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クマが絶滅した九州、山口から泳いでこないのか?行政現場にジレンマ
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全国各地でクマによる被害が相次いでいます。九州では「絶滅」したとされ、野生のクマはいません。大学時代にヒグマの研究活動をしていた記者は、山口県からクマが渡ってくることはないのか、疑問に思って専門家を取材しました。(朝日新聞記者・中村有紀子)
大学生だった7年前、ヒグマの研究をしていました。北海道の山でヒグマの行動を観察したり、フンを調べたり。その頃は、クマの被害がこれほど深刻になるとは思ってもみませんでした。
私がいま住むのは、クマが絶滅した九州です。野生のクマが最後に見つかったのは1957年で、生息が半世紀以上確認されていないことから、環境省が2012年、「絶滅」と判断しました。
しかし、関門海峡を挟んで向き合う山口では、目撃・痕跡が相次いでいました。クマが山口から渡ってくることはないのか――。そんな疑問を持ち、取材を始めました。
北九州市を歩くと、対岸の下関は、すぐ目の前に見えました。海峡は最狭部で約650メートルです。
ツキノワグマを研究する小池伸介・東京農工大教授(生態学)は「森から関門海峡までが遠い」としてクマが泳いで渡る可能性は低いとしながらも「ポテンシャルはある」と語りました。実際、各地でクマが海を泳ぐ様子が目撃されています。
北九州市も可能性は低いと見ているものの、サイトで注意喚起しています。
取材を進めるなかで、クマをめぐる行政現場のジレンマも知りました。
山口を含む西中国地方の3県ではクマの絶滅が危惧され、20年ほど前に「保護計画」を策定しました。
その後、人の住宅周辺への出没が増えたため、被害防止策にも重きを置いた「管理計画」に転換しました。
ある県の担当者の、「生物多様性の観点からは保護の対象。そのクマが、人的被害をもたらしているという難しさがある」という言葉が印象に残っています。
九州では森林開発などの影響でクマが絶滅したとされます。
一方、北海道・本州では、人口減少や高齢化で里山が荒れるなどして生息域が拡大。市街地で人が襲われるという事態になっています。
人間はクマとどう向き合えばいいのか……。改めて考えさせられました。