お金と仕事
成毛眞、理系脳のすすめ「パンキョー学べ」「天文学にフロンティア」
変化の激しい時代、末端社員が生き残るために必要な武器とは? 成毛眞さんは、大学の「一般教養」や「SF小説」で鍛えられる「理系脳」の大切さを説きます。
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変化の激しい時代、末端社員が生き残るために必要な武器とは? 成毛眞さんは、大学の「一般教養」や「SF小説」で鍛えられる「理系脳」の大切さを説きます。
変化の激しい時代、末端社員が生き残るために必要な武器とは? 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞さんは、大学の「一般教養」や「SF小説」で鍛えられる「理系脳」の大切さを説きます。東芝の不正会計、鴻海(ホンハイ)によるシャープ買収……早稲田大学商学研究科の客員教授でもある成毛さんと、絶頂期の2007年に東芝から大学に飛び出した中央大学理工学部教授の竹内健さんが語り合いました。
竹内「東芝時代は、半導体事業に関わっていました。でも、10年先の展望がなかなか描けず、大学に移ったんです」
成毛「不正会計は、運が悪かったと思います。半導体で稼いでいる間に原発に投資をするというのが、当時の判断だった。ところが、東日本大震災が起きてしまった。それで粉飾でもやらないと続かないと判断しちゃったんでしょうね」
竹内「現場にいる社員にとって、社長のやっていることなんて見えないのが実情です」
成毛「マイクロソフトだって同じ。2014年までCEOだったスティーブ・バルマーはいいやつで才能もあるけど、それだけじゃだめなんだよね。バルマーがいなくなって、クラウド事業にかじを切ったとたん、調子がよくなった。何が当たるか、社長もわからないんだから、社員はもっとわからない」
竹内「今、半導体のエンジニアは、つぶしがきかなくて大変。エンジニアに限らず、技術革新の激しい世界で生き残るにはどうすれば?」
成毛「就活中の学生に言いたいのは『川上を選べ』ということ。今、コンビニの社長を見れば、ほとんどが総合商社の出身者がつとめている」
竹内「でも、学生は消費の現場で接点のある『川下』の会社しか知らない」
成毛「でかい『川上』である必要はない。中小企業でもいい。半導体だって、ものすごい狭い分野で存在感のある会社はある。勤める会社のポジションが大事。社名じゃない」
竹内「そう考えると、アップルなどの下請けメーカーだったホンハイが、シャープを買収するというのは、象徴的な出来事ですね」
竹内「今の時代、大学の役割って何でしょう?」
成毛「大事なのが一般教養。過去の分析資料を勉強してもしょうがいない。欲しいのは、明日、何が当たるか。そのためには、科学史とか天文学とかを教えた方がいい。そこにフロンティアがある」
竹内「今の大学は、逆のことをしている。応用っぽいけれど何をやっているかわからない。基礎を外してしまう。『川上』に行くためにには、教養が大事だと」
成毛「例えばiPS細胞で注目されている『セルソーター』なんて半導体技術のかたまりです。それって、もしかしたら100個くらいの需要しかないかもしれない。でも、作ったときの利益は莫大。それが『川上』」
竹内「スパコンで有名な『ペジーコンピューティング』の斉藤元章社長は、もともと医師です」
成毛「物理量の単位を50位教えて、どんな製品に応用されているかを勉強させる。例えば、5センチメートルの高低差を測れる気圧センサーがあれば、寝たきり老人の徘徊(はいかい)がすぐわかる。iPhoneにつければ落下による故障を防げる。センサーだけでも、そういう応用の仕方がたくさんある」
竹内「エンジニアが転職する時って、自分の強みをちゃんと伝えることが必要です。狭い専門分野だけをアピールしても、必要とされるフィールドは少ない。プレゼン能力を上げるにはどうすれば?」
成毛「添削がいいですよ。まず800字を書いて校閲してもらう。いっぱい校閲されると、うまくなりますね。物が書けるようになったら、おしゃべりもうまくなる」
竹内「今ってしゃべる方が、プレゼンといわれることが多い。でも、しゃべりはごまかせるけど、書く方はごまかせない」
成毛「書くのは訓練。絵とか歌とか乗馬とかと一緒。はじめからうまい人もいるけど、才能ない人はがんばるしかない。音痴の人が練習すればカラオケが歌えるように、訓練すれば、文章は間違いなくうまくなる」
竹内「大学で習う教養科目のような、一見、無関係に見える知識が、大事な意味を持つ瞬間があります。でも、理系のエンジニアは、本も新聞も読まない。会社を選ぶ時も、視野が狭くなりがちです」
成毛「大事なのは理系脳。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは理系脳を持っている。彼の推薦図書には『エンダーのゲーム』とかSF小説が入っているんですよ。はやり廃りのあるビジネス書なんかじゃない。テスラ・モーターズのイーロン・マスクもSFが好き。科学と技術にあこがれもっている。理系の科目の成績がよかったとか、そういうのではない」
竹内「理系脳っていうのは、ある種のあこがれ、夢を持つということ?」
成毛「人類は進歩する、昨日より明日が面白い。そう思えるか。物事の全体を客観的に見ることができるか、じゃないかな」
竹内「たしかに、宇宙エレベーターなんて、今は現実味のある技術になっている。そこが、日本の理系といわれる人たち苦手なところ。ハードディスクの進化と、どんなゲームが求められているかは違うということですね」
成毛「みんなが苦手かというと、そうでもない。プリウスを作ったトヨタとか、炭素繊維の技術がある東レもそう。最近のソニーなんか、壁一面に映せるプロジェクターとか作って、SFみたいですよ」
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なるけ・まこと 札幌市生まれ。元マイクロソフト日本法人社長。現在は投資コンサルタント会社インスパイア取締役ファウンダー。2011年に立ち上げた書評サイト「HONZ」の代表もつとめる。
たけうち・けん 東京大学大学院修了後、東芝に入社。フラッシュメモリーの開発に携わる。2007年退社。現在は中央大学理工学部教授。近著に『10年後、生き残る理系の条件』(朝日新聞出版)。
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