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国会議員が議連に入る理由 豆腐・お茶・演歌…多すぎて「把握不能」
先日、「豆腐議連」なるものが、発足しました。「議連(議員連盟)」とは、国会議員の自主的な集まりです。なんで豆腐? なにをするの? 調べてみると、豆腐以外にも、変わった議連があるわあるわ。しいたけ、演歌、ハクション、お茶……。選挙報道は政党対決の話ばかりですが、そもそも国会議員は普段何をしてるんでしょう? 議連という切り口から、のぞいてみましょう。(朝日新聞記者 阪田隼人、田中聡子、原田朱美)
「豆腐議連」と聞くと、なんだか平和な、ほのぼのとしたイメージが浮かびます。豆腐が好きな議員の集まりなのか、いろんな豆腐を食べる会なのか……。 どっこい。全然違いました。
豆腐議連は、街のお豆腐屋さんでつくる業界団体「全豆連」こと全国豆腐連合会が、国会議員に働きかけてできたものです。
「我々の政治力は、無いに等しい。それでも最後の望みをかけて、議連発足にいたった」。
全豆連の橋本一美さん(67)の言葉には、ものすごい悲壮感が漂います。かつては商店街などでよく見かけた豆腐屋さんですが、2014年度時点で全国に約8千店。04年から10年間で約4割減りました。
原料となる大豆の価格が上がる一方で、低価格競争を強いられ経営が厳しい店が増えていることが、背景だそうです。その窮状を政治家になんとかしてもらいたい、というのが全豆連の立場です。
議連の発足は、5月20日。会員には、自民党と公明党の議員約70人が名を連ねました。全豆連は、ある元参院議員に「窮状を訴える決起大会をやっても一回限りで終わってしまうから、議連を作っては?」と助言されて、議連設立をお願いしたそうです。
議連の議員たちは今後、豆腐屋さんの支援策を考えていくそうです。さて、「お願い」の効果は、あるのでしょうか。
このような業界系の議連は、とても多いです。
パン、繊維、自動車、温泉、トラック、お茶、物流倉庫、しいたけ、たたみ、養蜂、下水道……。
無い業界を見つける方が難しいのではないかと思うほどあります。「議員活動=業界の陳情」、というよくあるイメージは、あながち間違ってもいないようです。
議連は、個々の議員が思い立ってつくるもので、国会や政党が管理するものではありません。休眠状態のものも多いと言われますが、その数は、数百にもなります。ひとりで百以上の議連に入る議員も珍しくありません。
取材では「どの議連に入っているのか、自分でも把握しきれていない」という議員の声もちらほら聞きました。
議員はなぜ、そんなに議連に入るのでしょう。東京大学の内山融教授は三つの要素を挙げます。
(1)票・金がほしい さきほどの業界団体系が代表例です。議連に入ることで、その業界に自分のことをアピールできます。自身の選挙の時には支援してもらったり、寄付をもらったり。
(2)政策・理念を実現したい 最近だと、国会や地方議会で女性議員を増やす法案作りを目指す議連や、不登校の子どもたちが通うフリースクールのあり方を議論する議連があります。政党の枠を超え、政策に賛同する議員が集まります。
(3)昇進したい 国会議員として「この政策に精通している」というアピール材料になります。大臣などのポストを目指す時に使えるようです。
取材ではこのほか、「あの先生が立ち上げたから、義理で入った。自分がお願いする立場にもなるから」という声も聞きました。こうやって、「数が多すぎてどの議連に入っているのか分からなくなる」んですね。
星の数ほどある議連ですが、ちゃんと効果は出ているのでしょうか? 最も有名なのは、「日中議連」「日韓議連」です。友好親善が目的の議連ですが、教科書問題や靖国問題などで政府間の関係が悪くなった時、関係が悪化しすぎないよう、打開策を水面下で探り、落としどころを見つける役割も担っています。いわゆる「議員外交」です。
ただ、今は、かつてほど「議員外交」の力は強くないという指摘があります。あるベテランの国会議員秘書は「自民党は、政権に復帰してから右っぽい議員が増えた。かつての『議員外交』を知らず、『韓国を批判するために日韓議連に入った』と堂々と言う議員もいる。日韓で対立する前に、日韓議連の中で意見が対立している」と言います。
先日、「演歌議連」ができ、話題になりました。こうした「話題系」と呼ばれる議連もあります。
「ハクション議連」という変わった名前の議連も、かつてありました。
国民病とも呼ばれる花粉症の研究や対策を進めようと、1995年にできた議連です。毎年、花粉が飛び始める春先に会合を開き、メディアにも度々取り上げられました。
やっぱり政治家も、人目を引きたいのでしょうか。議連を立ち上げた小野晋也・元衆院議員に聞きました。
「話題になるのを狙ったかと言われたら、まあゼロではないよ」。なんと、ぶっちゃけてくれました。「話題になることで、省庁が対策に動くんだよ。各省庁に、花粉症の対策予算をちゃんとつけさせることが議連の目的だった。ハクション議連は、政策のためにつくったんだよ」。
アレルギーの研究施設設立の後押しをしたり、花粉の飛散状況を観測する態勢を強化したりというのが、ハクション議連の成果だそうです。こうして、議員は「成果」を作っていくんですね。ちなみに、小野さんも花粉症だそうです。
小野さんは在任中、ハクション議連以外にも、いくつか議連を作りました。2004年には、「環境ビジネス議連」、06年には、ロボットと人間の共生を考える「ロボット
議連」。
「でも、イマイチ話題にならなかったなあ。話題にならないと省庁が動かないからね」と小野さん。敗因は、なんだったのでしょう?
「国会議員って忙しいから、長期的なテーマには人が集まらないんだよ。短期的に成果が出そうとか、すぐに政策が動きそうというものにしか集まらない。政策が動けば業界もつくし、議員のメリットになりやすいでしょ? 環境ビジネスも、ロボットも、長期的だったからなあ」。なんだか寂しい話です。
ある衆院議員の秘書は、「国会議員が目先の利益になりそうな議連に集まる傾向は、政権交代後に強まった」と言います。
「1年半ごとに『解散だ』『選挙だ』と言われて、みなさん、政治活動といっても、実際は選挙活動しかできないんじゃないでしょうか? 政治不信というのは、政治家不信。根っこにあるのは、目先のものばかりに飛びつく議員への不信も、あるんじゃないでしょうか」
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