エンタメ
「岩も気持ち良くさせたい」 異能の緊縛師、一鬼のこが語る縄の極意
異能の緊縛師、一鬼のこが語る縛りの極意。光る縄を操り、岩などの自然さえも縛ってしまう。世界からも注目される鬼のこが目指す、「アートとしての縛り」の神髄とは。
エンタメ
異能の緊縛師、一鬼のこが語る縛りの極意。光る縄を操り、岩などの自然さえも縛ってしまう。世界からも注目される鬼のこが目指す、「アートとしての縛り」の神髄とは。
「緊縛」という言葉の響きから、何を思い浮かべますか。変態、怖い、気持ち悪い…。何となく近寄りがたい印象を持っている人も多いかもしれません。そんなイメージを覆すような活動を展開しているのが、緊縛師の一鬼のこさんです。岩を縛ったり、光る縄でパフォーマンスをしたり。芸術性の高い作品は、海外でも注目を集めています。「アートとしての縛りを確立したい」という鬼のこさんに、縄の極意を聞きました。
――現在の活動について教えてください。
月2回、東京・新大久保のスタジオで、「一縄教室」という縄の教室を開いています。縛りのテクニックやモデルとの接し方、事故時の対応などを教えていて、平均60人ぐらいの生徒さんがいらっしゃいます。3分の1ぐらいが海外の方で、日本在住の人もいれば、観光で来ている人もいますね。特にヨーロッパの方が多いです。
自宅兼スタジオでのプライベートレッスンも行っています。1時間1万円ほどですが、それでも海外のお客さんのなかには5時間、6時間取ってほしいという方もいます。海外でも「ジャパニーズ・ボンデージ」「SHIBARI」「KINBAKU」と呼ばれているぐらいで、縄の世界における日本は、サッカーでいうブラジル並みに存在感があるんです。
――ひと口に緊縛・縛りと言っても、様々な種類があるそうですね。
ショーなどパフォーマンスで魅せる縛りでは、客を飽きさせず、スピードに緩急をつけることが大切です。野球でもチェンジアップの後の直球は早く見えますよね。あれと一緒です。大きな会場では、光る縄を使うとか、天井まで吊り上げるような派手な演出も必要になってきます。
ほかにもプレイのための「プレイ縄」、マゾヒストさんのための「攻め縄」など色々ありますが、最近注目されているのが「コミュニケーション縄」です。文字どおり、コミュニケーションの一環として縛っていく。
僕の場合はまず、相手のいいところを思い浮かべ、後からハグするところから始めます。そこから、相手のタイミングで縛っていく。相手を知ろうと努力することで、「自分を理解しようとしてくれているんだな」という風に気持ちが伝わって、心が開く。ふっと力が抜けた瞬間に縛るんです。
――縄を通じたコミュニケーション、ですか。
縄は手の延長です。お箸やボールペンを使っていても、触れているものの柔らかさや堅さはわかりますよね。縄も同じで、呼吸や鼓動を感じることができる。汗をかいているな、肌が乾燥しているな、といったことが伝わってくるんです。
人によってタイミングや緊張度は違いますし、場所の影響もある。寂しい気持ちなのか、楽しいと思っているのか、エロい気分なのか、その時の心境によってかける縄も変わってきます。
やみくもに荒々しく縛るのと、優しい縛り方をわかったうえであえて荒々しく縛るのとでは全然違う。相手が欲しいタイミングで、欲しい場所を、欲しい強さで縛っていく。それこそがコミュニケーションの縄であり、究極の縄です。
――縛られた側はどうなっていくのでしょうか。
「縄酔い」という言葉があります。縛られると脳内物質が分泌されて、ランナーズハイのような状態になります。僕は女性をメインに縛っていますが、女性が嫌うのが「管理されていない痛み」です。肉が挟まったとか、骨が当たったとか、そういうことがあると冷めちゃうんですね。逆に、「管理された痛み」に対しては陶酔して、気持ちよくなっていく。
縄には、人を落ち着かせる効果もあります。縛ることで逆に心がほどけ、楽になっていく。縛られる人の気持ちを理解するために、僕自身、年に数回練習で縛られてみるのですが、たいてい眠たくなって寝てしまいます。知人の女王様も「M男さんで寝る人はいっぱいいる」と言っていました。
――岩などの自然を縛る活動もされています。
自然も人だと思って縛っています。自分のやりたいように縛るのですはなく、相手の反応を見ながら縛っていく。コミュニケーション縄ですね。
自然に勝るアートはありません。岸壁が波に削られていくように、岩にも(縄が)通るべき場所があるんです。岩にとって必要のない縄がかかっているようではダメ。表面のコケにダメージがないよう、最初からピンと張った状態で注意深く縄を置いていきます。
やっぱり、岩も気持ち良くさせたい。ここは首かな、股かな、どこら辺が気持ちいいのかな、と考えながら縛っていきます。縄でハグしてあげるような感覚です。
――どういう経緯で緊縛師になったのですか。
愛知県東海市の名和(なわ)町出身で、本籍は名古屋市南区の柴田というところです。しばた、しばった、縛った…っていう。運命的なものがあったりするのかな、なんて思ってます。小さい頃から手先は器用で、図工が得意でした。
高校を卒業した後はカイロプラクティックや整体の学校に行って、人体のことを勉強しました。骨をこれ以上動かすと体が壊れるとか、腱や筋肉がどう通っているのかとか、ケガをしたらどうするかとか。その時得た知識は、今も役に立ってますね。
――いつ頃、縛りに開眼したのですか。
色々と転々として、東京に出て来て。22、23歳の頃かな。ひょんなことから、六本木でSMバーの店長をやることになったんです。「前の人がやめたから、やってくれ」と言われて。それでほかのお店に勉強しに行った時に、あるMの女の子と出会いました。その子のことを好きになって、つき合うことになったんです。
SMがすごく好きな子で、デートをしている時に「私、彼氏彼女の関係より、ご主人様と奴隷の関係の方が深いと思うんだよね」と言われました。自分は2番手で、「アンタよりも関係の深い人がいる」と言われている気がして…。僕も負けず嫌いなので、そこからSMをしっかり勉強しようと決意しました。で、ひと通りのことをやってみて、1番しっくり来たのが縄だったんです。女の人のきれいな肌に、ラインが通っていくのが美しいなって。
後から知ったんですけど、その女性は自分にそうしてほしくて、わざと気を引くような言い方をしたみたいです。すっかり手のひらで転がされていた。今でも感謝してますね。
――教室以外にも、写真集を出すなど多彩な活動を展開していますね。
CDジャケットなどポップなものを手がけることもありますし、アート作品も発表しています。昨秋、東京の神保町画廊で5日間の写真展を開いて、約3千人の方にお越しいただきました。一般の人が縛りの世界に入りやすいよう、昨年末には「現代緊縛入門」という教則DVDを出しました。緊縛デザインの女性用タイツも出していて、非常に人気があります。
「緊縛」って言葉を検索すると、ハードな写真がバーッと出てくる。「怖い」と感じる人も多いと思います。でも僕は普通の人にも緊縛の良さを知ってほしいし、楽しんでもらいたいんです。岩を縛ったり、縄が光るパフォーマンスをしたりするのも、若い人たちに入りやすくしたいから。「監禁」「虐待」といったことを連想する人もいるかもしれませんが、僕がやりたいことは、そういうものとは全然違います。
――海外でも精力的に活動されています。
イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ロシア、オーストラリア、台湾など各国でショーや教室をやってきました。生徒さんの許可をいただいて、海外での教室の様子をフェイスブックなどに投稿しているのですが、5年前は30人のうち27人に「顔出しはダメ」と言われました。それがいまでは、30人のうちNGが3人だけという感じで逆転してきた。縛りのアート性が認められてきているのだと思います。
近年、アラーキー(荒木経惟)さんがレディー・ガガの緊縛写真を撮ったり、マドンナがアルバムジャケットに縛りの要素を入れてきたりと、ファッションやアートとしての縛りが広がりをみせています。シャネルも平井堅さんや水原希子さんの縛りの写真を公開していますね。そうした状況も影響しているのではないでしょうか。
――日本の緊縛文化が海外から高く評価されるのはなぜなのでしょう。
やはり日本人の繊細な気質が大きいですね。わびさびを大切にし、恥じらいの文化がある。開けっ広げな欧米に対して、日本人は着物のすそから少しだけのぞいた内ももにエロスを感じる。うなじ、吐息、唇をかむしぐさ。そんなエロスが縛りによく合うんです。
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
アートとしての縛りを確立したい。世界ではかなり認められてきましたが、日本ではまだまだ偏見がある気がします。日本でも多くの人に縛りを知ってもらいたいですね。
〈はじめ・きのこ〉 1977年、愛知県生まれ。緊縛師、ロープアーティスト、フォトグラファー。縛りからカメラ、演出までを手がける。写真集『ナワナノ』(三和出版)、教則DVD「現代緊縛入門」など。3月に写真集『Red』(マイウェイ出版)を発売、展示イベントを開催予定。
1/12枚