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18歳は意識高い系とギャルだけ? 選挙権引き下げ報道が似ている理由
今回の参院選挙で、各メディアがこぞって取り上げる「18歳」。でも、なんだかどれも中身が似ている気がする。若者と政治をつなぐNPO法人「Youth Create」代表の原田謙介さん(30)は、選挙権年齢が18歳に引き下げられる前から長く若者に向き合ってきたひとりです。今年の「18歳バブル」をどう感じているのでしょう? (朝日新聞社会部記者 原田朱美)
「各メディアとも、高校生を追いたがりますよね。制服を着た子が投票する姿が新鮮なんだと思います。教育現場の変化と合わせて報じたいという意図があるのかもしれない。でも18歳なのは高校3年生の3分の1くらいで、大半の18歳は大学生や社会人です。もっと多様な18歳に目を向けてほしいです。19歳だって初めて投票するわけですし」
そう。原田さんが言うように、取り上げ方が似ているんです。
イベントやインタビューで登場する若者まで似ています。
例えば、意識高い系に「政治への意見」「同世代の政治参加」を語ってもらったり、人気があるギャルを登場させて、同世代の目を引こうとしたり。
「まあ、『意識高い系』や『ギャル』はアイコンなんでしょうね。若者イコール、っていう」。
原田さんは苦笑します。
誰にとってのアイコンなのか。
はっきり言ってしまえば、おじさん目線ではないでしょうか。
「はい。ですね」。
原田さんの苦笑が止まりません。
「一度18歳選挙絡みのイベントに登壇した有名人は、その後、他メディアがこぞって取り上げますね。メディアの人たちは忙しくて他の人材を探す時間もないですし、『あの子は語れる』とあらかじめ分かっている人の方がいいんだと思います」。
原田さん自身も、「若者と政治」分野の専門家として、連日メディアに出まくっています。
ともすればテンプレートになりがちな18歳報道ですが、出る際に気をつけていることはあるのでしょうか。
「発言する時には、自分の現場での経験やエピソードを根拠として伝えることを意識しています。ステレオタイプな若者像をうのみにして語ってしまわないように」。
今の若い人たちは、会えば会うほど、「若者」と一言でまとめられないくらい多様です。趣味などでコミュニティーが細かく分かれています。
そのひとつでしかない意識高い系とギャルが決まって取り上げられるのは、なぜなのでしょう。
「18歳イベントって、半分は大人向けに作られていますよね。若者が何を考えているのかを知りたい大人向け。大人は若者のことがよくわからないから、とりあえずギャルで、となるのでしょう。でもギャルの実態もよく知らない。結果、政治に関しての何となしの意識だけを聞くだけのイベントになって、若者の中でもギャル以外の層には届かない。本当は違う層向けのイベントも他にやるべきなんですけど」
「今回は実現できなかったですが、いろんな層の若者に届くように、スポーツとか囲碁とか趣味とか、いろんなものに熱中している18歳に、政治についてどう思うか聞いてみるという企画をやりたかったですね」
いま18歳に向けて、「選挙に行こう」「政治に関心をもとう」というメッセージが繰り返されています。
もちろんそうなってほしいのですが、言われる側にとって、「勉強しなさい」のような「正しさ」の押し付けのようになっていないか、気になります。
「たしかに。根本的に政治に関心のない人が18歳向けに書かれた記事だけを読んで『選挙に行こう』とはならないでしょうね。『選挙に行こう』というメッセージは、行こうかやめておこうかとモヤモヤしている人向けに効果があるものだと思います」
「イベントは直接会って聞いて、体験をするので影響力があります。ただ、出演するタレントに会いたくて来ている人たちに対して、『会えて嬉しかった』で終わってしまうのでなく、『そういえば選挙の話をしていたな』という記憶を残す内容にしなければ意味がないというのはあります」
政治だけでなく、政治家もまた、若者にとって縁遠い存在です。
原田さんに、政治家への注文も聞きました。
「各政党・各候補者のマニフェストって、バラ色すぎてうさんくさいんですよ。オールウェイズやバブルみたいな『あの頃に戻りたい』感がにじみ出ている。そういう過去に引きずられた発想は若者には受けない。明るくあるべきだけど、現実的な未来を見せていかないと」
「政治家は、自分たちが会える若者しか見ていない。だから『最近の若者は安全保障に関心がある』とか『ニコニコ超会議に行けば若者に会える』と勘違いしてしまう。それがすべてではないのに」
「あと、政治家って一方的に発信するだけですよね。党の組織の中に、日常的に若者の声を聞き、双方向でやりとりができる仕組みを作るべきです」
参院選が終わったら、たぶんこの報道バブルは終わるでしょう。
原田さんは「2013年のネット選挙解禁の時と似てますね」と言います。
せっかくなので、参院選後もやるべきことを、先回りして挙げてもらいました。
「今回ほとんど報道がないですけど、18歳に日常的に接している人っているわけです。親とか教師とか。その人たちは投票したのか、18歳とどれだけ選挙の話をしたのか。僕が講演や出前授業で学校に行くと、たまに明らかにやる気のない教員に会います。自分の生徒が投票をするということに関心が無い人が多い。角度を変えた検証が必要です」。
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