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「PUFFYは覚悟を決めている」 振り付け南流石さんが認めた強さ
PUFFYの代名詞といえば、ゆるゆるのあのダンス。気だるそうに体を揺らしてるだけ……と思いきや、そこには意外なストーリーがあったんです。セールス枚数で見られがちなアーティストの人気、PUFFYの魅力はちょっと違うところにあるようです。「なんか欲しがられる」彼女たちの魅力について、振付演出家の南流石さん(57)に聞きました。
――1996年のデビュー曲から、PUFFYの振り付けを担当しています。
「アジアの純真」は、曲にしても、2人の個性にしても、衝撃でした。あの時代に注目されてたものと全く違うものを生もうとしているっていう衝撃と、そこに参加できるワクワクはすごかったですね。
――当時は沖縄に代表されるアクターズスクール出身のアーティストが次々とデビューして、ダンス系音楽が全盛でした。
パキパキとしてカッコイイのが氾濫(はんらん)してたんですよ。私はずっとオリジナルの踊りを作ってきたので、もし「いまはやってる風で」とか「誰々さん風に」って言われたら困っていたけど、PUFFYの場合はダンスを作るというよりも、PUFFYを作る感じで。動きもアーティストイメージのひとつということに、やりがいを感じましたね。
――「アジアの純真」のフリはどうやって生まれたんですか?
私のやり方は、一回その楽曲を自由に歌ってみてって言うんですよ。そのときのリズムの取り方とか、どうやって歌いたいかっていうのを見るんですよね。
――2人はどうでしたか。
「自由に歌って」って言うと棒立ちで何もしない人が多いんですけど、彼女たちはリズムを持ってた。これはめっけもんです。本人たちは「全然できないからフリを減らした」って言うけど、2人の個性を見つけ出す作業の中で、いろいろ試しながら減らしていくことになりました。
――出来なくてそいだのではなく、狙ってそういうダンスにした、と。
「アジア……」は削いだんです。初めてだったからほぼ全部フリをつけて、これもなし、あれもなしってなったのは確か。完成してみれば簡単な踊りだけど、すごい時間がかかってる。前に出て後ろに行くだけの簡単なステップを何日もかけて覚えた、みたいな。でも、手応えがあった。そぐことで、彼女たちの個性が生きるってわかったから。
――そうやって生まれたダンスは、衝撃的なゆるさでした。
当時ルーズソックスがはやってて。カフェで考え事をしながら外を見たら、女子高生がひざを曲げてずるずる歩いてた。もうカッコ悪い歩き方で。それを見て、通常の踊りの真反対をいこうと思ったんです。踊りって指先まで力を入れて、姿勢正しく、大きくっていうのが基本じゃないですか。それを猫背でもいいし、ひざも曲がっててもいいし、力も入れなくていいしって。
――街の女の子たちの気分にヒントを得たんですね。
振りを付けるとき、時代とかカルチャーを見て、その奥にあるものをやろうとはしますね。例えばルーズソックスは流行ってるけど、ルーズソックスをはいてPUFFYが踊ったら駄目なんです。ルーズソックスそのものにいくんじゃなくて、ルーズソックスの子たちがやりたいもの、好きなものは何だろうって想像する。
ものすごく流行ってるものの反対側に、必ずそうじゃないものがある。流行っている方にいくとそのうち必ず古いものになっちゃうから、私は少数派へ、正反対の方に行く。
――その「正反対」が、キメキメダンス全盛期における、ゆるゆるダンスだったんですね。
当時流行ってたダンスってカッコイイとは思うけど、マネはできないでしょ? でも、PUFFYのは「こんな簡単なの? じゃあうちらもできるじゃん」みたいな。カッコイイ踊りを必死に練習するのは非日常だけど、PUFFYはある種、日常だったんですよね。ファッションもそう。「Tシャツとジーパンで、こんなオシャレになるんだ」って思ってマネできる。私生活の延長線上にあったんだと思います。
――カッコイイ踊りはどこから来たのでしょう?
振付師って海外で流行ってるものをいち早くビデオとかで見て、それをアレンジして取り入れるのが主流なんですよ。当時流行っていたアーティストの踊りも、どこかにお手本があるようなものじゃないですか。でも、PUFFYの場合はPUFFYだけのもの。
「パフィーdeルンバ」(98年)は、私の中で最高の名作。あのフリはすごいですよ。首締めて、ただ手を振ってるだけだから。でも、美少女たちがただそれをやるっていう違和感がすごくて。あれを作ったとき、自分は天才かと思いました(笑)。
――手を振るだけの踊りが成立するのも、PUFFYだからこそ、ですよね。
うん。てか、センスがいいんですよね。
――センスがいい???
わたしが褒めると、みんなキョトンとするんだけど、私が作った踊りをただコピーするんじゃなくて、意図をずらさず自分らしく表に出すっていうセンスがある。
多くの人は私がやった通りにやるけど、そうするとその人のものじゃなくなっちゃう。PUFFYは、あくまでもあの2人が適当にやってるように見えるでしょう? 振付師の陰が見えない。そこが売りなんです。
――最近、歌って踊るグループが増えましたけど、PUFFYは後にも先にも誰にも似ていません。
長くやっていると、どうしても「こっちの方が新しくないっすか?」って変わりがちなんですよね。怖いし。「大丈夫かな?いま流行りはこっちなのに、これやっててダサくない?」って。それでブレるから、結局何をやっていいかわかんなくなっちゃう。
PUFFYは、そこをちゃんと意識した上で、覚悟を決めてる。流行りとかカルチャーは変わってくし、原点返りもあるけど、どう風が吹こうが、どんな嵐になろうが、こういくっていう頑張りはありますよね。
――なんでそんなことが出来るんでしょう?
PUFFYを見てると、アーティストって本当にセールス枚数だけじゃないんだなって思う。セールスだけで言ったらもっとすごい人はいる。動員数も。でも、CMもそうだし、あの人たちはなんか欲しがられる。時代の浮き沈みはあっても消えないでしょ?
年齢は重ねてるけど、色あせてない。それはいつの時代でも、自分たちがやってきたことと、作り上げてきたものへの誇りを持ち続けてるからだと思います。
◇
みなみ・さすが PUFFYのほか、乃木坂46、大塚愛、Kalafinaなど多くのアーティストの振り付けを担当。「おしりかじり虫」も手がけた。芸名の名付け親は、サザンオールスターズの桑田佳祐さん。
「PUFFYの『ゆるさ』」は4月9日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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