージへ。
僕同様、“一発屋”に成り果てたものもいれば、新たに台頭した人気者は数知れず。
数カ月単位で繰り返される“新陳代謝”は、さながら、雑なパラパラ漫画。
展開が、劇的に速い。

何年か振りの地元で、
「へー…こんな所にコンビニ出来たんだ!?」
どころの騒ぎではないのである。

相方と乾杯をする髭男爵の山田ルイ53世さん

相方と乾杯をする髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

四十男が情けない話だが、
「場違いだな…俺」
と、気後れしてしまう。

そう感じているのは、周囲も同じ。
局の廊下で、以前、仕事をしたディレクタ―を見かけ、挨拶をすれば、
「えっ…なんで?」
運悪く、幽霊でも見えてしまったかのような表情。
明らかに、戸惑い動揺している。
彼にとっても、僕は、テレビ局に存在するはずのない人間。
つまり、“場違い”なのだ。

楽屋の位置は、芸能界のヒエラルキー

“場違い”と言えば、文字通り、場所が違うのが、楽屋である。
通常、“売れっ子”の楽屋ほど、収録が行われるスタジオに近い。
勿論、その方が、何かと便利だからである。

駅近物件ほど、家賃が高いのと同じ理屈。
楽屋の位置は、芸能界のヒエラルキーそのものである。
当然、“一発屋”の楽屋は、スタジオから遥か彼方、遠く離れた場所にある。

僕の経験上、全ての芸能人の中で、最も遠いと言っても過言ではない。
まるで、徳川に刃向った、外様大名。
参勤交代よろしく、スタジオへ向かえば、息切れし、汗だくになる。

芸能界のヒエラルキーが現れるという楽屋

芸能界のヒエラルキーが現れるという楽屋

出典:https://pixta.jp/

気分は、保健室登校

“一発屋”の楽屋は、静かである。
本番前の準備で忙しいスタッフの喧騒や、挨拶まわりに余念のない女性タレントの嬌声も、我々の楽屋までは届かない。
竹林に佇む、茶室さながら。

耳を澄ませば、蛙が古池に飛び込む音でも聞こえてきそうである。
他の“一発屋”と相部屋であれば、病院の待合室のような光景になるが、気は紛れる。
しかし、一人で居るともう駄目。
気分は、保健室登校。
どうにも、気が滅入って仕方がない。

打合せに訪れたディレクタ―が、この時ばかりは、救世主のように思える。
数分後に、彼が原因で、更に居心地が悪くなるとしても。

静かすぎる“一発屋”の楽屋、まるで保健室のよう…

静かすぎる“一発屋”の楽屋、まるで保健室のよう…

出典:https://pixta.jp/

「“一発屋”ということで…」「すいません!!」

「あのー…すいません…」
何やら沈痛な面持ちの、ディレクタ―氏。
遺族にお悔やみを申し述べるような声色で、
「いや…失礼な言い方になって、本当に申し訳ないんですが…ごめんなさい…」
やたらと謝る。

「今回ですね…髭男爵さんが…そのー…」
不治の病を宣告する医者の如き、苦渋に満ちた表情。
そして、ようやく、
「“一発屋”ということで…」

僕の病名、もとい、企画の趣旨を告げるのだが、
「すいません!!」
それを追い越さんばかりの勢いで、再び謝罪が飛んでくる。

一発屋オールスターズのトロフィー

一発屋オールスターズのトロフィー

出典: サンミュージック提供

どうも、面と向かって“一発屋”呼ばわりするのが、気が引けるらしいが、謝る必要などない。
僕とて、貴重なテレビ出演の機会に涎を垂らして、ノコノコやって来た身。
最高月収を発表し、惨めな現状をぼやく。

“一発屋”にお声がかかるのは、“一発屋”企画の時…全て承知の上。
与えられた役割を果たすのみである。

しかし、そんな僕のささやかなプロ意識も、謝られては台無し。
一見、僕に対する気遣いにも思えるが、その実、
「こちらは、礼儀を尽くしましたよ!」
という、自分の良心に対する“アリバイ工作”に過ぎない。

たそがれる髭男爵の山田ルイ53世さん

たそがれる髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

“一発屋”は、テレビ局に入れない

“一発屋”が、気まずい思いをすることが多い、テレビ局。
しかし、それ以前に、我々は大きな問題を抱えている。
“一発屋”は、テレビ局に入れない。
いささか、矛盾した物言いになるが、あながち嘘でもない。

テレビ局に訪れて、まず最初に向かう場所は受付。
カウンターの向こうで、笑みを絶やさぬ妙齢の女性に、
「お疲れ様です!サンミュージック、髭男爵です!!」

最初の関門になる「受付」

最初の関門になる「受付」

出典:https://pixta.jp/

事務所とコンビ名を伝えれば、
「少々お待ち下さい!」
すぐさま、パソコンのキーボードを叩き始める。

事前に通知された、本日の来訪者のデータを照会し、
「はい!楽屋は○○となってます!行ってらっしゃいませ!!」
手渡された入行証で、改札を通り、楽屋へ。

“売れっ子”であれば、この一連の段取りは、非常にスムーズ。
数十秒もかからない。

仕事なのにテレビ局に入れないなんて…

仕事なのにテレビ局に入れないなんて…

出典:https://pixta.jp/

“売れっ子”はスムーズに入館

僕にも、そんな時期があった。
それどころか、週に何度も訪れる局だと、受付に辿り着く頃には、入行証が準備されている。
遠目に僕を確認し、先に照会を済ませてくれたのだろう。
事実上の、“顔パス”である。

僕は、
「お疲れ様でーす!」
と軽く会釈し、受け取るだけで良い。
マラソンの給水ポイントで、駆け抜け様、ドリンクを手に取るのと同じ要領。
立ち止まる必要さえない。

売れっ子時代は、ランナーのように入館してたのだが…

売れっ子時代は、ランナーのように入館してたのだが…

しかし、今や、“一発屋”。
事情が変わった。

「おはようございます!髭男爵です!!」
僕が、そう告げてから、どれほどの時が経ったか。
受付の女性が、キーボードを叩いた回数は、既に短編小説を一編上梓出来るほど。
それでも、僕の名前を発見出来ないでいる。

しまいには、パソコンを諦め、手書きの台帳まで捲り始めた彼女に、
「○○って番組で、特番だと伺ってます!」
「担当ディレクタ―の名前が△△さんです!!」
痺れを切らし、助け船を出す。
溺れているのは、僕だが。

もたつく僕を尻目に、“売れっ子”や関係者達が、何の支障もなく次々と受付を済ませて行く。
挙句の果てには、番組観覧のおばちゃん連中にまで、先を越される始末。
惨めである。

滝に向かって持ちネタを披露する髭男爵の2人

滝に向かって持ちネタを披露する髭男爵の2人

出典: サンミュージック提供

苛立ちと、恥ずかしさで、汗だく

大体、いくら探そうが無駄なのだ。
パソコンにも、台帳にも、僕の名前は載ってはいない。
何故なら、僕の来訪は、最初から受付に連絡されていないのである。

我々、“一発屋”に対するオファーは、常に直前。
そういう、切羽詰まった番組の現場では、
「まあ、いいか…」
我々に関する業務は後回しにされ、結局、忘れ去られる。
“売れっ子”ならいざ知らず、“一発屋”の機嫌を損ねようが、意に介する者などいない。

「屋外ステージ」へ向かう髭男爵の山田ルイ53世さん

「屋外ステージ」へ向かう髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

気の毒なのは、受付の女性。
彼女の胸中が、気にかかる。
目の前には、アポなしの“一発屋”。
苛立ちと、恥ずかしさで、汗だくである。

「テレビに出られなくて、情緒不安定になった“一発屋”が、鬱憤を晴らし来た!」
「嘘ついて、テレビ局に侵入しようとしてる!!」
そんな風に思われたとしても、不思議ではない。

田んぼの中で立ち話をする髭男爵の山田ルイ53世さん

田んぼの中で立ち話をする髭男爵の山田ルイ53世さん

出典: サンミュージック提供

このまま、朝が来なければ良い

夜遅く帰宅し、妻と娘の寝顔を眺め酒を呑む。
僕の唯一の楽しみである。
寝顔は最高だ。
このまま、朝が来なければ良い。

目を覚ませば、
「…あれ?今日休み?」
最後の砦…“人生の楽屋”たる我が家の居心地まで、失いかねない。

一発屋芸人、今も地道に活躍中 HG・テツトモ・ダンディ…
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