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名字を変えたくないから事実婚…デメリットは?親権は?弁護士が解説

結婚するとき、夫か妻の名字に統一しなければならないため、事実婚を選んだたかまつななさん。弁護士の三輪記子さんに、事実婚のメリット・デメリットを尋ねると…
結婚するとき、夫か妻の名字に統一しなければならないため、事実婚を選んだたかまつななさん。弁護士の三輪記子さんに、事実婚のメリット・デメリットを尋ねると… 出典: umaruchan4678/stock.adobe.com

結婚はしたいけれど、互いに名字を変えたくない……。そんなカップルもいますが、現在の日本の民法では認められていません。ことし夏に事実婚をした、笑下村塾のたかまつななもそんなひとりで、法律婚ではなく「事実婚」を選びました。離婚や男女トラブルなどさまざまな案件を手がけてきた、弁護士の三輪記子(ふさこ)さんに、事実婚のメリット・デメリットを聞きました。(聞き手:たかまつなな/笑下村塾)

三輪記子(みわ・ふさこ):東京大学法学部を卒業後、立命館大学法科大学院に入学。2009年に司法試験合格、2010年12月弁護士登録。
各種ハラスメント問題や離婚・男女トラブルなどのエキスパートとして活動。2021年3月「三輪記子の法律事務所」開設。
執筆・講演に加えてメ〜テレ「ドデスカ+」、ABC「newsおかえり」、TBS「サンデーモーニング」など番組コメンテーターとしても活躍中。三輪記子の法律事務所HP:https://www.miwafusako.com/

法律婚と事実婚の違い

――三輪さんは男女トラブルを専門にされていると思いますが、事実婚についてのご相談も増えていますか?

増えているというか、ずっと存在していますね。

さまざまな事情で事実婚を選択される方がいますが、事実婚でもトラブルは起こりうるので、当事者の方々からご相談やご依頼があります。法律婚に比べると数は少ないですけれど。
結婚にまつわる法律・制度について、弁護士の三輪記子さん(右)にたかまつななが聞きました
結婚にまつわる法律・制度について、弁護士の三輪記子さん(右)にたかまつななが聞きました 出典: 笑下村塾提供
――選択的夫婦別姓がないから、法律婚をしたいのにできなくて、事実婚を選択している「別姓未婚」の人が約60万人いると言われています。そのことについてどう思いますか?

名前は自分のアイデンティティと密接に関わっているものなので、姓を変えたくないから結婚しないという人が増えているのは、世の中の流れとして当然だと感じます。

【関連記事】夫婦別姓を選べず「結婚待機」58万人 事実婚調査で団体推計

今、いろいろな自治体で婚活を推奨していますよね。婚姻数と出生数にはある程度相関関係があるから、政府や自治体は結婚をさせようとしているのでしょう。

でも、夫婦別姓を選べるようにしないまま、結婚を推奨するのは違うんじゃないかなと思っています。

それに、結婚しないでずっと一人で生きる自由もあります。そういったさまざまな選択肢がある世の中のほうが私はいいと思うんです。

――法律婚と事実婚はどういうところが違いますか?

法律婚の場合は、いろいろな権利が自動的に発生します。仮に法律婚をした翌日にどちらかが交通事故に遭って亡くなったとしても、残された片方の当事者には配偶者としての権利があり、遺産を相続できます。

しかし、事実婚の場合にはそれがありません。法律婚に紐づく相続権の有無は、結構大きな違いだと思います。

――残されたパートナーの家族と相続で争うことになったとき、事実婚だとかなり不利になるんですね。

相続に関しては、そう言えると思います。

ただ、現在日本では同性婚が認められていないので、同性カップルも相続権がなく、同じ状況に置かれていることは、もっと知られてほしいですね。

男女のカップルだったら、法律婚をするかしないか選択できますが、同性カップルはそもそも選択すらできないわけですから。

――同性婚も認められる社会になったほうがいいし、事実婚ももう少し権利を拡充していくといい、ということでしょうか?

事実婚の権利を拡充して選択肢が増えることはいいのですが、難しいんですよね。

同性婚の結婚について、現在の法律婚と違う制度を作ってよいのか、仮に作るとして異性カップルと同性カップルで違う権利設定にするのは差別ではないか、といった議論も起こりえるので、事実婚にどこまで法的効力を与えるのかは難しい問題だと思います。

事実婚、配偶者居住権も親権もない

――ほかにも事実婚にまつわる問題があれば教えてください。

配偶者ではないので、配偶者控除が税制上認められません。

また、相続と似たような状況なのですが、カップルのどちらかが亡くなったとき、残された方が自分の名義ではない家に引き続き住む権利に大きく違いが出てきます。

――それは困りますね。追い出されるケースもあるんですか?

法律上の配偶者であれば引き続き住めますが、事実婚は法律上は他人なので、配偶者居住権は認められません。法律上は追い出されることも起こりえます。

逆に言うと、法律婚にはそれだけ手厚い効果が自動的にくっついてくるということですね。

――事実婚でも引き続き住めるようにする方法はないんですか?

事前に決めて遺言書を書いておけば、可能ではあります。「自分が亡くなったときは、この財産はこの人に遺贈させる」と遺言書に記載することで、第三者に遺贈ができますから。

――事実婚では遺言書を書くことがとても大事なんですね。

相続においては、遺言書があることが本当に大きいと思います。ただ、それぞれが個人で生計を立てられる経済力があるカップルの場合は、そこまでしなくても成立しうるでしょう。

ある意味、事実婚を選択できて困りごとが少ないのは、それぞれが自分で生計を立てられるぐらいのパワーがあるカップルに限られるのかもしれません。

――パートナーの死亡以外のケースではどうでしょうか?

病院によりますが、事実婚の場合は法律上は他人になるので、本人の意識がないときに手術を受けるかどうかといった、医療に関する同意ができないケースも出てくると思います。

また、金融機関によりますが、ペアローンを組めない可能性もあります。法律上の婚姻関係でないと、きちんと支払ってもらえないリスクがあるとみなされるわけですね。

――子どもの親権についてはどうですか?

通常は産んだ人(母)が必ず親権を持ちます。2024年5月に離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選択できるように法律が改正されたので(施行日は2026年4月1日)、結婚をしていたら共同親権になりますが、それも婚姻に紐づいています。

認知をすれば父親にはなれますが、父親であることと親権はイコールではありません。事実婚の場合、産んでいない男性側には認知だけでは親権は発生しません。
出典: 笑下村塾提供

事実婚のメリットと、婚前契約の重要性

――ここまで事実婚のデメリットを伺いましたが、逆に事実婚のメリットは何でしょうか?

事実婚は法律上の婚姻をしていないから、「簡単に別れられるのではないか」という人もいますが、そういう面はあるのかもしれません。

一方で私は、別れるのが簡単な人たちが一緒にいることを選んでいるのが尊いと思います。法律上の縛りがないのに一緒にいることには、より主体性や責任が求められますから。

――仮に片方が別れたいと思ったとき、事実婚は法律婚よりも簡単に別れられるんですか?

決めなくてはならない条件がいろいろありますが、別れることそのものは法律婚に比べて難しくはないといえるでしょう。

しかし、財産分与に際して、片方が「事実婚だった」と言い、もう片方が「事実婚ではなかった」と主張した場合、かなり揉めることになると思います。これは法律婚では生じない問題ですよね。

――一緒に住んでいたことを証明できればいいのでは?

一緒に住むこと(同棲)と事実婚は違います。

法律上の事実婚として認められるには、一般的に「お互いに夫婦として生活する意思があること(婚姻意思)」と「夫婦としての共同生活の実態があること」の2つの要件が必要だとされています。

実際のところ、法的な判断もケースバイケースであり、一緒に住んでいれば必ず事実婚と見なされるわけではありません。だから、財産分与をしたくない側は「同棲していただけ」と言えば、逃げ切れる可能性もあります。
出典: 笑下村塾提供
――いろいろなパターンがあると思いますが、一般的に女性のほうが平均年収が低いので、事実婚のカップルが別れるときに財産分与で女性側が不利になる可能性が高いということでしょうか。

可能性としては大いにあり得ます。それをクリアするのが法律婚ということですね。

――事実婚でも、婚前契約を結んでいればまた違うんですか?

婚前契約を締結しているのといないのではやはり違います。

ただ、事実婚であろうと法律婚であろうと、結婚するときに別れることは想定しませんから、なかなか難しいんですよね。とはいえ、婚前契約を結んでおいたほうが事実婚であることを証明しやすいです。

――婚前契約は、やっぱり男女それぞれ別の弁護士さんをつけて行うのでしょうか?

もちろん。双方の利害が対立するわけですから。交渉にかかる期間はケースバイケースですが、どれだけ短くても数か月はかかると見ておいてください。

うまくいっているときに「別れた場合に財産をどうするか」を話し合うのは複雑な気持ちだと思いますが、揉めてからでは冷静に話し合うことは難しくなってしまうので、事前に検討するほうがいいかもしれないですね。

――婚前契約を結ぶための費用はどのくらいかかるんですか?

弁護士にもよりますし、どの程度のものを作るかによっても変わるので、一概には言えませんが、費用を抑えようと思えば30万円ぐらいからできると思います。

高いと見るか安いと見るかは人それぞれですが一般的に、結婚式に使うお金ほどにはかかりません。結婚式も大事なものですが、事実婚をして生きていく基盤として、さまざまな条件を整えることも大事だと思います。

――単なる同棲ではなく事実婚であることを示すために、挙式をしたり、自治体によってはパートナーシップ制度を利用したりする方もいますが、さらに婚前契約もやっておいたほうがいいんでしょうか?

やっておくと事実婚であることの証明の助けにはなりますよね。そこまでしておいて「結婚する意思がなかった」と説明するのは、通用しづらいです。

言い換えると、婚姻届を出すだけで結婚の証明ができるのは、法律婚の大きなメリットだといえます。

別れたときの法律的なルールも定められているので、それに従っていけばいいわけですから。その意味で、事実婚は誰にでもおすすめできるものではないと思っています。

誰もが自分らしい選択ができる社会に

――私は仕事上、名字を変えたくなかったので事実婚を選びましたが、批判的な意見もありました。

例えば、「名字すら話し合って決められないなら、これから課題を乗り越えられない」「子どもがかわいそう」「結婚を政治利用するな」「姓を変えてビジネスネームを使えばいい(法律婚をすべき)」といった声です。事実婚の社会からの見られ方は、なかなか難しいものがあると感じます。


法律婚のほうが楽といえば楽なんですよね。ただ、私は法律婚をしていて、職務上は旧姓で通しているのですが、戸籍上の氏名が違うことで不利益を受けることは多々あります。

弁護士として裁判の仕事をする際には職務上氏名で問題ありませんが、行政機関への届け出などは戸籍上の氏名で行わないといけないため、とても面倒です。

――三輪さんは事実婚は考えなかったんですか?

実は、事実婚は考えていました。でも、出演などのマネジメントをしている松竹芸能から「テレビなどに出ている人間が法律婚をせずに結婚を報告するのはどうなのか」と言われました。

確かに説明が面倒だし、法律婚のほうが楽だと思って、パートナーにお願いして法律婚をしました。ただ、その時点では、職務上氏名と戸籍上氏名の使い分けがここまで大変だとは思っていませんでした。
出典: 笑下村塾提供
――私の周りには事実婚に反対する人がいなかったのでよかったのですが、地域的に難しいとか、親御さんや親戚の誰かが猛反対したからできなかったという話も聞きます。

誰のための結婚か、という話ですよね。結婚を家のためのものだと考え、事実婚を認められない人もいるのでしょうが、基本的には私は結婚は当事者同士のものだと思っています。

家族もみんな仲良くできればいいけれど、仲良くしなくてもいい家族もいると思うんです。

私たちは古い価値観から少し自由になった社会に生きていて、うまくいかない人からは離れる自由もあることが、もっと知られてほしいです。誰かの我慢や犠牲の上に成り立つ家族って一体何だろうって、私は思います。

――事実婚をしたくて、周りに反対する人がいたら、どう対応するのがいいと思いますか?

反対する人が責任を取ってくれるなら、話を聞いてもいいかもしれません。でも、反対する理由を聞いても、その人に従わなくてもいいんです。人には譲れることと譲れないことがあるし、人と分かり合えないこともあると覚悟して、生きていくしかないと思います。

――最後に、事実婚にするかどうかで悩んでいる方や、これから結婚を考えている方にぜひメッセージをお願いします。

たかまつさんが選択的夫婦別姓の制度がないから法律婚をしなかったように、「パートナーが姓を変えたくない」という理由で事実婚を選択したいというなら、できるだけそれを尊重してあげてほしいと思います。

お互いに、「名前を変えさせることで相手をコントロールできる」というような発想にはならないでほしいです。そもそも、結婚に際してどちらかに名前の変更を強いる今の制度自体に、私は疑問を感じています。

――本当にそうですね。私も、選択的夫婦別姓が一日も早く導入され、誰もが自分らしい選択ができる社会になることを強く願っています。

選択的夫婦別姓を求めている人は、別に他人に別姓を強制したいわけではありません。ただ、「自分の幸せやアイデンティティを認めてほしい」「選択肢がほしい」と言っているだけなんです。私自身も、誰もが自分らしい選択ができる社会になることを願っています。

特に結婚はカップルにとって前向きなステップとなる制度なので、とにかく二人でよく話し合って決めることが大事です。

自由に生きることとわがままであることは違います。事実婚のメリット・デメリットを理解し、パートナーとよく話し合えれば、社会からの圧力やネガティブな評価に負けず、もっと自由に生きていいんだよと伝えたいです。

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