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超絶技巧!1枚の紙に命吹き込む切り絵 「もろくとも存在感強く」
紙に命を吹き込む切り絵作家の魚谷彩さん。創作の原点について聞きました。
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紙に命を吹き込む切り絵作家の魚谷彩さん。創作の原点について聞きました。
たてがみの1本1本まで切り出されたライオン、質感まで再現したトビウオの羽、丁寧に再現されたヘビのウロコ……。これらはすべて1枚の紙から作られた「切り絵」です。作っているのは切り絵作家の魚谷彩さん(25)。「切れば切るほど物体としては脆(もろ)く弱くなりますが、作品としては強い存在感を持つことができます」と話す魚谷さんに、詳しく聞きました。
2014年に武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科を卒業した魚谷さん。初めて切り絵を制作したのは中学の時でした。
「美術部に所属していたのですが、周りに絵の上手な子が多かったので、『何か人とは違う面白いことをしたい』と思い、絵を切ってみたのが始まりでした」
現在は出版社でアルバイトをしながら、切り絵作家として活動しており、5月には初めてとなる個展も開催しました。
自身のウェブサイトやツイッター、Facebookなどで作品を発信しており、インターネット上では「作品がつくる影もまた素敵」「信じられないほど細かい作品で目を疑いました」といった反応が寄せられています。
そんな魚谷さんに切り絵の魅力や、作品にかける思いについて聞きました。
――作品を作る上で心がけている点は
「私の切り絵は1色で表現することがほとんどなので、絵の中で切りぬく部分の『細かさの密度の差』に気をつけるようにしています。全体的に細かいだけでは、絵としてメリハリのない魅力に欠ける作品になってしまうからです」
――作品を完成させるのにかかる時間は
「作品や制作時の状況によって異なりますが、最も小さい作品で約5時間、大きな作品では半年ほどかかりました」
――指先ほどの小さな作品から、大きいものではどれくらいまであるのですか
「作品と呼べるものでは、500円玉ほどの大きさからポスターほどの大きさのものまであります」
――どのような素材を使っているのですか
「素材自体は作品に合わせて選んでいて、最近は和紙を使うようになりました。切る道具はデザインカッターで、刃は30度のものを使っています」
――制作していて最も嬉しい瞬間は
「最後に紙から切り絵を切り出しているときです。切り絵の完成像がやっと見えて来る、嬉しく楽しい瞬間です。化石を掘り出すような楽しさがあります」
――切り絵の醍醐味(だいごみ)とは
「その存在感だと思っています。繊細な切り絵は、切れば切るほど物体としては脆く弱くなっていきます。その一方、作品としては強い存在感を持つことができます。弱いのに強い、そんな矛盾のようなところに醍醐味を感じます。『切り絵でしか伝えられないもの』はないと思っていますが、逆に『切り絵では伝えられないもの』もないと思っています」
――ご自身が考える、作品の特徴は
「細かさと密度がある点です。また生命感や光などのイメージとして円形を切ることも多いです」
――切りすぎてしまうと、一からやり直しなのでしょうか
「今のところ切りすぎてやり直したことはありません。私の制作工程は、大まかに下絵を描いてから細かい下絵を描いて切って、描いて切ってを繰り返します。そのため、もしも切れてしまった場合でも、臨機応変に対応することができます」
――動物をモチーフにした作品が多いようですが
「動物に対する憧れや想像が、自分の表現したいイメージ作りの元になっているからだと思います。動物以外では、卵や夜景や等高線などもあります」
――これから挑戦してみたいことを教えて下さい
「いつか海外で展示したいと思っています」
――作品を見た人や、見てみたい人に向けてメッセージをお願いします
「興味を持っていただけましたら、作品自体はSNS上に載せていますので、ぜひご覧ください。ただ、切り絵は画面上で見てもその良さがなかなか伝わりません。展示の際は、ぜひ実物を見るために足を運んでいただければと思います」
◇ ◇ ◇
7月20日から26日まで伊勢丹新宿店で開催される、若手作家たちによる「紙々のアート展」で魚谷さんの作品が展示される予定です。
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