連載
#58 小さく生まれた赤ちゃんたち
「かわいいね!大きくなったね!」早産児家族が励まされた周囲の言葉
医師が願う「お互いを尊重し合う社会」
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#58 小さく生まれた赤ちゃんたち
医師が願う「お互いを尊重し合う社会」
「かわいいね!」「大きくなったね!」。そんなふうに自分の親が「早産の子」ではなく「普通の子」と変わらず純粋にかわいがってくれたことがうれしかったーー。11月に開かれた世界早産児デーのイベントで、早産児の家族の声が掲示されていました。言葉ひとつで励まされることも、傷ついてしまうこともあります。小児科医が説明した早産児の課題とともに紹介します。
イベントでは、早産児の家族の思いが書かれたパネルが展示されました。
「早産になったことで自責の念が強かったが、出産後、実母が『生まれてきてくれてありがとう』と子どもに言っていたのを聞いた時、いつもはあまり笑わない実父がにこにこした顔で抱っこしていたのを見た時、うれしかった」
「自分の親が『かわいいね!本当にかわいい。大きくなったね!すごい成長してるね』と『早産の子』ではなく『普通の子』と変わらず『とにかく可愛い』と純粋にかわいがってくれたことがうれしかった」
「風邪で受診した際、重症化しないか心配でしたが、『こんなに小さく生まれて頑張っててすごいね』と娘の頑張りを褒めてから、検査してもらえたことがうれしかったです」
多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)に生まれます。妊娠22~36週で生まれると「早産」となり、日本ではおよそ20人に1人が早産児です。
家族は急な早産で気持ちが沈んでしまっても、周囲からの言葉に支えられたり、安心することがあります。
一方で、会場では友人や医療スタッフの何気ない一言に傷ついてしまったという声も紹介されていました。
「知らない人から『小さいねー』といわれることが嫌だった。『かわいいね』などほかの言葉を使ってほしかった。また、『何カ月?』と社交辞令で聞かれるのもつらいです」
「誕生を周りに伝えられなかった。伝えた時の親しい友人は『かなり重い話』として、気まずそうな様子。『出産お疲れさま』と言われ、『おめでとう』と言葉をかけられなかったことが多々ありました」
「知人、友人に『早くママに会いたくて早く生まれてきたんだね』と言われたけれど、早く生まれてはいけないと思っていたし、余計な慰めなしで誕生したことだけを祝ってほしかった」
「出産直後、NICUに連れて行く赤ちゃんの声を代弁して『ママ、頑張ってくるからね』と言ってくれたスタッフがいました。頑張らせてごめんね、つらい思いさせちゃってごめんねと思ってしまい、複雑な気持ちでした」
イベントに登壇した小児科医で日本NICU(新生児集中治療室)家族会機構(JOIN)代表理事の有光威志(たけし)さんは、「私たちの思いは一つ。子どもを救いたい、家族を支えたいということです」と話します。
有光さんによると、世界では年間推定1340万人が早産で生まれていますが、病気のため90万人ほどが亡くなっているそうです。5歳未満の子どもの最大の死因になっているといいます。
一方、日本では1960年代、早産で1000g未満で生まれた赤ちゃんの救命は難しかったものの、医療の進歩によって2000年代以降は多くの小さな命が救われているそうです。
しかし、早く小さく生まれると発達がゆっくりだったり、病気や障害のリスクがあったり、医療的ケアが必要になることもあります。
大人になった後も低身長や低体重のリスクがあるそうです。
また、早産の中では正期産に近い妊娠34~36週で生まれた赤ちゃんも、子どもの頃には勉強についていけなかったり、病気のリスクが高かったりすることが分かってきたといいます。
有光さんは、「周産期医療を受けた子どもとご家族は、成長や発達、将来に様々な不安を抱えながら日々奮闘しています。赤ちゃんが退院した後の人生はさらに長く、社会が支援していくことが非常に重要だと考えています」と指摘します。
「私たち一人ひとり、立場や役割や価値観がありますが、お互いを尊重し合う社会になっていってほしい。私たちのあたたかい心があたたかい人間関係を育み、あたたかい社会につながるのではないかと思っています」と話していました。

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