IT・科学
野生動物「さわれる」カフェ 人への傷害や感染症のリスク、実態調査
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ミーアキャットやコツメカワウソ、フクロウ……動物園でしか見かけないような野生動物に、エサをあげたり自由にさわったりできる「野生動物カフェ」。環境保全に取り組む団体が研究者と協力して、そのリスクを調査しました。すると、薬剤耐性菌が検出されたり、人への傷害リスクがあったりするなど、さまざまな問題点が浮かび上がってきたそうです。(朝日新聞withnews編集部・水野梓)
今回の調査を担当し、実際にカフェにも訪れた浅川陽子さんは「無制限に野生動物にさわれる環境があることを再確認しました」と振り返ります。
カフェではカワウソやサル、カピバラ、フクロウ、爬虫類などさまざまな動物が展示されていました。
動物にふれる際には手首にサポーターのようなものをつけて、そこについた微生物を分析しましたが、一部の施設からは腸管出血性大腸菌(16%)・サルモネラ属菌(8%)・薬剤耐性菌(28%)といった病原性細菌が検出されました。
薬剤耐性菌は、抗菌薬(抗生物質)が効きづらかったり効かなくなったりした菌のことで、医療の世界でも大きな問題になっています。
「野生動物カフェは子どもや高齢者、妊婦さんをはじめ、誰でも来店できる場所です。ショッピングセンターの中など身近な場所にもあります。しかし、こういったリスクがあるということは多くの人に知られていないのではないでしょうか」と指摘します。
「しかもお客さんは、動物にさわることを目的に来店します。ほとんどの店舗で動物にふれる前には『消毒してください』と案内がありましたが、動物に触れた後にそうした指導をする店舗は多くありませんでした。そのまま買い物や食事に行くケースもあるのではないでしょうか」と話します。
感染予防には、動物との接触後に手洗いをすることが欠かせず、手指の消毒だけでは不十分だといいます。
消毒液は24施設(96%)が設置していましたが、手洗い場を設置していたのは14施設(56%)にとどまりました。
現状、野生動物カフェを規制する動物愛護管理法(動物愛護法)では、「感染症予防に努めなければならない」というルールはありますが、具体的にどう予防するのかまでは定められていないとのことです。
かまれたりひっかかれたり、接触には高い危険性がある動物を展示していた施設は23施設(92%)ありました。
イギリスの動物園ライセンス法では、動物の特性や危害を与えた場合の被害の大きさから、危険動物のカテゴリーを決めています。コツメカワウソ、ナマケモノ、一部のオオトカゲ、ビントロング、ミーアキャット、一部のフクロウなどがそれにあたります。
野生動物カフェで調査していたところ、お客さんがミーアキャットにエサをあげていて、かまれそうな場面に遭遇することがあったそうです。
スタッフは誰もそばにおらず、素手でエサをあげていた女性は不安そうでした。スタッフにすぐにミーアキャットを返して退店したといいます。
お店には「免責事項」が記されており、「かまれる可能性がある」ことや「接触は自己責任で」といった注意書きがあったそうです。とはいえ「自分がかまれる」前提で訪れるお客さんは多くはないでしょう。
調査全体では、接触方法と傷害リスクの説明をしていたのは半数にあたる12施設(48%)であった一方で、両方とも実施していなかったのは11施設(44%)あったそうです。
また調査では、哺乳類・鳥類・爬虫類など、複数の分類群を同時に扱っていた施設が全体の64%ありました。
浅川さんは、「今回はウイルスの調査はできていませんが、いろいろな動物が一か所に集められ、狭い場所で扱われるということは、ウイルスの変異を高めるリスクが高くなるということでもあります」と話します。
現行の法規制では、野生動物カフェには、1店舗ごとに条件を満たした責任者を置くことになっていますが、スタッフに指導すれば、責任者は24時間いる必要はありません。
浅川さんは「実は動物園と野生動物カフェは、現状では法律上同じ扱いになっています。動物愛護法は、野生動物カフェにおいて自由に野生動物にさわることができる状態を想定していません。現在、動物愛護法の改正が議論されていますが、私たちはこの改正において野生動物との接触に関する規制強化を求めています」と話します。
また、今回調査した25施設では、合計205分類群・1702頭の動物が展示されていましたが、そのうち絶滅のおそれがある国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの動物が459頭(27%)いたそうです。
動物の取引を規制するワシントン条約で保護されている動物も、561頭(33%)展示され、160頭(20%)が販売されていました。
「まずは、事業所が動物への接触時の安全対策をすること、手洗いなどの衛生対策をすること、動物の取引ルートを明らかにすることについて法改正を強く求めたいと思っています。経路が明らかになれば、絶滅のリスクを減らすだけでなく、万が一、感染症クラスターが起きたときにも取引経路を追跡し、感染拡大を防止することができます」と話します。
また、浅川さんは「野生動物をさわって『かわいい』と感じることで、犬や猫と同様に『ペットにしたい』と考えることにもつながってしまうかもしれません。最終的には、種の保全へのリスクについても考えるべきです」と指摘します。
たしかに、長年ヒトと暮らしてきた犬や猫と同様に、ミーアキャットやフクロウ、コツメカワウソに気軽にさわれる環境を経験したら、「自分でも飼ってみたい」と考える人は出てくるかもしれません。実際にカフェでは個体の販売も行われています。
浅川さんは「そうなると、本来の『絶滅の危機』や、その動物が暮らしている環境の問題にはなかなか意識が向かないのではないでしょうか」と言います。
カフェを利用する一般消費者に向けて、「感染症やケガのリスクなどをまず知ってほしいと思います。ふれあいに不向きな動物がいることも踏まえた上で、お店任せにせずに、動物との接触の是非を判断してほしいです」と訴えます。
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