連載
#52 小さく生まれた赤ちゃんたち
11月17日は「世界早産児デー」 家族の96%は知っているけれど
早産を経験していない親との認知度に大きな差がありました
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#52 小さく生まれた赤ちゃんたち
早産を経験していない親との認知度に大きな差がありました
11月17日は「世界早産児デー」です。ベビー用品の大手メーカーとNICU(新生児集中治療室)に入院した子どもの家族会が「世界早産児デー」の認知度を調べました。早産児の家族は9割超が知っていましたが、当事者ではない人たちの間では1割にとどまりました。一方、早産児の家族の「力になりたい」と考えている人は7割ほどいたといいます。日本ではおよそ20人に1人の赤ちゃんが早産で生まれています。周囲の人たちにはどんなことができるのでしょうか。
世界早産児デーとは:早産の課題や負担に対する意識を高めるために、2008年にヨーロッパNICU家族会や提携する家族会によって制定された記念日。
多くの赤ちゃんは正期産(妊娠37~41週)で生まれます。妊娠22週から36週までの出産は「早産」といい、日本での割合は5.9%(2024年)です。
赤ちゃんが早く生まれたり体が小さかったりするほど、命の危険や障害、病気のリスクが高くなります。
ベビー用品大手・ピジョン(東京都中央区)と日本NICU家族会機構(JOIN)は早産を経験した家族150人と、早産ではない子どもをもつ25~39歳の既婚男女219人を対象に、2025年6~7月に調査を行いました。
この調査によると、出産や子育てに「不安を感じた」と答えた早産児の家族は96.9%に上りました(「とても不安を感じた」82.4%、「やや不安を感じた」14.5%)。
寄せられた不安の声には、こんな内容がありました。
「早産児に関して産まれる前や直後、そしてその後の成長に関する情報がまとまったサイトがなかなかなく、余計に不安が募った」(妊娠26週6日で誕生した子どもの家族)
「月齢や年齢が上がるにつれて、発育や発達の遅れに不安が増えた。1歳過ぎても歩かなかったり、発語が遅れたりと、周りの子どもが順調に成長していくのをみるにつれ、いつかは追いつけるのかこのまま成長が止まってしまうのかと不安が大きくなった」(妊娠24週4日で誕生した子どもの家族)
不安を感じた時期は「出産~NICU入院開始時」が最も多く、次いで「NICU入院中」でした。
調査では、早産を経験した困りごととして「情報の少なさ」(66.0%)が最も多く「相談できる人や環境がない」(63.5%)と続きました。
また、「周囲の人と接する中で、ストレスを感じたり傷ついたりした経験がある」と答えた人も61.0%いました。
傷ついた経験としては、「急に街中で知らない人から話しかけられ、『かわいそうなくらい小さいわね』と言われた」「自分のお子さんと比べて『同じ学年なのに、全然違いますね』と言われた」など身体的な特徴や発達に触れられることが挙げられていました。
身近な家族の言動からつらい思いをすることもあります。「夫と義姉が、『子どもが生まれたときの写真を義母に見せるとショックを受けるだろうから』と話し合って『見せない』と決めたと聞き、私はショックを与えるような子を産んでしまったのかととてもつらい思いをした」といった声も寄せられました。
一方で、「頑張っているね」「こんな事ができるようになったんだね」という子どもの成長を認めてくれる言葉や、「ほかの子どもたちと同じように」接してもらうことがうれしかったという声がありました。
「他の子どもたちと同じように、普通に接してもらえるのが一番ありがたい」(妊娠27週3日・ 24週4日で誕生した子どもの家族)
「1番頑張っているのは子ども自身なので、周囲から見た子どもの頑張りや成長を褒めて伝えてもらえると励みになる」(妊娠27週1日で誕生した子どもの家族)
「早産児や小さめの赤ちゃんに対しての知識がもっとあったらいいなと思う。みんながみんな正産期に生まれ、大きさがしっかりあるとは限らないことを知ってほしい」(妊娠32週5日で誕生した子どもの家族)
早産を経験していない親への調査では、「早産児家族がどのようなことで悩んでいるか知っているか」と尋ねたところ、「知っている」と答えた人は26.9%(「よく知っている」3.2%、「少し知っている」23.7%)でした。
一方で、早産児家族への支援に関しては、「力になりたい」と答えた人が70.8%(「積極的に力になりたいと思う」11.4%、「できることがあれば力になりたいと思う」59.4%)でした。
自由記述では、「早産児の家庭について知る機会がほぼない。メディア側でもう少し知る機会を増やしてほしい」「何気ない一言で、お母さんがとても傷つくことがあることを社会全体に知ってもらう取り組みが必要」「ショート動画などで短く分かりやすく伝える取り組みが必要」といった声も上がったといいます。
調査結果は、ベビー用品大手・ピジョン(東京都中央区)と日本NICU家族会機構(JOIN)が「世界早産児デー」を前に発表しました。
「『世界早産児デー(11月17日)』をご存じですか?」という質問には、早産児の家族の96.0%が「知っている」と答えたのに対し、早産を経験していない親では12.8%と大きな差がありました。
今回の調査について、ピジョンの担当者は「早産児ご家族の現状や気持ちを知ることで、少しでもお互いのすれ違いや傷つきが減り、みんなで支える社会になってほしいという思いで行いました」と話します。
「世界早産児デー」の認知度に当事者かどうかで大きく開きがあることから、「早産で生まれたことを周囲に伝えないご家族も多くいるのではないかと感じています」と語りました。
「相談したくても言いづらいというハードルがあるのかもしれません。少しでも話しやすく寄り添える社会になってほしいと思います」
一方で、「何かしら力になりたい」と答えた人が7割いたことについて、担当者は「社会にはサポートしたいと思っている方が多くいることが改めて分かり、明るい結果にうれしく思っています」といいます。
調査を担当したJOIN代表理事で小児科医の有光威志(たけし)さんは、早産児の診療にも携わっています。
「出産前からご家族の不安を聞きますし、赤ちゃんの退院後でもご家族が情報を探したり育児教育・支援機関と交渉したりするのが大変だというお話をよく伺います。当事者家族は、孤立感や自己開示の難しさにも悩んでいます」とコメントしています。

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