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諫早湾、「開門」「閉門」相次ぐ真逆の判決…どっちが正しい?
長崎県諫早市にある諫早湾の開門是非をめぐって、福岡高裁で今月、これまでと正反対の判決が出ました。国の公共事業によって、地域を分断する事態に司法関係者は「国が解決すべき」と指摘します。
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長崎県諫早市にある諫早湾の開門是非をめぐって、福岡高裁で今月、これまでと正反対の判決が出ました。国の公共事業によって、地域を分断する事態に司法関係者は「国が解決すべき」と指摘します。
国の干拓事業のため、1997年に「ギロチン」と呼ばれる鋼板で閉め切られた長崎県の諫早湾。その開門を求めた漁業者に対し、福岡高裁は9月7日、一審に続いて開門を認めない判決を言い渡しました。その一方で、5年前の2010年には、漁業者の求めに応じた福岡高裁が国に対し、開門を命じる判決を言い渡しています。同じ高等裁判所で正反対の結論が出る異例の事態。今回、開門が認められなかった漁業者たちは18日、最高裁へ訴えを起こしました。
諫早湾干拓訴訟と呼ばれるこの裁判は、湾の閉め切りによって有明海の漁業環境が悪化し被害を受けたとして、漁業者たちが佐賀(佐賀訴訟)と長崎(長崎訴訟)の両地方裁判所に提訴しました。佐賀訴訟では、10年12月に福岡高裁が開門を命じる判決を言い渡し、国(当時は菅直人首相)が上告断念、判決が確定しています。しかし、5年経った現在でも諫早湾は閉め切られたまま。地元の反対などを理由に判決を守らない国は漁業者たちに「罰金」としてすでに2億円以上を支払っています。
一方、今回の福岡高裁判決は長崎訴訟の二審判決になります。大工強裁判長は開門を認めなかった一審判決を支持し、漁業者たちの訴えを認めませんでした。この裁判は、国と干拓事業を進めてきた長崎県と有明海の漁業者らが多い佐賀県とで意見の相違があり、判決後に長崎県知事は「開門判決を下した福岡高裁によって、開門を認めないという新たな判断がなされたもので、極めて重要な判決だ」と評価すれば、佐賀市長は「国の立場を擁護するだけの裁判に成り下がったのかと残念な思い」と批判。肝心の国は「最高裁の統一的な判断を求めていく必要がある」と他人事です。
「開門せよ」「開門だめ」。最高裁に次ぐ高等裁判所でなぜ正反対な判決になってしまったのか。アサリやタイラギといった貝類の漁業環境が悪化し、被害を受けていることは今回の福岡高裁も認めています。しかし、干拓事業のせいで被害が出たかどうかは「十分な証拠がない」として、開門を認めませんでした。こうした因果関係の判断について、福岡高裁で裁判長を務めたこともある森野俊彦弁護士(大阪弁護士会)は、「社会的にみれば同じような紛争であっても、当事者や対象海域が異なれば別の裁判として扱われる。裁判官は独立が保障されていることから、他の裁判に影響を受けることなく判断するので、結論が違うことはしばしばありえる」と解説します。
森野弁護士は「誤解を恐れずに言うと」と前置きした上で、社会的関心を集めるこうした集団訴訟で原因と因果関係が問題になるようなケースでは、①訴えている人たちの被害を救済することを重視して因果関係の認定を若干にせよ緩やかにするか、②通常の裁判と同様に訴えている人たちに厳格な因果関係の立証を求めるか、の2つに分かれると言います。つまり、被害があったかなかったかという事実についての認定では大きな違いは出ませんが、「事業の一環である諫早湾の閉め切りが漁獲資源量の減少に結びついたといえるかどうか、という因果関係の判断については裁判官の考え方が少なからず影響する」と話します。
開門が認められなかった漁業者たちの訴えは、最高裁が判断することになります。今後の展望について、森野弁護士は「国は『統一的な判断』と言っているが、最高裁は今回の高裁判決だけを判断の対象にするので、どちらか一方だけが正しいとの判断を示すことは、困難ではないか」と指摘。また、仮に漁業者の上告が最高裁で認められずに敗訴が確定したとしても、先に開門を認めて確定した佐賀訴訟の効力が消えるわけではありません。森野弁護士は、大工裁判長が判決で「国には、現在の困難な状況を打開するために必要な方策を早急に決め、実現に向けて努力を尽くすことが求められる」と言及したのに注目し、「やはり、国が政治的に解決するしかない」と話しています。
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