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「飲み会で若い世代と仲良く」はNG 忘年会・新年会シーズンを前に

忘年会・新年会のシーズン、みなさんの職場では開催しますか?
忘年会・新年会のシーズン、みなさんの職場では開催しますか? 出典: 画像はイメージです=taa22/stock.adobe.com

目次

忘年会、新年会のシーズンですが、上の世代には、「『お酒離れ』の若い世代を誘ってもいいのだろうか」という悩みがあるかもしれません。若者とお酒の向き合い方の傾向について、消費文化論や若者マーケティングに詳しいニッセイ基礎研究所の研究員・廣瀬涼さんに聞きました。(朝日新聞withnews編集部・水野梓)

「職場の飲み会は行きたくない」全世代で…

――忘年会・新年会シーズンですが、上の世代は、若い世代やZ世代を誘っていいのかどうか、悩む人も多いのではないかと思います。「会社の飲み会」について、どう考えているのでしょうか?

R&Gが全世代を対象(男女500人)に行った「職場の飲み会に関する意識調査」によると、「職場の飲み会は行きたくない」と答えた人は73.6%にのぼりました。

その主な理由には、「気を遣うから」「仕事とプライベートを分けたい」「話がつまらない・合わない」が挙がっています。

――全世代にわたって「行きたくない」という人が大勢なんですね。同じ調査で20代(113人)では「全く行きたくない」「あまり行きたくない」という人は69.9%で全体平均より少し低くなっています。

これは「傾向」なので、若い世代がみんな飲み会に「完全に興味がない」というのが実態だと思います。

意外と、入社する前に「会社での歓迎会の飲み会を楽しみにしている」という人もいるんですよ。

ただ、内定して入社するまでって「会社に入ったら」と想像したりしてまだ浮足立っている時ですよね。

自分が入りたい企業だったら、そこでつながりができるのはうれしいものです。一方で、有名大学を対象にした調査では、第一希望の会社に入社できた人は3割ほどにとどまります。
出典: 画像はイメージです=Peak River/stock.adobe.com

希望の会社でなければ愛社精神やロイヤリティーは低いでしょうし、希望の会社だったとしても、実際に働き始めたら想像より自由時間もお金もなくて……と感じたら、考え方は変わっていくかもしれません。

一方で、外資の金融系の企業など飲み会が多いと周知されている業界もあり、そこには「飲み会が苦ではない」という人が入社していると思います。

職場での飲み会参加が「強制参加」 5.3%、「任意だが強制に近い」が36.3%というマネジメント会社・識学の調査もあります。外資系企業以外にも、「参加せざるを得ない空気」のある企業が残っているのも現状だと思います。

「明日の肌が荒れる」直近のコスパ意識

――若者の「お酒離れ」というのは実際に起きているのでしょうか?

20年ほど前に比べると、20代・30代の男女で飲酒習慣が低下しています。実際に「若者のアルコール離れ」は起きていると思います。

あえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」や、飲みたい人は飲んで飲みたくない人は飲まないという「スマートドリンク(スマドリ)」など酒の消費への多様性は浸透しつつあります。

アメリカでは、「Liquid Death(リキッド・デス)」と呼ばれる缶飲料が人気です。見た目はビールやエナジードリンクのように見えますが、中身はただの水なんです。

コンビニやガソリンスタンドでも売られていて、ビールやエナジードリンクの棚で陳列販売されています。

ロックミュージシャンがライブで飲んでいたり、アルコールの場で気分を上げるために飲まれたりしています。

――自分が飲みたいかどうかで選べるようになったというのはいいことだなぁと思います。

若者のなかには、消費に失敗したくない傾向があり、「お酒によって健康が害されてしまう」という意識が強いと思います。

これは、将来の病気だけでなくて、「明日の肌が荒れる」「翌日にむくみたくない」「二日酔いになってパフォーマンスが落ちるぐらいなら飲みたくない」といった、直近のコスパも考えています。

――明日のことをちゃんと考えて自分の行動を律することができるということですね。

Z世代のコミュニケーションでは、「目的」よりも、「誰となにをするのか」というのが大事なんです。たいして仲のいい人ではない人とお酒を飲んで二日酔いをするというのはコスパが悪いんです。
出典: 画像はイメージです=maikopowerpad/stock.adobe.com
――なるほど。職場のたいして仲のよくない先輩と飲んで、さらに二日酔いになって翌日に使いものにならない……というのは、たしかに「コスパが悪い」となりますね。もはや、上の世代で飲み会が好きな人は、下の世代を誘わない方がいいと思えてきました。

ここは、考え方が逆になっていることを指摘したいです。

――考え方が逆?

上の世代のみなさんは、「飲み会を通して若い世代のことを知りたい」と思っていませんか?

――思い当たることが多々あります。

Z世代からするとそもそも、「飲み会にいく」というのは、「普段から仲のいい人とやりたいこと」なんです。

つまり、「飲み会で仲良く」ではなくて、「仲のいい人と飲みにいきたい」という順番ですね。

ふだんから仕事などで親密性が築けていれば、Z世代も飲み会が楽しいはずなんですよ。

――思い当たることがありすぎて、何も言えません。

Z世代はうわべの付き合いはコスパが悪いのでしません。だからこそ、プライベートでも、初対面の人とは「夜に遊びにいきたくない」という人も多いんです。

ふだんコミュニケーションをとっていない上の世代と飲み会にいくということは、自分の知らない・興味のない話題ばかりになったり、自分のプライベートなゾーンにずかずかと入ってこられたりする時間になってしまいます。

――なるほど……!「若い世代を飲み会に誘っていいのか」と悩む前に、「ふだんから業務を通じてコミュニケーションをとれているのか」を自問自答した方がよさそうですね。

「飲みニケーション」とはまったく逆の方向性ですよね。

ただ、これが進んでいくと、「人柄がいいから一緒に仕事がしたい」というこれまでの日本的な雇用形態ではなく、アメリカの実力型の雇用形態が進んでいくということになります。

人間関係でつながるのではなく、業務のやるべきことでつながっている状態ということです。

――難しいですね。私の職場でも、歓迎会や忘年会はランチタイムに行うことが増えました。

ランチ会は大きな転換点ですよね。業務だけでつながる合理的なところと、その人とつながる日本型な働き方の妥協点になっているのではないでしょうか。

商工リサーチの2024年度の調査では、「飲み会の時間を就業時間におさめていますか?」という問いに18%が「おさめている」と回答しています。

ランチ会のメリットは、業務時間内に行われること、お酒が入っていないので面倒なことが起きづらいこと、スケジュールが合わせやすいことが挙げられます。

子育て世代の女性はまだまだ夜の自由時間がとりづらく、ランチタイムなら都合がつけやすいということがあると思います。

一方で、「夜の飲み会に時間をとられるよりはマシだよね」という考え方の人もいるでしょう。

労働は「お金を稼ぐ手段」割り切り

――飲み会へ行きたくないという若い世代の考え方に、物価高や給与の低さの影響もあるのでしょうか。

定期的に飲み会に参加しなければならない人たちの調査(https://woman.mynavi.jp/article/230718-8_1190537/)では、飲み会の年間の回数は17回ほどで、費用は7~8万円ほどです。

20代後半の給与の中央値は18~19万円が手取りとなっているので、そこから1回4000円ほどの飲み会が引かれてしまう…と考えると、とても大きな負担にはなりますよね。

長期的な経済の低迷で、所得は増えないのに物価は上がり、不景気を実感する人たちも増えていると思います。あわせて、インターネットで情報量が増えて、知らなかったモノやサービスに遭遇することで「ほしい」と思うものも増えています。

つまり、使えるお金は以前よりも減っているのに、消費したい情報があふれている状況です。そうなると「消費に失敗したくない」という価値観が強くなり、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが追求されているのです。
出典: 画像はイメージです=paru/stock.adobe.com
――ほかにも若い世代ならではの傾向はあるのでしょうか。

2023年に出版した『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』にも書きましたが、満足のいく給与が得られていなかったり、やりがいのある仕事でなければ、労働は「生活のために仕方なく行うもの」なんです。

Z世代を中心に、労働の美徳感はなくなってきています。自分と同世代で羽振りのいい人がSNSなどで可視化されてしまい、「仕事もしていない人が稼いでいる」という印象となり、労働の価値が下がって、「お金を稼ぐための手段」として割り切っているのだと思います。

一方で、ご褒美消費でモチベーションを高めるという「ねぎらう消費」は行われています。でも、その資本はいやな労働をしないと生まれないため、ますます会社への愛着が感じられなくなってしまうという悪循環になっているんですね。

上の世代も、物価が上がっている中で、これまでどおり若い世代にごちそうできる環境でもありませんよね。

しかし上の世代がおごったとしても、若い世代の時間を拘束しているわけで、「おごってるんだからいいじゃん」という考え方はやめた方がいいでしょう。

――若い世代にどうしても飲み会に来てほしかったら、業務時間内に行ったり、費用を会社側が持ったりすることが大事かもしれませんね。

そもそも若い世代とそこまでして飲む必要があるのか、ということを考えてもいいかもしれません。

企業として飲み会や懇親会を開催するのは、人間関係をつくって業務を円滑に回そうという考え方ですよね。

それにはやはり、日常でのコミュニケーションがまず大事です。

もちろん若い世代の社員でも、飲み会に行きたい人がいるかもしれません。その人を見定めるという意味での、日々のやりとりが大事なのだと思います。

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