話題
「私たちのダンスが解放された」 風営法改正、社交ダンス界も動く
ダンス営業規制を緩和する風営法改正は、クラブ業界の力だけではなし遂げられませんでした。改正運動の原動力となった、ペアダンス界の歩みを紹介します。
話題
ダンス営業規制を緩和する風営法改正は、クラブ業界の力だけではなし遂げられませんでした。改正運動の原動力となった、ペアダンス界の歩みを紹介します。
ダンス営業規制を緩和する改正風俗営業法が、6月23日に施行されました。法改正の立役者としてアーティストやクラブ関係者らに脚光が集まりましたが、社交ダンスやサルサ、タンゴなどの団体が大きな役割を果たしたことはあまり知られていません。施行当日、ペアダンスの愛好家たちが開いた記念パーティーを取材しました。
23日午後9時過ぎ、東京・六本木のサルサバー。陽気なリズムに乗って、数十人の男女が軽やかにステップを踏んでいました。記念すべき日を祝おうと駆けつけた、サルサ以外の社交ダンス愛好家の姿もあります。
全国2900のダンスサークル、4万人の会員を抱える日本ダンススポーツ連盟(JDSF)の山田淳専務理事は「6月23日は私たちのダンスが解放された日です。音楽があるところでダンスを踊るのは当たり前。そういう日本にしていきたい」とあいさつしました。
風営法は1948年、売春婦がダンサーとして客をとっていた時代に、風紀を正す目的で制定されました。しかし、流行の移り変わりとともに、若者の間ではディスコで踊るようなシングルダンスが主流となり、終戦直後のような性的な営業はすっかりなりを潜めました。
にもかかわらず、相変わらず「風俗営業」として扱われることに、社交ダンスの愛好家たちは反発。1980年代以降、風営法の見直しを求めて断続的に運動してきました。それでも、ペアダンスによって「男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性がある」という警察の見解は揺るがず、規制が撤廃されることはありませんでした。
近年になってからも、風営法を理由に公的な施設から社交ダンスサークルを締め出すような動きが、高知や大阪で相次ぎます。「規制を法律から外すと、ダンス教室と称して『水着の女子高生と抱き合って踊れる』といった営業をされる可能性がある」というのが、捜査当局の言い分だったのです。
そんな逆風のなか、JDSFなどペアダンス界の人たちは、風営法の見直しを求め政治家や警察への陳情に奔走してきました。政界に確たる足がかりを持たないクラブ業界に対し、社交ダンス団体は全国に支部を持ち、地元選出の国会議員とも日頃から交流があります。こうした組織力と人的ネットワークが、ロビー活動を進めるうえで有利に働きました。
社交ダンスのクリーンなイメージは、世論にも好意的に受け入れられます。レッツダンス署名推進委員会が集めた15万筆の署名のうち、クラブ系が10万筆、ペアダンス系は5万筆程度を占めました。クラブばかりに注目が集まりがちですが、実際にはペアダンス界との「連系プレー」によって、法改正が実現したのです。
記念パーティーで「弁護士や国会議員の先生にも協力いただき、みんなで力を合わせて風営法を改正した。心からお祝いしたい」と語った山田さん。とはいえ、積み残された課題もあります。
法改正により、飲食を伴わないダンス教室は、完全に風営法の規制から除外されました。一方、深夜帯にお酒を提供する営業については、社交ダンスやペアダンスであっても、クラブと同様に「特定遊興飲食店営業」の許可取得が義務づけられています。特定遊興の営業可能エリアは条例で繁華街などに制限されており、条件をクリアできない店も少なくありません。
特に難しい立場に置かれているのが、国内に数万人の愛好家がいると言われるサルサです。サルサはサルサバーなどの飲食店でレッスンを行うことも多く、営業方法によっては特定遊興の許可を求められる可能性があります。実際、サルサの中心地と言われる六本木でも、営業可能エリアからこぼれ、業態転換を余儀なくされたサルサバーが出ています。
山田さんは「海外だとディナーの場で踊るのは普通のことなのに、日本ではダンスと飲食を組み合わせた営業が制限されてきました。遊びの要素が失われた結果、社交ダンスをする若者がいなくなり、高齢者ばかりになってしまった。生活のなかで、もっと当たり前にダンスが踊られるようになってほしい」と願っています。
1/12枚