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「大丈夫です」って、なにが大丈夫なの 気配り表現?言葉の乱れ?

コンビニのレジで「大丈夫ですか?」と店員に聞かれ、「大丈夫です」と答える。よくよく考えると、いったい何が大丈夫なの? 年配者からは違和感の声も・・・

「ポイントカードは大丈夫ですか」「大丈夫です」。その使い方であってる?
「ポイントカードは大丈夫ですか」「大丈夫です」。その使い方であってる? 出典: imasia

目次

 コンビニのレジで「ポイントカードは大丈夫ですか?」と店員からよく聞かれます。カードを持ってなければ「大丈夫です」と答えるのですが、よくよく考えると、いったい何が大丈夫なのか、はっきりしません。若い世代はすんなり使っていますが、違和感を覚える年配者は多いようです。

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年配者に戸惑いの声

 「大丈夫です」の使い方がおかしい。
 
 最近の朝日新聞の読者投稿欄が、こんな1通の投書をきっかけに盛り上がりました。コーヒーか紅茶のどちらにするか尋ねると、「大丈夫です」との返事。意味がつかめなかったという内容でした。

 これに反応し、次々と投書が寄せられました。

 ある高齢者は、チラシを配っていると「大丈夫です」と言って、受け取らない人が増えている、と憤ります。一方で、若い世代からは、きっぱり断ると相手を傷つけてしまうから「大丈夫」を使っているのでは、という意見がありました。イエスかノーか、はっきりしないことにひっかかる人は、年配者を中心に多いようです。

何でも「大丈夫」に違和感も・・・
何でも「大丈夫」に違和感も・・・

辞書での意味は

 辞書では「大丈夫」の意味はどうなっているのでしょう。「広辞苑」(岩波書店)、「大辞林」(三省堂)はおおむね一緒。

(1)立派な男子
(2)しっかりしているさま
(3)間違いなく

というような説明でした。

 今どきの語法として「大丈夫」に触れているのは、「明鏡国語辞典」(大修館書店)です。俗語として「相手の勧誘などを遠回しに拒否する語」との説明も載せ、「そんな気遣いはなくても問題はないの意から、主に若者が使う」と注釈しています。ただし、「本来は不適切」とされています。

 これに近い意味に触れているのが「日本国語大辞典」(小学館)です。山梨県の方言として、食べ物などを勧められ、辞退する時の言葉という説明を載せています。

「大丈夫です」。辞書的には・・・
「大丈夫です」。辞書的には・・・

どんな場面で使われている

 従来の意味とは異なる「大丈夫」がしきりに使われることが気になって、調査した言語学の研究者がいます。実践女子大学の山下早代子教授です。
 山下さんが実際に体験した事例を分析してみると、これまで使われていた様々な表現に「大丈夫」が取って代わっていました。

【スーパーのレジで「袋は一つで大丈夫ですか」】

従来なら「よろしいですか」

【電車で赤ん坊を連れた女性に席を譲ろうとすると「大丈夫です」】

従来なら「結構です(断り)」

【パン屋でサンドイッチ購入時に「お手拭きは大丈夫ですか」】

従来なら「ご入り用ですか」

【ガソリンスタンドで「灰皿は大丈夫ですか」】

従来なら「(タバコの吸い殻などを店員の方で)捨てる必要はありませんか」

譲られた席を断る時、何て言う?
譲られた席を断る時、何て言う? 出典:imasia

アンケート調査してみると

 様々な場面が「大丈夫」で済んでいます。山下さんは、こうした使い方についてアンケートを行い、若年層(20代)、中年層(30代~50代)、シニア層(60代以上)に分けて集計しました。(有効回答数108、表の数字は%)

 シチュエーション別に「大丈夫」を使うと答えた割合は次の通りです。

・コンビニで「袋は一つで大丈夫ですか?」
 若年30・9% 中年26・9% シニア22・2%

・バイト先で上司に「明日どうしても休みたいんですけど、大丈夫ですか?」
 若年45・4% 中年23・0% シニア7・4%

・タクシーから降りる時、運転手が「領収書はいりますか」と聞いたので「大丈夫です」と答える
 若年69・0% 中年46・1% シニア11・1%

 また、他人が使うと気になるかどうかも聞きました。「気にならない」と答えた割合です。

・コンビニで「袋は一つで大丈夫ですか?」
 若年76・3% 中年65・3% シニア48・1%

・バイト先で上司に「明日どうしても休みたいんですけど、大丈夫ですか?」
 若年67・2% 中年46・1% シニア25・9%

・タクシーから降りる時、運転手が「領収書はいりますか」と聞いたので「大丈夫です」と答える 
 若年83・6% 中年76・9% シニア33・3%

レシートを断る時、何て言う?
レシートを断る時、何て言う? 出典:imasia

他人を傷つけない便利な表現

 結果をみると、やはり若い世代のほうが違和感が少ないです。ただ、いわゆる「若者ことば」として一時的に流行しているのではない、と山下さんは指摘します。「大丈夫」の機能が拡張していて、「ら抜き言葉」のように言葉自体の変化が起きているのではないか、という見方です。

 それでは、なぜこのような使い方が広まったのでしょうか。山下さんは「ネガティブ・フェイス」という用語を使って、分析します。これは人間が持つ「侵害されたくない」「放っておいて欲しい」という欲求だそうです。「よろしいですか?」という依頼、あるいは「必要ないです」という断り、は直接的な表現で相手に負担をかけます。これに対して、「大丈夫」はより婉曲的で、相手を気遣った表現になっているといいます。

 相手も自分も様々な表現に煩わされることなく、かつ相手を傷つけない。いまどきの「大丈夫」は、とても便利な表現であるようです。

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